源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
ゴジラが来る夜に
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ゴジラが来る夜に  「思考をせまる怪獣」の現代史

高橋敏夫【著】
集英社(集英社文庫)刊
1999(平成11)年11月発行


文芸評論家の高橋敏夫氏によるゴジラ論であります。
この方はゴジラは好きだが、ゴジラ映画は嫌ひだといひます。本来ゴジラ映画が示したのは、「怪物が現れた、人間が変れ」といふメッセージを持つた人間世界の否定だつたのだが、後年のそれは、「怪物が現れた、怪物を殺せ」といふ物語に堕してしまつたといふことでせう。
核の恐怖を訴へた第一作のシアリアスさは何処へやら、人間の味方になつてお子様ランチ映画に堕落したと暗に謂つてゐるやうです。

ところで、よく指摘される事に、第5作の「三大怪獣地球最大の決戦」でモスラに説得されてから、ゴジラは善玉になつたといふのがあります(本書にもさういふ記述あり)。しかしそれは違ふとわたくしは思ふのです。映画を観れば分かりますが、ゴジラはモスラに説得されてをりません。
説得に失敗したモスラがやむなく、単身キングギドラに挑む姿を見て、闘争本能に火が付いた結果、ラドンと共にギドラに挑んだのであります。そこには、「人類の為に」などといふ視点は一切ないのであります。
個人的意見としては、ゴジラが正義の味方として描かれてゐるのは、12作目「地球攻撃命令ゴジラ対ガイガン」と、13作目「ゴジラ対メガロ」の二作のみだと存じます。

まあいい。著者は日米によるゴジラ映画競作にも触れてゐます。しかし米国が原爆投下を正当化し続ける限り、納得のいくものは観られないでせう。米国ゴジラでは常に米国は被害者であります。
一方日本の作り手は、ゴジラ映画を作りながら、ゴジラといふ存在を持て余し、「ゴジラといふ存在から逃げ続けてゐる」と指摘します。言はんとすることは分かる。しかし現実には、大森一樹監督が語るやうに「ゴジラのためのゴジラ映画」よりも、「ゴジラといふ稀代のキャラクタアを使つて、どんな映画を撮れるか」と、作り手は考へるやうで。
その意味では、著者はその後も製作され続けたゴジラ映画には不満を抱いたでありませう。実際ゴジラと現代社会を論じながら、そこここに苛立ちを隠せない記述がありますね....

現在は初のアニメ映画化もされ(三部作のうち二作目まで公開)、米国でもシリーズ化(個人的には反対)が決まつてゐます。広がりを持つのは良いですが、肝心の東宝特撮としてのゴジラはどうなつたのでせうか?
「シン・ゴジラ」が予想以上に評判を取つてしまつたので、次の作り手たちは大変でせうね。



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101通りの思いやり
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101通りの思いやり 僕たちの「セプテンバー・フォース」

加山雄三松本めぐみ【著】
徳間書店刊
1994(平成6)年10月発行


若大将こと加山雄三氏の愛船・三代目「光進丸」が焼失・沈没したといふニュウスは衝撃的でした。光進丸は若大将の分身ともいへる存在で、彼はショックのあまり予定されてゐたコンサートも延期したさうです。分かる。しかしその憔悴ぶりは気になるところです。

こんな悲劇に見舞われた若大将に対して、ネット民たちは容赦ない言辞を弄するのであります。
即ち。
曰く「しよせんボンボンの道楽だらう。別に同情は出来ないな。」
曰く「金があるんだから、又買へばいいぢやん、大層に言ふな」
曰く「どうせ保険に入つてゐるのだらう、寧ろ保険金でウハウハぢやね?」

嗚呼、無知とは恐ろしいものよ。少しでも若大将の事を知つてゐれば、かういふ物言ひはあり得ません。初代光進丸から自ら設計をしてきた若大将としては、まるで身内を亡くしたやうなものでせう。
ファンとしては口惜しいばかりなので、せめて著書の一つである『101通りの思いやり』をここで緊急登板させるものであります。
著者名は夫婦連名となつてゐて、夫人の松本めぐみ氏は年齢こそ重ねたものの、「エレキの若大将」にて「わたしは、ドラムのノリコ!」などと自己紹介してゐた頃のキュウトさを今でも残してゐます。この人ゐてこその若大将ですね。

