源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
こちら葛飾区亀有公園前派出所
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こちら葛飾区亀有公園前派出所〈全200巻〉

秋本治【著】
集英社(ジャンプコミックス)刊
1977(昭和52)年7月発行

昨年9月、単行本200巻の発売と同時にその連載を終了した、国民的漫画。なぜ今頃ここに登場するのでせうか。
わたくしは幼少時代、「少年ジャンプ」を愛読してをり、「こち亀」連載開始から読んでゐます。その後「ジャンプ」購読はやめ、「こち亀」は単行本が出たら買ふのみとなりました。さらにその後、単行本も買ふのをやめてしまひ、我が家の「こち亀」は長らく168巻でストップしてゐました。
そこへ連載終了の一報が。慌てて本屋へ行き169巻以降を揃へ、最近になつて200巻まですべて読んだといふ次第であります。ところで190巻以降がやたらと分厚くなつてゐて吃驚しました。この頃から200巻完結を想定して調整してゐたのでせうか。

「こち亀」は40年間、一度の休載もなく連載を続けたと言ひます。これは驚異的な事ですね。まあ長い連載の中では、「何だか最近つまらないな」と思ふ時期もありました。しかししばらくすると「オヤまた面白くなつてきたぞ」と、浮沈を繰り返しながら目出度くゴオルに辿り着いた訳です。
毎週当然のやうに「ジャンプ」で暴れてゐた両さんが突然消える。読者は心に空洞ができたやうな心持になるさうです。「亀ロス」などと申してゐました。何にでもロスを付ければ良いつてもんぢやないですね。
ロスで思ひ出しましたが、去年のノーベル文学賞はフィリップ・ロスを予想してゐました。しかし実際に受賞したのは、ボブ・ディラン。まあこの人も数年前から下馬評に上がつてゐたので意外ではありませんでしたが、これを機に勘違ひするミュージシャンが出て来ないかが危惧されるのであります。

まあそんなことはどうでもいい。肝心の最終回ですが、単行本と「ジャンプ」で同時進行、しかも最後のオチが両者で異なるといふ、両さん曰く「これは両方買ってもらういやらしい商法です」。
単行本のオチはね......ご存知の方も多いでせうが、40年200巻の最後にしては、ちよつとこれは無いよといふものでした。一方「ジャンプ」のそれは、大団円といふ感じで、読者に感謝を伝へてゐました。まさかの星逃田まで。初期の有力メンバーだつた戸塚金次は、結局最後まで陽の目を見ないままでした。隠れファンが多いと思ふのですがね。両さんとキャラがかぶるからといふ理由で出番がなくなりましたが、他に理由があるんぢやないかと疑ひたくなるほどの冷遇ぶりでした。

まあそれも全て終りました。秋本氏としては、いつまでもこち亀に拘束されてゐると、他にやりたい仕事が出来ないと考へたのでせうか。実際、新作構想を色色と表明してゐますね。個人的にはミスタークリスの復活に期待してゐます。
デハ今日はこんなところで。左様なら。



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ミッドナイト
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ミッドナイト<全4巻>

手塚治虫【著】
秋田書店(秋田文庫)刊
1998(平成10)年2月発行(第1巻)

8月5日のタクシーの日に合せて『ミッドナイト』を登場させやうとしたのですが、既に4日も過ぎてゐましたね。相変らずにすいわたくしであります。

ミッドナイトは、その名の通り深夜専門のタクシー運転手。本名は三戸真也で、これまた深夜にかけてゐるのでせうか。
夜の帳がおりる頃現れ、夜明けとともに去つてゆく。タクシー会社に属さず、個人タクシーでもない、無認可の営業、即ちモグリのタクシーなのであります。
元は暴走族でしたが、恋人のマリが交通事故により脳死状態となつてしまひ、その治療費を稼ぐためにタクシー運転手に転身したといふ経歴。そのせいかぶつきらばうで、ガサツな性格、口は悪く近距離の乗客をゴミ呼ばはり、乗車拒否は当り前なのです。
何だ、いいとこ無いぢやん、こんな主人公で感情移入出来るの?と思ふかも知れませんが、根は善人なのです。といふか、底抜けのお人よしであります。そして、何よりも「命」を大切にする青年。

一話読み切り形式ですが、毎回冒頭に「夜はいろいろな 顔をもっている その顔を ひとつひとつ のぞいていく男がいる その名を ミッドナイト」といふ文章が入ります。ドラマでいふと、ナレーションですかな。
その夜の顔をのぞくミッドナイトは、ワケアリの客を乗せ、その身の上を知るが最後、知らんぷり出来ぬのであります。そのせいで危険な目に遭つたり、大変なとばつちりを被ることもしばしばなのです。
やりきれぬ最後になることもあれば、心温まる結末に気持ちよく夜明けとともに去ることも。

