源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
さよならゲンスブール
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さよならゲンスブール―パリ発ポップス社会学
永瀧達治【著】
共同通信社刊
1992(平成4)12月発行


カンヌ国際映画祭にて、シャルロット・ゲンスブールが女優賞を受賞したさうですね。かなり過激な演技を披露したとか。この女優の名を聞くと、どうしても父親たるセルジュ・ゲンスブールを思はずにはゐられません。
タイトルは「さよならゲンスブール」ですが、副題に「パリ発ポップス社会学」とあるやうに、執筆当時(1980年代)に活躍してゐたアーチスト達を紹介してゐます。
永瀧達治さんは、以前から音楽を通じてフランスの様々な姿を私たちに伝へてゐます。私が高校生の頃、英語圏以外の音楽情報は極めて少なく、フランスの音楽事情を知るために、FM放送で永田文夫さんや永瀧さんの番組を熱心に聴いてゐました。

高校生にとつてゲンスブールは、かなり毒が強い。ボリス・ヴィアンも同様ですが、カブレやすいのです。私もどつぷりはまりました。永瀧氏は、さういふ若者にも警鐘を鳴らしてゐるのです。
「育ちの良いフランスかぶれのおぼっちゃまがゲンスブールを気取って酒と煙草に溺れることのないように」と、表面上の行為のみゲンスブールを真似て得意になつてゐる奴らに警告を発してゐます。
私も当時を思ひ出すと、恥づかしい行為をいろいろしてゐたなあ...

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うたかたの日々
うたかたの日々 (ハヤカワepi文庫)うたかたの日々 (ハヤカワepi文庫)
(2002/01)
ボリス ヴィアン

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うたかたの日々
ボリス・ヴィアン【著】
伊東守男【訳】
早川書房(ハヤカワepi文庫)刊
2002(平成14)年1月発行


卒論のテーマがボリス・ヴィアンでした。そのタイトルは「ボリス・ヴィアン」。丸谷才一氏の卒論タイトルが「ジェイムズ・ジョイス」であることを知り、真似をしたのであります。大それた奴です。
本書は「日々の泡」といふ邦題でも知られてゐます。こちらの方がより原題に忠実な訳と言へませう。(仏題L'ecume des jours)
裕福な生活を送る若者コランは、一目惚れした娘クロエと結婚しますが、クロエは肺に睡蓮が咲く病気に犯されてしまふのです。この二人の純愛物語を中心に話が進みますが、他にもコランの友人であるシック(お金に困つてゐる)とニコラ(コランに料理番として雇われてゐる)に、それぞれアリーズとイジスといふ恋人がゐて、都合3組のカップルが登場します。
そしてクロエの発病以降、この3組は悲劇的な結末にまつしぐらに向つてしまふのです。ああ。
まことに残酷な、切ない恋愛小説となつてゐます。
この早川書房の全集版は入手しにくいですが、ハヤカワ文庫版が出てゐるので、ぜひ読んでみてください。新潮文庫の『日々の泡』(訳・曾根元吉)も同じものです。

実はこの小説、日本でも映画化されてゐるのですね。私は観てないけど。
設定を日本に移して、登場人物も日本人ばかりですが、ヒロインの名前だけ「クロエ」と原作通りになつてゐる。そして演じるのはともさかりえさんだといふことです。どうなつてゐるのか。釈然としませんが、観てゐないので云々いふのはやめませう。
ではさやうなら。

近世大関物語
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近世大関物語
出羽海秀光/高永武敏【著】
恒文社刊
1981(昭和56)年発行


日馬富士の初優勝で盛り上がつた夏場所。一方、千代大海はやつとのことで角番を脱出。同じ大関でずいぶん違ふものです。
大関といへば横綱と並ぶ看板力士の筈ですが、なぜか物寂しい響きがあります。本書を一読しますと、ますますその感を強くするのであつた。
第一部と第二部に分かれる構成になつてゐます。第一部の著者出羽海秀光氏は、現在の出羽海親方ではなく、元横綱常ノ花の先先先代出羽海で、初版は1957(昭和32)年となつてゐます。
第二部はライターの高永氏が加筆し、改めて1981(昭和56)年に「共著」として出版されたものであります。

