源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
クロサワさーん!
クロサワさーん!―黒沢明との素晴らしき日々 (新潮文庫)クロサワさーん!―黒沢明との素晴らしき日々 (新潮文庫)
(2002/03)
土屋 嘉男

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クロサワさーん!―黒澤明との素晴らしき日々―

土屋嘉男【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2002(平成14)年4月発行



著者の土屋嘉男さんは、いはゆる「黒澤組」の名バイプレイヤーと呼ばれる俳優です。
黒澤監督の自宅に居候した経験さへあるさうですから、おそらく公私とも、最も行動を共にした一人でせう。土屋氏しか知らないであらう話が盛り沢山であります。うーん、さすがに黒澤監督、天皇と呼ばれただけありますね。その専横ぶりはすさまじい。
同じく黒澤映画の常連役者、たとへば志村喬さんや三船敏郎さんの知られざる一面も描かれてゐて面白い。土屋氏によると、三船敏郎の酒癖の悪さは相当酷い。草彅剛さんなどは、かはいいものです。

ところで、実をいふと私は黒澤映画の良い鑑賞者ではありません。
では、なぜ本書をとりあげるのか。

唐突ですが、昨日俳優の中丸忠雄さんの訃報に接し、涙してをりました(少しおほげさ)。
俳優が亡くなると、生前出演してゐた映画をDVDソフトなどで「追悼上映」する習慣が私にはあります。
中丸氏の場合、『独立愚連隊』でも良いのですが、ここはやはり『電送人間』だな、といふことで観てゐたわけです。
DVDには中丸氏本人のオーディオコメンタリーが特典として付されてゐて、それによると『ガス人間第1号』にも出演依頼があつたとか。
しかしそれを断つてしまひ、結果土屋嘉男氏がガス人間になつたといふことですな。
つまり土屋嘉男さんは私の大好きな役者の一人なので、ここに本書を紹介するわけであります。まことに短絡的と申せませう。

とはいへ、この『クロサワさーん!』は面白い。土屋嘉男さんの文章も上手いです。映画好きの人にはおすすめなのです。

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時刻表2万キロ
時刻表2万キロ (角川文庫 (5904))時刻表2万キロ (角川文庫 (5904))
(1984/11)
宮脇 俊三

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時刻表2万キロ

宮脇俊三【著】
角川書店(角川文庫)刊
1984(昭和59)年11月発行



JTBの「時刻表」が創刊から通算1000号を迎へたさうです。月刊誌なので、1年に12冊しか発行されません。それで1000号ですよ。大したものですなあ。
さういふ「時刻表」ですから、古くから多くの愛読者がゐました。

宮脇俊三さんもその一人で、時刻表の最新号が発売されると、その晩は何時間も読み耽る、と書いてゐます。そして読むだけでは飽き足らず、実際に「時刻表に乗る」ための旅を長年続け、つひには当時の国鉄全線を乗りつぶしてしまつたといふことです。

本書は、その体験を綴つたノンフィクションでありますが、鉄道マニヤの自慢話ではありません。むしろ「児戯に類する行為」などと卑下し、すべてに控へ目で、抑制が効いてをります。万人に薦められる文章と申せませう。

その宮脇さんが逝つて早6年。現在では知識の豊富なライターが数多く活躍してゐますが、情報中心に偏する印象があり、いったんダイヤ改正があれば、たちまち存在価値を失ふ文章が案外多いのです。
文章自体の魅力で読ませる、宮脇さんを継ぐ紀行作家はもう現れないのでせうか...

私は忘れない
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私は忘れない

有吉佐和子【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1969(昭和44)年11月発行



新人女優・門万里子は失意の中、離島「黒島」へ旅立つ。
そこで目にしたものは、あまりにも悲惨な生活環境だつた―

この小説が発表されたのは、文庫版発売から10年さかのぼる昭和34年のことださうです。
以来有吉佐和子さんは、離島は重要なテーマの一つになつたやうで、その後も小説『海暗』、ルポルタージュ『日本の島々、昔と今。』などを発表してゐます。特に若い方におすすめです。
本書に感銘を受け、実際に黒島を訪れる人も多いとか。大したバイタリティであります。

私の場合は、離島と言へば「篠島」「日間賀島」(共に愛知県)へ行つたくらいかな...
いや、さう言へば「安芸の宮島」へ行きました(あれも離島ですよね?)
JR宮島駅(港?)の前で菓子パンを食べてゐた時、ふと振り返りますと、すぐ近くに鹿が接近してゐて大層仰天しました...

坊ちゃん重役
坊ちゃん重役 (1959年) (春陽文庫)坊ちゃん重役 (1959年) (春陽文庫)
(1959/11)
中野 実

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坊ちゃん重役

中野実【著】
春陽堂書店(春陽文庫)刊
1959(昭和34)年11月発行


かつては、「ユーモア小説」といふジャンルが厳然として存在してゐました。「ユウモワ小説」などと表記されたりして、見ただけでほのぼのとしますね。
徹底した庶民目線で書かれ、また善玉と悪役は見事なまでにはつきりと区別され、そして必ず勧善懲悪で大団円、といつたところが特徴でせうか。

あまりに牧歌的で、現代人の鑑賞に堪へうるものなのか、まあその辺は返答に窮しますが、昭和20年代後半から30年代にかけて、例へば佐々木邦や源氏鶏太といつた大物を中心に大量に読まれてゐたのであります。
本書の著者中野実も多くのユーモア小説を書きました(本作は戦前の執筆ですが)。「坊ちゃん重役」は代表作のひとつではないでせうか。
快男児が企業内で活躍するお決まりの設定で、一般の評価もほとんどされないと思ひますが、個人的な思ひがあり特にとりあげた次第であります。

時代を感じさせるギャグ(?)があつたので、ひとつ。
登場人物の会話で、ある人物を評するのに「あいつは、やけこえてるからな」といふ発言が。聞かされた相手は何のことか分からずきよとんとしてゐると、「やまけふこえて、の『ま』と『ふ』が抜けてる。つまり間抜けと腑抜けだ」...