源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
エコエコアザラク
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エコエコアザラク 1

古賀新一【著】
秋田書店(少年チャンピオンコミックス)刊
1976(昭和51)年3月発行


漫画家の古賀新一氏が亡くなつたといふことで、代表作の登場であります。3月1日に亡くなつてゐたさうですが、公表は半月ほど遅くなつてゐます。最近はかういふのが多いですね。
ドラマでヒロイン・黒井ミサを演じた佐伯日菜子さんも悲しんでゐました。そのドラマでは、ミサの両親役が団時朗・榊原るみの「新マン」コンビでしたが、佐伯さんは自分の顔が団時朗さんに似てゐると言はれて喜んでゐたさうです。ううむ、佐伯日菜子さんは何だかとても好い人だなと感じた次第です。

エコエコアザラク』は1975年から「週刊少年チャンピオン」にて連載された、当時の人気漫画。恐怖・怪奇コミックスであります。さういへばチャンピオンでは、他にも「魔太郎がくる‼」「恐怖新聞」など、怖い漫画が連載されてゐました。ブウムだつたのですかね。
主人公(ヒロイン)は、中学生ながら魔女として一人前の呪術を操る、黒井ミサ。美少女ですが、人の心の暗黒面を暴き、悪事に対しては容赦なく制裁します。人殺しも厭はず、子供さへ殺したことがあるダアクヒロインなのでした。で、ラストでは「エコエコアザラク エコエコザメラク」などと呪文(?)を唱へながら、ホホホと笑ひつつ去つてゆくのです。おお怖い。

ただ連載が進むにつれて、次第に普通の女の子の面が強調されるやうになります。友人と談笑したり、自分が「キャア」と叫んで怖がつたりして、このキャラクタアの変化は残念なのか功を奏したのかよくわかりません。そもそも連載当時のわたくしはまだ頑是ない可愛い子供だつたので、一話一話を只面白がつて読んでゐただけで、あまり深い事は考へてゐませんでした。
作者の訃報をきつかけに再読してみましたが、懐かしさは甦るものの、やはり視覚的グロさに訴へる作品が多く、その点は凡百のホラア漫画と大差ないなと感じます。やはり、黒井ミサのキャラクタアの魅力で読ませる漫画であると再認識いたしました。
古賀氏は亡くなりましたが、本作は多くの映像作品も派生し、黒井ミサは作者の手を離れて今後も読者の中に生き続けることでありませう。





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プレイボール2
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プレイボール2 1 第三の投手の巻

コージィ城倉【著】
ちばあきお【企画・原案】
集英社(ジャンプコミックス)刊
2017(平成29)年8月発行


わたくしの漫画体験は、「ちばあきお」から始まつてをります。ゆゑにその代表作たる「キャプテン」「プレイボール」には、相当の愛着があるのです。
したがつて、コージィ城倉さんが、「プレイボール」の続きを描くといふニュウスを聞いた時には、実に複雑な思ひでした。「もう誰にも触つてほしくないな」といふ気持ちと、「谷口くんのその後がどうなつたか喃」と知りたがる自分がゐました。

しかし「谷口くんのその後」が描かれるのは、実は最初ではありません。以前発表された『ちばあきおのすべて』といふ本の中に、原作七三太朗(ちばさんの弟)・作画高橋広(ちばさんの弟子)による一篇があります。その際、七三太朗氏は、これはあくまでも自分が考へた「谷口のその後」である、ちばあきおがどう考へてゐたのかは今となつては分からないので、正解はないといふ意味のことを述べてゐました。

なある、漫画家の数だけ「谷口くんのその後」があつても不思議はないな、と思ひ直したら、俄然読みたくなつたのであります。
コージィ城倉さんは、執筆するにあたり、「何も足さない、何も引かない」と述べ、ちばあきお世界の継承を宣言しました。
とはいふものの、コージィ城倉さんは独特の世界観を持つひとかどの漫画家でありますから、ちば作品そのままの内容になるとは思へません。これはまがふ方無く、コージィ城倉さんの「著作」であります。

谷口のキャラが変つたとか、井口が大人しいとか、丸井が矢鱈好い奴だとか、イガラシが案外簡単にへばるとか、倉橋が谷口に突つかかるとか、シゴキが異常だとか、金属バットを使はないとか、全体の雰囲気が少々重いとか色色ありますが、やはり続きを読める悦びを味はひたい。
あへて感想を述べると―

井口やイガラシが、「硬球の壁」にぶち当つてゐます。しかし谷口が初めて硬球を扱つた時は、まるでそんな壁は感じませんでした。精精、フリーバッティングで芯を外したときに、手が痺れたくらゐのものです。それを考へると、実力者の井口・イガラシがここまで苦戦するのは不自然だな。
谷口が猛特訓でナインをしごくのは以前からありましたが、そこへ至るまでに、谷口くんは相当悩みます。そしてそれは明確な目的が周知されてゐるので、読者も安心でした。しかしここでの谷口くんは、ちよつと読者を置いてけ堀にしがちですな。