「あとがき」で高永氏も述べてゐますが、元横綱が書いた内容と、ライターが書いた内容では視点が角界の内外の立場で異なり、書き方が違ふのが面白い。
出羽海親方は先輩としての立場で執筆してゐます。素質を持ちながら、つひに横綱の夢ならなかつた悲運を愛情こめて語ります。特に大ノ里、清水川、名寄岩などには思ひ入れが強いやうです。
高永氏は評論家だけあつて、結構皮肉を交へて辛口であります。稽古嫌ひの若羽黒、無気力相撲の前の山などには容赦がありません。それでも栃光(先代)、貴ノ花(先代)、魁傑など愚直さが却つて仇となつた部分がある大関たちには暖かい視線を向けてゐるやうです。

第二部は増位山大志郎(二代)で終つてゐます。それから28年が経つた現在、誰かが第三部を書いてくれないかなと思ひます。琴風、朝潮(五代)、霧島、小錦、北天佑、若島津、貴ノ浪、出島、千代大海、雅山、武双山、魁皇、栃東(二代)、琴欧洲、琴光喜、日馬富士...続々と大関が誕生してゐます。言はば「つひに横綱にはなれなかつた男たちの物語」が我々の胸を打つのでせう(現役大関、失礼!)。

ヴェニスの商人
ヴェニスの商人 (新潮文庫)ヴェニスの商人 (新潮文庫)
(1967/11/01)
シェイクスピア

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ヴェニスの商人
ウィリアム・シェイクスピア【著】
福田恆存【訳】
新潮社(新潮文庫)刊
1967(昭和42)年発行


中央大学の教授をなにした犯人が捕まつたさうです。良く分からぬが、教授に不満を抱いてゐたといふ話であります。逆恨みとは怪しからぬ。今後調べが進めば、より動機がはつきりするのでせう。
翻つて自分の学生時代、自らの怠惰な学習態度を思ひ起す時、担当教授に申し訳なかつたなあ、などと考へます。
ある時、フランス文学の先生が、「散文詩」についてのレポートを提出せよ、と我々に課題を出したことがあります。仏文学のレポートにもかかはらず、散文詩なら何でもいいだらうと私は沙翁の作品を論じたレポートを呈してしまひました。これはひどいですね。この時先生は何も言はなかつたが、その後2年ほど経過した頃に、突然この件を難詰されたものであります。当時いかにシェイクスピアを愛読してゐたかが分かります。

さて、ポーシャは法廷にて、男装の若い法学士として登場します。悪役シャイロックは、借金のカタに債権者の胸肉1ポンドを要求してゐますが、ポーシャは「それを許す」と認めます。シャイロックはポーシャを自分の味方と思ひ「名判官ダニエル様の再来だ」などと言つたりします。ところがポーシャは、「肉を切つても良いけど、血は一滴も流すなよ」と無茶なことを述べるのです。一休さんでも無理でせう。裁判員制度が開始されますが、一般市民でもさすがにかうは申すまい。
シャイロックは踏んだり蹴つたりの結末を迎へますが、その存在感から本作を「シャイロックが主役の悲劇作品」と論ずる人もゐるとか。それはちよつと...違ふよね。

鉄道の音
鉄道の音 (アスキー新書)鉄道の音 (アスキー新書)
(2009/03/10)
向谷 実

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鉄道の音
向谷実【著】
アスキー・メディアワークス刊(アスキー新書)
2009(平成21)年3月発行