実は手塚治虫作品はどちらかといふと苦手な方なのですが(どうも神格化されるやうな人は敬遠したいタチです)、『ブラック・ジャックBJ)』は昔から好きで、BJ好きなら必ず気に入ると言はれて読んだのですが、全くその通りでした。さういへばBJ本人もこの漫画に何回か登場します。初登場時の、このふたりのやり取りが面白い。

ミッドナイト「金でなんでもやってくれる先生ってあんたですか」
ブラック・ジャック「金さえ積みゃなんでもなおしてくれると思い込んでるバカはお前さんかい」

まるでBJ外伝版みたいな雰囲気さへ漂ふのであります。

そして衝撃の最終回。あまりにショッキングな展開の為、「チャンピオン」連載時や、最初の単行本(チャンピオンコミックス版)では掲載が見送られたさうです。勿論ここで取り上げる秋田文庫版では収録されてゐます。ここでもBJが大活躍しますが、なるほどこれでは賛否両論といふか、当時としては否の意見が多くなつたのではないかと推察されます。まあ、今となつては、これもありかなとは思ひますが、リアルタイムで読んでゐた読者にとつては、やはりイムパクトが強すぎると申せませう。

数多くの有名作品を有する手塚治虫氏にとつては、小品に属するかも知れませんが、もし古本屋ででも見かけたら、読んでやつてくださいな。ではまた。



なぜか笑介
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なぜか笑介<全29巻>

聖日出夫【著】
小学館(ビッグコミックス)刊
1984(昭和59)年1月発行(第1巻)

先月、その逝去が報道された聖日出夫さん。
記事によると、死因は胃癌、享年69ださうです。まだ若いのに。三年半も闘病生活を続けての末、亡くなつたといふことで、さぞ苦しんだのではと想像されます。同じく胃弱のわたくしとしても、他人事ではございません。出来れば苦しまずにポックリと逝きたいものですが、普段の素行がよろしくないので、七転八倒の苦しみの末くたばるのかも知れません。

聖日出夫さんの代表作といへば、『なぜか笑介』。「ビッグコミックスピリッツ」にて長年連載された、サラリーマン漫画であります。
主な登場人物は以下の通り。

主人公の大原笑介くんは、「三流私大」出身ながら、一流企業の「五井物産」に入社した新入社員。配属されたのは食品3課。
いつもカリカリしてゐる森川課長。私大出ゆゑに、その実力に比して出世が遅れてゐるといはれてゐます。息子とは、進路についてもめてゐるやうです。
なぜかオネエ言葉の高山係長。おちやらけキャラかと思ひきや、仕事はデキル人です。笑介くんには常に毒舌で厳しく接しますが、愛情が感じられます。
才色兼備の花園さん。仕事のみならずプライベートでも頼りになるスーパー女性であります。
28歳、メタボ体型の先輩、岩田くん。言ひたいことは遠慮なく言ふ性格で、衝突も多いですが、根は真面目。中日ファン。
同期の吉村くんはエリート街道を歩みさうな雰囲気、同じく同期の加藤くんは熱血漢。
他に杉さんといふ女性がゐますが、いまいちキャラクタアが分かりません。
そして人事課の泉今日子さん。美人。一歩下がって男性を立てる、古風な女性といふ印象がありますが、第一巻では、例へ彼女がゐても笑介くんを奪ふわ、などと真に積極的な面を見せます。後に目出度く笑介くんと結婚するのでした。

単行本の表紙には「新入社員マニュアル」とあります。むろんこれは所謂バブル期を背景にしてゐます。努力すれば結果が出た時代。よもや現在のフレッシュマン諸君が笑介くんの真似をするとは思ひませんが、さうかと言つてこの漫画は全く過去の遺物なのかと問はれると、首肯できかねます。人間は数十年程度では、さう変化するものではありますまい。
笑介くんの失敗を笑ひながら、きつと自分の立場に重ね合はせながら読むんぢやないですかね。そして上司に突込まれたら、心の中で「ズッ」とずつこけるのが、正しい反応と申せませう。

笑介シリーズは、この後『だから笑介』『社長大原笑介』と続きますが、作者の逝去により、もう新作の笑介は読めません。まことに寂しいのであります。
さやうなら、そしてありがたう。聖日出夫さん、大原笑介くん。



プレイボール
プレイボール (1) (集英社文庫―コミック版)プレイボール (1) (集英社文庫―コミック版)
(1996/05)
ちば あきお

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プレイボール 1
ちばあきお【著】
集英社(集英社文庫コミック版)
1996(平成8)年5月発行


今年の「全国高校野球選手権大会」も大詰めを迎へてまゐりました。参考までに述べると、わが母校は愛知大会(予選)の一回戦で見事コールド負けを喫したのであります。

我が家に配達される新聞紙上では、高校野球を舞台とした漫画や映画の特集が組まれてゐましたが、一見して「何か足りない」と思ひました。
『ドカベン』『タッチ』といつた古典から最近の高校野球漫画まで、そのヒーローと語録が紹介されてゐるのですが、紙面を見てわたくしは、「ちばあきお作品が無いぢやないか」とつぶやいたことですなあ。彼の野球漫画はもう忘れ去られたのか?
寂しく思つたので、一般大衆に注意喚起するといふ重大使命のためにも、ここで『プレイボール』を語りたい。なほ、『キャプテン』は中学野球の話であります。