しかし、第2巻を待つわたくしがここにゐます。今後の展開がどうなるか、やはり愉しみであると申せませう。



こちら葛飾区亀有公園前派出所
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こちら葛飾区亀有公園前派出所〈全200巻〉

秋本治【著】
集英社(ジャンプコミックス)刊
1977(昭和52)年7月発行

昨年9月、単行本200巻の発売と同時にその連載を終了した、国民的漫画。なぜ今頃ここに登場するのでせうか。
わたくしは幼少時代、「少年ジャンプ」を愛読してをり、「こち亀」連載開始から読んでゐます。その後「ジャンプ」購読はやめ、「こち亀」は単行本が出たら買ふのみとなりました。さらにその後、単行本も買ふのをやめてしまひ、我が家の「こち亀」は長らく168巻でストップしてゐました。
そこへ連載終了の一報が。慌てて本屋へ行き169巻以降を揃へ、最近になつて200巻まですべて読んだといふ次第であります。ところで190巻以降がやたらと分厚くなつてゐて吃驚しました。この頃から200巻完結を想定して調整してゐたのでせうか。

「こち亀」は40年間、一度の休載もなく連載を続けたと言ひます。これは驚異的な事ですね。まあ長い連載の中では、「何だか最近つまらないな」と思ふ時期もありました。しかししばらくすると「オヤまた面白くなつてきたぞ」と、浮沈を繰り返しながら目出度くゴオルに辿り着いた訳です。
毎週当然のやうに「ジャンプ」で暴れてゐた両さんが突然消える。読者は心に空洞ができたやうな心持になるさうです。「亀ロス」などと申してゐました。何にでもロスを付ければ良いつてもんぢやないですね。
ロスで思ひ出しましたが、去年のノーベル文学賞はフィリップ・ロスを予想してゐました。しかし実際に受賞したのは、ボブ・ディラン。まあこの人も数年前から下馬評に上がつてゐたので意外ではありませんでしたが、これを機に勘違ひするミュージシャンが出て来ないかが危惧されるのであります。

まあそんなことはどうでもいい。肝心の最終回ですが、単行本と「ジャンプ」で同時進行、しかも最後のオチが両者で異なるといふ、両さん曰く「これは両方買ってもらういやらしい商法です」。
単行本のオチはね......ご存知の方も多いでせうが、40年200巻の最後にしては、ちよつとこれは無いよといふものでした。一方「ジャンプ」のそれは、大団円といふ感じで、読者に感謝を伝へてゐました。まさかの星逃田まで。初期の有力メンバーだつた戸塚金次は、結局最後まで陽の目を見ないままでした。隠れファンが多いと思ふのですがね。両さんとキャラがかぶるからといふ理由で出番がなくなりましたが、他に理由があるんぢやないかと疑ひたくなるほどの冷遇ぶりでした。

まあそれも全て終りました。秋本氏としては、いつまでもこち亀に拘束されてゐると、他にやりたい仕事が出来ないと考へたのでせうか。実際、新作構想を色色と表明してゐますね。個人的にはミスタークリスの復活に期待してゐます。
デハ今日はこんなところで。左様なら。



ミッドナイト
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ミッドナイト<全4巻>

手塚治虫【著】
秋田書店(秋田文庫)刊
1998(平成10)年2月発行(第1巻)

8月5日のタクシーの日に合せて『ミッドナイト』を登場させやうとしたのですが、既に4日も過ぎてゐましたね。相変らずにすいわたくしであります。

ミッドナイトは、その名の通り深夜専門のタクシー運転手。本名は三戸真也で、これまた深夜にかけてゐるのでせうか。
夜の帳がおりる頃現れ、夜明けとともに去つてゆく。タクシー会社に属さず、個人タクシーでもない、無認可の営業、即ちモグリのタクシーなのであります。
元は暴走族でしたが、恋人のマリが交通事故により脳死状態となつてしまひ、その治療費を稼ぐためにタクシー運転手に転身したといふ経歴。そのせいかぶつきらばうで、ガサツな性格、口は悪く近距離の乗客をゴミ呼ばはり、乗車拒否は当り前なのです。
何だ、いいとこ無いぢやん、こんな主人公で感情移入出来るの?と思ふかも知れませんが、根は善人なのです。といふか、底抜けのお人よしであります。そして、何よりも「命」を大切にする青年。