「モンド21」といふCSチャンネルで、「鉄道マニア倶楽部」なる番組がありました。(今もリピート放送してゐるやうです。)
鉄道アナリストの川島令三さんと、本書の著者向谷実さんが出演するメイニアックな番組です。私は元々川島さんを目当てに視聴してゐたのですが、向谷さんの言動が面白い! そして実に鉄道知識が豊富で驚きました。また、ゲームソフト「Train Simulator」の制作者といふことも知り、2度びつくりしたものであります。私は以前「Train Simulator」の名鉄犬山線バージョンで遊んでゐたのに、迂闊な話であることだなあ。

この本は向谷さんらしく、とことん音にこだはつたメイニアックな内容になつてゐます。分量にして本書のほぼ半分を占める「資料」がまた深い。ずぶずぶですね。逆にいふと、本文が少ないのであつさり読み終へます。とても興味深い話なのに少し物足りない。あるいは口述筆記でせうか。
いづれにせよ、「アスキー新書」ならではの1冊といふ気がします。
ではさやうなら。

国語入試問題必勝法
国語入試問題必勝法 (講談社文庫)国語入試問題必勝法 (講談社文庫)
(1990/10/08)
清水 義範

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国語入試問題必勝法
清水義範【著】
講談社(講談社文庫)刊
1990(平成2)年10月発行


私は清水義範さんの小説が大好きなのです。初めて読んだのがこの『国語入試問題必勝法』で、たちまちファンになり、『バールのようなもの』で決定的にのめりこんだのであります。
本書のハードカバー版が出たのは1987(昭和62)年ですが、その翌年私は書店員になつてゐます。
まだ新人の私は、本書を何の疑ひもなく「学習参考書」の大学入試コーナーに陳列してしまひました。だつてさう思ふぢやないですか。違ふ?
店長からは、嫌味を言はれてしまひます。
「ふうーん。君はギャグのつもりでわざとやつたんだよね? なかなか大したもんだ...馬鹿野郎!これは小説だア!」
少し切ない思ひ出です。

7編の短編が収められてゐます。表題作ももちろん面白いですが、『猿蟹合戦とは何か』の最後、「わたしの表記法について」には爆笑しました。大胆にも丸谷才一氏の『忠臣藏とは何か』をパスティーシュしてゐます。そのせいか文庫版解説を丸谷氏当人が書かれてゐます。丸谷氏の若い友人の意見では、『猿蟹合戦とは何か』は清水義範の最高作だ、みたいなことを述べたやうですが、丸谷氏は「首肯しかねるのだ」「からかはれてゐる当人なのだから、どうも何となく釈然としないのである」...
これまた笑へますね...

アウン・サン・スー・チー
アウン・サン・スー・チー―囚われの孔雀 (講談社文庫)アウン・サン・スー・チー―囚われの孔雀 (講談社文庫)
(1995/07)
三上 義一

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アウン・サン・スー・チー  囚われの孔雀
三上義一【著】
講談社文庫刊
1995(平成7)年7月発行


スーチーさんの自宅へ侵入した米国人男性とは、一体何者でせうか。数日前、彼女の健康悪化が伝へられたばかりで、どうなつたのかなと思つてゐたら、予想外の事件が起きてゐます。
ミャンマー軍事政権は、国家転覆防御法なるものを適用して、スーチーさんを起訴する模様です。
今月末に自宅軟禁の期限が切れる予定だつたさうですから、政権側にとつては良い口実が出来たといふことでせうか。いづれにしても、過去の経緯を見てゐると、素直に自宅軟禁を解くとは思はれなかつたが...

その「過去の経緯」は本書で詳しく述べられてゐます。スーチー入門書と申せませう。
「頑固すぎる」「自分が国外退去すれば済むだけの話」などと彼女を批判する人もゐますが、本当のところどうなのか。個人的には一人でも多くの人が関心を持つといいなと思つて本書をとりあげました。

尚、私が所持してゐるものは、平成7年刊の講談社文庫版ですが、実は昨年、加筆された新版『アウン・サン・スー・チー 戦う気品』が「ランダムハウス講談社文庫」の一冊として刊行されてゐます。新たに購買・閲覧するなら、当然こちらが良いと存じます。
その代り定価もずいぶん上がつてゐますが...