本書は「夫婦」「家族」「自然」などに章分けして、夫々に対する思ひやりといふものを加山流に語るといふ内容。
なほ、彼は結構若い頃から「ヅラ疑惑」が絶えないのですが、これに関しては本人よりも義母(つまり松本めぐみの実母)が悔しがつてゐたさうです。ちやんと世間様にカツラぢやないとアピールせよ、などと主張してゐたとか。

彼は若い頃、自らも役員として名を連ねてゐた会社が倒産した際、当時のお金で23億の負債を背負ひましたが、辛苦の上借金を完済しました。しかしそれはまだ30~40代の若々しい時代。何度も逆境を乗り越えてきた加山氏ですが、さすがに80歳でこの仕打ちはないでせうと切なくなります。
本書を読めば、「世間様」の若大将に対する誤解や偏見がかなり解けるであらうと存じますので、ここで取り上げた次第ですが、まあ誰も読まないだらうなあ。




時の魔法使い
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時の魔法使い

原田知世【著】
角川書店(角川文庫)刊
1984(昭和59)年11月発行


一昨日11月28日は、原田知世さんの50回目の誕生日でした。あの知世ちやんが50歳とは、信じられぬ感じがします。
なぜそんなことを知つてゐるかといふと、彼女がデビュウした頃、わたくしは相当なファンであつたからです。毎年11月28日に出る「バースデイ・アルバム」は必ず購買してゐたものです。

本業の映画も、近所の「グランド中央(現在の「トヨタグランド」。どうでもいい情報ですが)」にて鑑賞したものであります。ただ、当時彼女の映画の併映が、大体薬師丸ひろ子さんの映画で、そちらの方が面白いといふ困つた事態もありました。
ウム、角川三人娘といひながら、①薬師丸ひろ子②原田知世③渡辺典子といふ序列は明らかでした。丁度日活で①石原裕次郎②小林旭③赤木圭一郎の順番で、金と力の入れやうに差が付いてゐたのと同様ですな。

他にも、カレンダーとか写真集とか、入手できるものは概ね購買したものです。そしてエッセイ集を出すとなれば、それも買ひました。それが本書『時の魔法使い』であります。彼女は当時、まだ17歳。
友人たちからは「実際に本人が書いたと思つてゐるの? 商策に乗せられた情けない奴!」などと莫迦にされました。

さういふアイドルの身辺手記なので、まあまともな読書子なら眉を顰め、とても読書の対象となる一冊ではありませんが、まあ好いぢやん。それに、本書で初めて知つたモノもあります。
それは「名古屋の隠れ名物・天むす」の話。今でこそ有名な天むすですが、当時は名古屋でも知らぬ人が多かつた。それを当時の彼女は、名古屋へ行くたびに食すると語り、その味を大絶賛してゐます。いつもお土産に十二個入りを二箱買つてゐたさうです。思ひ出しただけで「なまつばゴクリ」なんだとか。
スーパーとかで普通に売られ始めるのは、その後しばらくしてからなので、先見の明があつたと申せませう。

といふ事で、今回はまことに懐かしい一冊でした。ぢやまた。



壇蜜日記
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壇蜜日記

壇蜜【著】
文藝春秋刊
2014(平成26)年10月発行


わたくしが居住する愛知県豊田市駅前に、来月(2017年11月)本格シネコンがオオプンするのですが、そのこけら落とし上映として、ほぼ全篇豊田市内でのロケを敢行した映画「星めぐりの町」が披露されます(全国公開は2018年1月)。監督は黒土三男氏(豊田市在住)。かつて長渕剛さんの映画や「渋滞」「蝉しぐれ」なんて作品を発表してゐます。
主演は小林稔侍さんですが、その娘役に壇蜜さんがキャスティングされてゐるのです。ああ、好い人だ。
わたくし好みの映画では無ささうですが、壇蜜さんを見に行かうと思つてゐます。

ところで、壇蜜さんの話をすると、男性の反応はおほむねニヤニヤと野卑な笑ひを浮かべ、「君も好きだねえ」みたいな表情を浮かべる人が多い。一方女性はあからさまに眉をひそめ、苦心さんあんなのが好みなの?見損なつたわ、と口にはしませんが、さう言ひたさうな顔を浮かべるのです。何故?