一話読み切り形式ですが、毎回冒頭に「夜はいろいろな 顔をもっている その顔を ひとつひとつ のぞいていく男がいる その名を ミッドナイト」といふ文章が入ります。ドラマでいふと、ナレーションですかな。
その夜の顔をのぞくミッドナイトは、ワケアリの客を乗せ、その身の上を知るが最後、知らんぷり出来ぬのであります。そのせいで危険な目に遭つたり、大変なとばつちりを被ることもしばしばなのです。
やりきれぬ最後になることもあれば、心温まる結末に気持ちよく夜明けとともに去ることも。

実は手塚治虫作品はどちらかといふと苦手な方なのですが(どうも神格化されるやうな人は敬遠したいタチです)、『ブラック・ジャックBJ)』は昔から好きで、BJ好きなら必ず気に入ると言はれて読んだのですが、全くその通りでした。さういへばBJ本人もこの漫画に何回か登場します。初登場時の、このふたりのやり取りが面白い。

ミッドナイト「金でなんでもやってくれる先生ってあんたですか」
ブラック・ジャック「金さえ積みゃなんでもなおしてくれると思い込んでるバカはお前さんかい」

まるでBJ外伝版みたいな雰囲気さへ漂ふのであります。

そして衝撃の最終回。あまりにショッキングな展開の為、「チャンピオン」連載時や、最初の単行本(チャンピオンコミックス版)では掲載が見送られたさうです。勿論ここで取り上げる秋田文庫版では収録されてゐます。ここでもBJが大活躍しますが、なるほどこれでは賛否両論といふか、当時としては否の意見が多くなつたのではないかと推察されます。まあ、今となつては、これもありかなとは思ひますが、リアルタイムで読んでゐた読者にとつては、やはりイムパクトが強すぎると申せませう。

数多くの有名作品を有する手塚治虫氏にとつては、小品に属するかも知れませんが、もし古本屋ででも見かけたら、読んでやつてくださいな。ではまた。



なぜか笑介
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なぜか笑介<全29巻>

聖日出夫【著】
小学館(ビッグコミックス)刊
1984(昭和59)年1月発行(第1巻)

先月、その逝去が報道された聖日出夫さん。
記事によると、死因は胃癌、享年69ださうです。まだ若いのに。三年半も闘病生活を続けての末、亡くなつたといふことで、さぞ苦しんだのではと想像されます。同じく胃弱のわたくしとしても、他人事ではございません。出来れば苦しまずにポックリと逝きたいものですが、普段の素行がよろしくないので、七転八倒の苦しみの末くたばるのかも知れません。

聖日出夫さんの代表作といへば、『なぜか笑介』。「ビッグコミックスピリッツ」にて長年連載された、サラリーマン漫画であります。
主な登場人物は以下の通り。

主人公の大原笑介くんは、「三流私大」出身ながら、一流企業の「五井物産」に入社した新入社員。配属されたのは食品3課。
いつもカリカリしてゐる森川課長。私大出ゆゑに、その実力に比して出世が遅れてゐるといはれてゐます。息子とは、進路についてもめてゐるやうです。
なぜかオネエ言葉の高山係長。おちやらけキャラかと思ひきや、仕事はデキル人です。笑介くんには常に毒舌で厳しく接しますが、愛情が感じられます。
才色兼備の花園さん。仕事のみならずプライベートでも頼りになるスーパー女性であります。
28歳、メタボ体型の先輩、岩田くん。言ひたいことは遠慮なく言ふ性格で、衝突も多いですが、根は真面目。中日ファン。
同期の吉村くんはエリート街道を歩みさうな雰囲気、同じく同期の加藤くんは熱血漢。
他に杉さんといふ女性がゐますが、いまいちキャラクタアが分かりません。
そして人事課の泉今日子さん。美人。一歩下がって男性を立てる、古風な女性といふ印象がありますが、第一巻では、例へ彼女がゐても笑介くんを奪ふわ、などと真に積極的な面を見せます。後に目出度く笑介くんと結婚するのでした。

単行本の表紙には「新入社員マニュアル」とあります。むろんこれは所謂バブル期を背景にしてゐます。努力すれば結果が出た時代。よもや現在のフレッシュマン諸君が笑介くんの真似をするとは思ひませんが、さうかと言つてこの漫画は全く過去の遺物なのかと問はれると、首肯できかねます。人間は数十年程度では、さう変化するものではありますまい。
笑介くんの失敗を笑ひながら、きつと自分の立場に重ね合はせながら読むんぢやないですかね。そして上司に突込まれたら、心の中で「ズッ」とずつこけるのが、正しい反応と申せませう。

笑介シリーズは、この後『だから笑介』『社長大原笑介』と続きますが、作者の逝去により、もう新作の笑介は読めません。まことに寂しいのであります。
さやうなら、そしてありがたう。聖日出夫さん、大原笑介くん。