父・宮脇俊三への旅
父・宮脇俊三への旅父・宮脇俊三への旅
(2006/12)
宮脇 灯子

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父・宮脇俊三への旅
宮脇灯子【著】
グラフ社刊
2006(平成18)年12月発行


政治家の世襲は是か非か、議論が盛んになつてをります。制限するのはをかしい、といふ人たちや同じ選挙区で出てはいけない、と地盤を継ぐのを否定する意見などさまざま。
芸能人も二世が多いですね。七光りと言はれるのを嫌ひ、あへて出自を隠してデビュウするアーチストなどもゐるやうです。
さういへばフックンのお母さんも女優だつたとかで、結果的に二世といふことになるんだらうな、と自身のブログでつぶやいてゐたさうです。ヤフーの見出しに出てゐました。それよりもこれがニュースになることかな? とも思ふが。

さて、宮脇俊三さんの長女、灯子さんです。とりあへずデビュウのきつかけは七光りと言はれても仕方ないでせう。しかし、文章に関しては「名編集者」と呼ばれた父から厳しく指導されたやうで、ストイックな姿勢に好感を持ちました。
今後は、本職?の料理やお菓子の分野で、新しい世界を創りあげていくことを期待ですね。

ところで本書を読むと、我々愛読者が知らない宮脇俊三氏が存在することに戸惑ひを隠せません。
晩年の家族に対する蛮行、暴言などは読んでゐて辛いものがありました。
しかしさういふところに本書の意義があるのだらうから、複雑な思ひもあります。結局、没後6年が経過した今でも、愛読者はまだその死を認めたくないのでせうねえ。うん。

鉄火の巻平
鉄火の巻平 1(上京雄飛編) (芳文社マイパルコミックス)鉄火の巻平 1(上京雄飛編) (芳文社マイパルコミックス)
(2001/05)
大林 悠一郎

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鉄火の巻平 1
たがわ靖之【著】
大林悠一郎【原作】
芳文社刊
2001(平成13)年5月発行


シャンソン歌手の高英男さんが亡くなつたとのニュースに衝撃を受ける。
自宅で『吸血鬼ゴケミドロ』を追悼上映し、微苦笑しながら鑑賞してゐました。
日本男優では、天知茂・岸田森の両氏が二大吸血鬼役者であると私は勝手に位置づけてゐますが、宇宙からの侵略者「ゴケミドロ」に憑依される役どころとしては、高英男氏は最適と申せませう。

で、それが『鉄火の巻平』と何の関係があるのかと人は問ふかもしれない。
何の関係もありません。
岡山から単身上京して、寿司職人をめざすのが主人公・倉持巻平。岡山訛りを振りまきながら、興兵衛親方の下で修行を積みます。
この興兵衛親方、眉毛が異常に長く、眉毛全体のおほよそ35%くらゐは顔からはみ出してゐます。恐ろしい。突然刃物を振り回したりする、危ない人物であります。
また、敵か味方か良く分からない「大納言徳光」とか、謎の名古屋弁を駆使する「すしこじき」など、忘れがたいキャラクターも多く、読んでゐて飽きません。まあはつきり言つて笑へます。

『包丁人味平』の寿司屋版などと揶揄されることも多い『巻平』。実際成長途上で、やたらとライバル達から勝負を挑まれたり、勝算なしと思はれた勝負に次々勝つてしまふところなど、似てゐます。
しかし少年ジャンプに連載された『味平』に比べ、明らかに読者の対象年齢は大人であり、当時の少年誌にはない描写が散見されるのであります。巻平が早々と妻帯者になるのも一例でせう。

ちなみに私が所持する全8巻の後に、ワイド版と称するものが全3巻で出てゐますが、いづれも絶版となつてゐます。残念ですね。先日近所のブッ○オフにて見かけたから、その辺を探せばまだあるかもしれません。興味ない? まあ、さう言はずに...