その『キャプテン』で最初の主人公であつた谷口くんが、墨谷中学を卒業し墨谷高校に進学するのですが、その谷口くんの高校ライフを描いたのが『プレイボール』なのです。

中学時代に指の怪我をしたため、高校に入学しても野球は断念せざるを得なかつた谷口くん。そこへサッカー部のキャプテン相木くんが声をかけます。サッカーならできるだらうと。
持ち前の努力と根性でサッカー部でも頭角を現すのですが、ある事件をきつかけに、相木キャプテンは谷口くんの心がいまだ野球にあることを知り、野球部へ転部させるのであります。代打なら活躍できるだらうと。

しかし谷口くんの執念は、代打屋に終らせなかつたのであります。何と曲がつた指のままで、送球の練習をするのでした。
当初はゴロの送球でしたが、その後ノーバウンド送球にも成功します。
ところが、今度は送球を受ける側の野手が谷口くんの球を捕球できません。みんなポロポロエラーする。なぜか?
実は、指にひつかからないやうに投げてゐたのが原因で、知らず知らずのうちに谷口くんはフォークボールを投げてゐたのです。こんなことがあるのでせうか。(後に指の手術を済ませ、スーパー谷口として生れ変ります)

リーダーとしてのしての谷口くんは、俺について来い式ではないやうです。自分の方針をナインに理解されず、反発を喰らふこともしばしば。しかし谷口くんは、ナインに求める以上の試練を自らに与へ、最後にはみんなの心をひとつにしてしまふのです。さういへば投手の松下くんも「だけど谷口さんてふしぎな人だ...たとえやることがなんであろうと またみんなをひっぱりあげてしまった ふしぎな人だ...」と語つてゐました。

さて、ちば漫画といへば擬音・擬態語。オノマトピア。中でも、打者がマスコットバットと二本重ねて素振りをする時の音「カキ カキ」がわたくしのお気に入り。城東高校との練習試合でそれを満喫できます。

一番山本「がんばれよ墨谷っ...」「まかしとけって カキ カキ」⇒ホームラン
二番太田「たのむぞ太田」「まかしとけって! カキ カキ」⇒サード強襲ヒット
三番倉橋「たのむそ倉橋!」「オウヨ!! カキ カキ」⇒センター越二塁打
四番谷口「たのむぞ谷口!」「(無言)カキ カキ」⇒左中間越二塁打
五番山口「さあつづいていこうよ!」「オウヨ!! カキ カキ」⇒ライト前ヒット、送球間に二塁へ
六番中山「さあ中山さんもつづいてくださいよ」「まかしとけって! カキ カキ」...キリがないですな。

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どらン猫小鉄
どらン猫(こ)小鉄 (アクション・コミックス)どらン猫(こ)小鉄 (アクション・コミックス)
(1992/01)
はるき 悦巳

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どらン猫小鉄
はるき悦巳【著】
双葉社(アクションコミックス)刊
1984(昭和59)年12月発行
1992(平成4)年1月復刊


大物声優の永井一郎さんが亡くなつたといふことで、各地から追悼の声が上がつてをります。
まだまだ元気だと思つたのに、まことに残念なことであります。
巷では波平さんのことばかり話題になりますが、もちろんほかにも多くの名キャラクタアの声を当ててゐます。
その一つが『じゃりン子チエ』に登場する猫の「小鉄」であります。

小鉄は、チエの家の飼猫ですが、人間以上に人間臭い。言葉が通じないことを除けば、大体のことは出来るのであります。魚釣りも野球も出来る猫なのです。喧嘩も滅法強く、あの暴れん坊・テツ(チエの父親)でさへ恐れる存在でした。
そんな小鉄にも知られざる過去がありました。チエちゃんの家に来る前は、「雷蔵」と名乗つてゐたのです。
『どらン猫小鉄』は、その雷蔵時代の武勇伝なのであります。

雷蔵がふらりとたどり着いた、とある猫の町。ここではヤクザ(もちろん、猫ですよ)の抗争が絶えない「三途の猫町」と呼ばれる恐ろしい場所だつた。ここの猫は、会話の語尾に必ず「どってん」か「ばってん」を付けるのが特徴だが、その使ひ分けは難しく、結局雷蔵には最後まで分からなかつた。
対立するヤクザ二派を相打ちさせ、猫町の大掃除を図つた雷蔵だつたが―

とまあ、要するに黒澤監督『用心棒』の猫版ですな。小鉄を求めて、一気に再読したわたくしであります。
さらば小鉄。永井一郎さんには、お疲れ様でしたと申し上げ、寝ることにします...

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