この『壇蜜日記』を読みますと、そんな周囲との偏見と闘つてゐる様子が窺へます。
「とかくこの仕事は道楽のように軽視されやすい」
「魚は、生きていても死んでいても人間の何らかの役には立っている。獣もまたしかり。私はどうだ」
「それ売女じゃないなあ。お金もらってないもの」
「意地悪しなければ意地悪されないという理屈は生憎私の生きてきた世界では通用してはいない」
「そんなに価値のあるタレントじゃないのは分かっています、だけどもう少しだけ褒めたり笑ったり優しくしてもらえないでしょうか......って、となりの人に言えたら」

しかし壇蜜さんは逞しく生きる。熱帯魚を愛で、猫を抱きつつ大相撲中継を見て、コンビニの品揃へを評し、ペンギンでお馴染みの量販店で買物を愉しむ。「壇蜜」を演じなくてもいい瞬間の彼女は、テレビで観るイメエヂとはかなり相違があります。それは、普段偏見を抱いてゐる人が読めば彼女の印象が変るであらう生活ぶりと申せませうか。
その独特の文章と相俟つて、不思議な魅力を醸し出す一冊でございます。

デハデハ。御機嫌よう。



星の林に月の舟
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星の林に月の舟 怪獣に夢みた男たち

実相寺昭雄【著】
筑摩書房(ちくま文庫)刊
1991(平成3)年4月発行


実相寺昭雄氏は今年で生誕80年、没後11年を迎へます。享年69は如何にも早かつたですなあ。
もつともこの人の場合、長寿を全う出来ても自分のやりたい事が出来たかどうか。否、出来たとしても世間に認められたかどうか、わたくしは大いに難しかつたのではないかと想像してゐます。

星の林に月の舟』は、実相寺氏がその名声を確立した「円谷プロダクション」に於ける実録小説であります。即ちフィクションなのですが、氏の実体験を基にしてをり、結構な部分が事実と重なるのでは。登場人物で実名で出るのは「円谷英二」「円谷一」「金城哲夫」くらゐですが、他の人物も実名から想像できる名前になつてゐるので、ウルトラ好き、特撮好きなら容易に分かる仕掛となつてゐます。

実相寺氏自身は「吉良平治」として登場します。彼はKXTVの演出家として活躍してゐましたが、何せ癖の強い人なので万人向けの映像を作りません。美空ひばりの接写をして毛穴やのどちんこまでお茶の間に流してしまふ。それが原因で干されてしまひ、円谷プロへの出向といふ名目で閑職に追はれます。

当時の円谷プロは、丁度「ウルトラQ」の撮影中で、吉良平治も途中から脚本参加しますが、カネがかかり過ぎるといふ理由でボツになります。続く「ウルトラマン」「ウルトラセブン」では主に演出を担当。現在も語り草になつてゐる異色作を連発します。
ただ彼の嗜好は、円谷英二の理想から随分離れたところにありました。円谷英二は、子供に夢を与へる、美しいものを作りたいと日々考へてゐました。現実を写すリアリズムは、他の人が勝手にやるから、態々円谷がやる必要はない。だから怪獣も恐ろし気ながらどこか愛嬌の感じられる造形になります。流血などは以ての外。

ところが実相寺氏の嗜好は「生理的な嫌悪感を催す、気持ち悪いもの」「お茶の間が凍り付くやうな、鳥肌の立つやうなもの」であります。発注した怪獣「ガマクジラ」や「シーボーズ」などが、実際の造形が自分の意図したものとは程遠いものとなつたと文句を言つてゐますが、これは当然の事です。円谷英二の意図を完全に把握してゐる高山良策だから、あのぬいぐるみになりました。
従つて実相寺昭雄の代表作を「ウルトラマン」としたり、「ウルトラマン」を象徴する存在として実相寺氏を取り上げるのは、全くの的外れと申せませう。

何だかネガチブな事ばかり述べましたが、本書は当時のテレビ界、芸能界の空気を良く伝へてゐて興味深い一冊であります。「怪獣に夢みた男たち」の本音のぶつけ合ひも熱い。現在、撮影現場でかかる事をしてゐたら到底商売にならないだらうな、と想像させます。
ところで、「可能幸子」のモデルはゐるのでせうか。また、スクリプター「戸倉則子」のモデルは宍倉徳子さんですか?