にっぽん人 高見山大五郎
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にっぽん人 高見山大五郎
平林猛【著】
講談社刊
1981(昭和56)年2月発行


元関脇・高見山大五郎こと東関親方が、今月の夏場所後に定年退職するさうです。
高見山といつても、現役引退からすでに25年が経過してゐますので、あのオレンジ色のまわしや、布団のCMで踊る姿を記憶してゐる方は、結構な年齢に達してゐるかもしれません。
若い方にとつては、曙や高見盛の師匠としての印象が強いでせうね。

相撲界といふのは、今でもしばしば「封建的」「閉鎖的」などと批判される訳ですが、高見山が入門した45年前はおそらく想像を絶するものだつたのではないか。
外国人力士のパイオニアとしての辛苦は、現在の外国人力士のそれとは全く比較にならないでせう。
現役時代には評伝が数冊出版されたやうですが、現在はいずれも入手困難です。
本書『にっぽん人 高見山大五郎』は、そのうちの一冊。著者はかつての週刊現代のスポーツ記者。
高見山の人柄に惚れこみ、愛情たつぷりの筆致であります。
同時に、理不尽な相撲協会のさまざまな制度に溜息がでることでせう。

一人の名力士の定年退職に、この一冊を―

渦 (新潮文庫)渦 (新潮文庫)
(1979/11/27)
松本 清張

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松本清張【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1979(昭和54)年11月発行


太宰治と同じく、松本清張も生誕100年ださうです。といふ安直な理由でここにとりあげることにしませう。
昭和23年に没した太宰は、私にとつて完全に「歴史上の人物」であります。しかし松本清張は戦後頭角を現し、平成の世まで活躍した記憶に新しい作家。テレビ出演も多く、あの独特のクチビルは今でも印象に残つてゐます。
いや、身体的特徴はどうでもよろしい。とにかくこの二人が同い年とは意外なことでした。

『渦』は清張作品としては知名度は高くないかもしれません。しかし冒頭から一気に読ませる、社会派ミステリーの面目躍如たるものがあります。つまり面白い。
テレビ視聴率の知られざる内幕とやらに着眼した本作。視聴率に一喜一憂、右往左往するテレビ界の人々と、その謎をとことん追う調査員。かなりの長編ですが、ページをめくる手が止まらずぐいぐい引き込まれます。現在でも、視聴率の調査方法はこんなものでせうか...

津軽
津軽 (新潮文庫)津軽 (新潮文庫)
(2004/06)
太宰 治

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津軽
太宰治【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1951(昭和26)年8月発行
1968(昭和43)年7月改版


生誕100周年を迎へた太宰治。
没後61年にして、その人気は健在のやうであります。愛読者の一人として、まことに喜ばしい。
私が初めて読んだ太宰作品がこの『津軽』です。『人間失格』でも『斜陽』でも、或いは『走れメロス』でもなかつた。

元々出版社から依頼を受けて執筆された津軽の風土記ですが、他の作品にない明るさ、ユーモアに包まれてゐます。ゆゑに当時中学生の私は「太宰治といふのは、きつとユーモア作家なのだな」と勝手に納得してゐました。

本書執筆のため、太宰は3週間にわたる津軽旅行へ出発します。彼にとつて津軽は郷里であり、脱出してきた土地。複雑な感情が入り混つてゐます。実の兄姉たちと再会した際の、あの余所余所しさと言つたら!
それに比べ、かつて津島家(太宰の実家)に奉公してゐた「たけ」といふ女性に対しては苦労をして、やつとのことで再会を果たします。その場面は、割と呆気なく描写されてゐますが、「ああ、良かつたなあ」と感情移入させられます。

『人間失格』を最初に読んで、引いてしまつた方には、本書を是非読んでみてください。太宰治の印象が変ることでせう。