源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
全国私鉄特急の旅
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全国私鉄特急の旅

小川裕夫【著】
平凡社(平凡社新書)刊
2006(平成18)年10月発行


わたくしは毎日のやうに「ラジオ深夜便」の3時台「にっぽんの歌こころの歌」を聴いてゐますが、昨日は鉄道の日記念で、鉄道の歌を特集してゐました。中島みゆき「ホームにて」とか竹内まりや「駅」など、名曲が次々と。
せつかくなので、ここでも鉄道本を。私鉄特急を紹介する本であります。

元元、私鉄特急は、特急の「華」でした。昔の国鉄特急は性能面ではともかく、華やかさといふ点では私鉄に遅れをとつてゐたと存じます。何しろ151系こだま以来、どんな車両もクリーム色に窓枠部分に赤いラインが引かれてゐるものばかりでした。181とか183とか381とか485とか色色形式はあるものの、一般人には全部同じに見えたのでは。

ところが分割民営化以降、私鉄特急への逆襲が始まります。JR各社は、地域ごとの特性を生かした車両を続々と誕生させました。押された私鉄側は、より観光面を前面に出した特急で対抗したのであります。

全国私鉄特急の旅』では、大手私鉄で特急を走らせてゐる14社をとりあげてゐます。テツにはお馴染みの車両をコムパクトに紹介。有料特急に拘らず、京急だの阪急だのの料金不要の特急も登場。
著者は若いフリーライターださうですが、テツではないと述べてゐます。その分、フラットな視点から先入観なく記述がされてゐると感じました。ただ、筋金入りのテツからは不満が漏れるかもしれません。テツではないけれど、少しは興味があるといふくらゐの人が読めば丁度いいかも。

あと、大手私鉄に拘る必要はなかつたと思ひます。「全国私鉄特急」を名乗るなら、有料の優等列車を走らせてゐる、例へば伊豆急行とか大井川鉄道とか長野電鉄とか富山地方鉄道とかも載せれば良いのに。
......と思つたが、さうするとますます一社あたりの頁数が減つてしまふのでこれはこれでいいのですかな。
まあ、そんなところです。ではまた。



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新幹線、国道1号を走る
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新幹線、国道1号を走る
N700系陸送を支える男達の哲学


梅原淳/東良美季【著】
交通新聞社(交通新聞社新書)刊
2009(平成21)年10月発行


車両工場で製造された新幹線電車がJRの工場まで輸送される手段として、実は一般公道を利用して陸送される、といふのは、現在では知る人も多いでせう。テレビの特番でも何度か紹介されてゐます。
在来線の車両ならば、引込線を駆使してそのまま本線上を走ればいいのですが、新幹線の場合、軌道の幅が違ふのでそれは出来ません。で、結局コストその他の条件を勘案した結果、陸路での輸送が選ばれた訳であります。

本書『新幹線、国道1号を走る』では、愛知県豊川市の「日本車輛製造豊川製作所」から、静岡県浜松市の「JR東海浜松工場」までの行程を辿るドキュメントであります。運ばれる車両は取材当時最新鋭の新幹線電車・N700系。請け負ふのは日本通運の精鋭部隊。
第1章ではそのN700系が如何なる車両なのかを紹介してゐます。少し恥かしいくらゐの絶賛ぶりで、まるでJR東海のPR記事みたいです。ま、事実は事実なのでせうが。

第2章では陸送するにあたつての計画といふか、手続きの数々ですね。何しろ一般的に道路交通法では運べない代物であります。
まづ通行ルートの選定のため、道路の測量があります。障害物が有れば事前に対応。背の低い歩道橋を壊し、新幹線を運ぶトレーラーが通れる高さまでの歩道橋に作り直した事もあるさうです。
そして通行許可を得るために、国(国土交通省)や各自治体、愛知・静岡各県警と公安委員会などへの認可申請。まことに大変なのであります。

第3章では実際に陸送を担当する日本通運のメムバアを紹介。皆カッコイイぞ。
第4章で、いよいよ陸送開始。一晩に2両づつしか運べないさうで、16両編成のN700系だと8日に分けての作業となります。これは大変だ。ゆゑにスタッフはしばらく現地のホテル住まひです。

一般道を利用する訳なので、なるべく交通量の少ない深夜(午前一時)に出発します。陸送計画は公表される訳でもないのに、どこからか情報を聞きつけた人たちが蝟集します。まあ野次馬ですな。
編成は、先導者・トレーラー(N700系)・後導車・後方警戒車。幾つかの難関交差点が存在し、野次馬にとつては、最大の見所となります。もちろん経路についても公表されませんが、超大型トレーラーが通れる道となれば大体限定されるので、まあ分かる人には分かるのでせう。

交差点を曲がる時は当然前後左右が通行止めになり、トレーラー前面には舵切りオペレーターとその助手が陣取り、各角に交差点誘導員が控へる。そして輸送指揮者が監督します。彼らの協力を基に、腕利きのヴェテラン運転手が腕を振るふ。接触して傷をつけるなどは以ての外。何度も切り返し切り返し、すれすれに交差点を通過した瞬間には、ギャラリーから拍手が起きるさうです。気持ちは分かりますね。何となく一体感を持つのでせう。

素人考へでは、毎回こんな費用のかかる輸送をするより、新幹線サイズの軌道を新たに建設したらどうかと思ひますが、さうしないといふことは、最終的にこの方式がコストが低いのでせうね。官憲が指揮を執る訳ではなく、利潤を追究する私企業ですので、その辺はシヴィアに考へてゐる筈ですね。

梅原淳氏と東良美季氏の共著となつてゐますが、その執筆分担が記載されてゐません。さういふ点はしつかり記していただきたいと存じます。とはいへ、テツ以外の人も興味深く読める一冊と申せませう。



新幹線 保線ものがたり
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新幹線 保線ものがたり

仁杉巌【監修】
深澤義朗【編著】
山海堂刊
2006(平成18)年2月発行


いやあ読み通すのに時間がかかりました。ツマラナイのではなく、その逆で興味深い内容なのですが、何せ専門的な話が多いので理解するために何度も立ち止つたりしたのです。しかし語り口はソフトで親しみやすいので、何とか最後まで辿り着いたといふ訳です。

監修は元国鉄総裁の故・仁杉巌氏。国鉄の分割民営化をすすめるにあたり、最後の国鉄総裁となるかに思はれましたが、組合対策でうまくいかず、分割民営化に消極的と見做され、時の総理中曽根康弘に更迭されてしまひました(後任は杉浦喬也氏)。
仁杉氏による「序文」では、元来土木系の氏が、「保線」といふ作業について誰かに(一冊の書物に)纏めて欲しいと考へてゐたことが明かされます。その眼鏡に適つたのが、編著者としてクレジットされてゐる深澤義朗氏といふ訳ですな。
「編著」だからこの人が一人で書き上げた訳ではなく、複数の執筆者がゐると推測されます。 しかし「執筆者一覧」みたいなコーナーはなく、不思議なのです。

本文を読むと、それまで漠然と「保線」は縁の下の力持ち的な、地味なものだと思つてゐましたが、実は鉄道運営における基盤といふか、花形部署(と呼ぶには過酷過ぎる現場ですが)であることが分かります。
最も古い東海道新幹線は、基本的に盛土にバラスト軌道、木の枕木であります。つまり在来線と大差無いのでした。この上を、無数の新幹線電車が、16両編成の躯体で駆け抜けるのです。何度も何度も実験を繰り返し(重量、速度、直線とカント部分の相違など、様々な要因の差でダメージの度合いも違ふ)、「軌道破壊理論」を構築する。わたくしのやうな凡人には想像もつかぬ世界であります。

東海道新幹線開業時は、路盤が固まつてゐないといふことで、東京-新大阪間の所要時間は、「ひかり」四時間・「こだま」五時間でした。13か月後に漸く、「ひかり」三時間十分・「こだま」四時間運転を実現したのです。これはテツには良く知られてゐる話。
しかし、その13か月の間に、想像を絶する悪戦苦闘が繰り広げられてゐたのですねえ。
また、閑散時に全面運休した「若返り大作戦」を支へた現場の修羅場など、初めて知る事柄ばかりでした。

頭から通読しやうとすれば、かなりの力瘤が必要となりますので、仁杉氏が語るやうに拾ひ読みでも十分にその真髄に触れることが出来るでせう。一寸高いけどね。



〈図解〉配線で解く「鉄道の不思議」 中部ライン編
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<図解>配線で解く「鉄道の不思議」

中部ライン編


川島令三【著】
講談社(講談社+α文庫)刊
2013(平成25)年1月発行

今度は「中部ライン」を取り上げてゐます。著者によると、中部ラインとは「東京駅を起点に中央線に沿って進み、上信越線、北陸線を経て東京駅にターンするルート」ださうです。

第1章は「発掘・発見!知られざる鉄道 歴史とミステリー」。
川島氏の読者なら、「ウム、この話はどこかで読んだぞ」と思ふ項目が多いかも知れません。それでも、新宿駅の歴史や、北陸線旧線跡の話などは一読の価値はあるでせう。
わたくしも日本の鉄道にはほゞすべて乗つてゐますが(テツぢやないけど)、全ての路線で血眼になつて車窓をチェックしてゐたわけでもなく、当然見逃してゐた箇所も多多ございます。
地元の名鉄や愛環などは、おほむね見所は押さへてゐる心算ですが、それ以外の地域ですと、やはりかういふ書物は助けになるのです。

第2章は「配線図を楽しむ 絶景・名所クローズアップ」。
「美しき新宿駅の配線」によると、新宿駅周辺は超高層ビルが林立してゐるのに、駅を俯瞰できるビルは案外少ないらしい。あつても、一般人は立入禁止の箇所が多いとか。そんな中で、西武新宿駅ビル内にある新宿プリンスホテルは絶景が眺められるのださうです。まあ、態々見に行く機会は無いでせうが。
他には、池袋駅界隈のトレインヴューや八王子駅界隈の鉄道遺構を紹介。首都圏の人達が羨ましくなる一冊と申せませう。

「東海道ライン」と比較すれば、若干内容が薄いか、とも思へますが、それでも一般には解放されない鉄道を紹介したり、立入りできない場所からの写真を多く掲載して、それなりに配慮されてゐます。テツならば一応手元に置いても良いかと存じます。
ぢやあまた。



〈図解〉配線で解く「鉄道の不思議」 東海道ライン編
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〈図解〉配線で解く「鉄道の不思議」

東海道ライン編


川島令三【著】
講談社(講談社+α文庫)刊
2012(平成24)年12月発行



おやこんなシリーズがあつたのかと手に取る。実は「【図説】日本の鉄道」シリーズ」(あのB5の薄い本のシリーズだよ、と言つても分からないか)の別冊を書籍化したものださうです。更にそれを文庫化したのが本書であります。同シリーズを所持する人にとつては紛らわしい一冊ですが、わたくしは購買してゐませんでしたので幸いでした。
第一弾として発表されたのが本書「東海道ライン編」。東海道ラインといふ呼称は著者・川島氏の造語だとか。色々と言葉を創り出す人ですなあ。

3章構成であります。第1章は「駅と配線のミステリー」。東海道を謳ひながら、冒頭に「上野-秋葉原間1.6kmに隠された謎」を持つてきたのは絶妙であります。かういふ書物は、まづ首都圏の読者を惹きつけねばなりません。わたくし自身も秋葉原駅の歴史については無知でした。何しろテツではないのでね。
因みに「愛知の鉄道・舞台裏」「名岐の鉄道」については、地元民だけあつて、わたくしには承知済みの事項でした。

第2章は「知られざる鉄道史」。「東京駅の変遷」「横浜と鉄道」はまさに、日本の鉄道の発祥そのものと申せませう。個人的には「生駒山の壁」が興味深く読めました。近鉄各線が最短距離を通らず、不自然な線形をしてゐる理由が分からうといふものです。

第3章は「配線図を楽しむ 絶景・名所クローズアップ」。「配線図」をダシにした観光案内ですかな。豊橋駅のホテルアソシアからのトレインヴューを紹介するあたりは、流石に川島氏であります。本当に絶景、といふかテツにとつてはいつまでも見飽きない光景なのであります。

講談社の〈図解〉シリーズは、その名に反してあまり図解が目立たぬ本が多かつたのですが、この配線シリーズは文字通り「図解」が活躍し、その名に恥ぢぬ内容であります。カラー頁が多いのもいい。本書の後、「山陽・山陰ライン」「中部ライン」と続き、どうやら配線シリーズで全国制覇するつもりらしい。それも結構ですが、肝心の「大研究」シリーズを早く完結して頂きたいとも思想するわたくしでした。