源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
映画の仕事はやめられない!
映画の仕事はやめられない! (岩波ジュニア新書 (523))映画の仕事はやめられない! (岩波ジュニア新書 (523))
(2005/11/18)
附田 斉子

商品詳細を見る

映画の仕事はやめられない!
附田斉子【著】
岩波書店(岩波ジュニア新書)刊
2005(平成17)年11月発行


ジュニア新書の一冊なので一応年少者向けなのですが、一般の人が読んでも興味深い内容であります。
著者は映画の仕事に従事し、そのさまざまな体験を基に、いはば映画製作の裏ではどんなことが行はれてゐるのかを紹介します。

第1章では自分が映画に関つてきた経緯を開陳し、第2章「つくる」では映画のプロデューサーと映画監督について、第3章「買う」では映画の買付けと映画祭についてそれぞれ説明してゐます。映画のバイヤーといふのは小売業のそれとは比べ物にならぬハードワークですね。語学力対人折衝力体力好奇心すべてが人並み外れて具へてゐないと務まりません。
第4章は「流通させる」。映画の配給と興行について。文中にありますが近年の映画の日本語タイトルはただカタカナに直しただけのヒネリがない邦題が多い。
第5章では日本映画を海外へ売り出す人たちの話。映画は作るだけでは自己満足に終る。肝心なのはその後だと著者は言ひます。いかに配給し、いかに宣伝するかの方が重要であるのだと。
最後の第6章では、映画を作る際にはこんな人も活躍してゐるのですよとニッチな仕事を紹介してゐます。そしてジュニア新書の読者を想定した、映画界を目指す人へのアドバイス。

各章では、それぞれの分野で活躍中の女性を紹介してゐます。いづれも生半可な気持ちでこの世界に飛び込んではゐません。映画の世界に拘らずどんな仕事を選んでも、その道で成功するためには彼女たちのやうな心構へが必須であると申せませう。ちよつと道徳臭。

スポンサーサイト
満月 空に満月
満月 空に満月 (文春文庫)満月 空に満月 (文春文庫)
(2003/10/11)
海老沢 泰久

商品詳細を見る

満月 空に満月
海老沢泰久【著】
文藝春秋(文春文庫)刊
2003(平成15)年10月発行


海老沢泰久さんが手がけた、井上陽水評伝であります。
タイトルの「満月 空に満月」は、初期の作品「東へ西へ」の歌詞から採られてゐます(たぶん)。
陽水さんは、元々父親の意向に沿うべく、歯科医を目指してゐたのですが、歯科大学の入試に失敗、結果3浪までしてしまひます。中学三年時に出会つたビートルズ音楽に衝撃を受け、夢中になりすぎてしまつたのであります。
なので影響を受けた彼は、自分の音楽はフォークではないとし、世間での認識とずれを示してゐるのがをかしいところです。

結局大学はあきらめて、生活のため音楽で身を立てやうとします。アンドレ・カンドレなんて名前でデビューするのですが売れないので、別のレコード会社へデモ・テープを持ち込むのでした。そこがポリドール・レコードで、多賀英典といふディレクターがゐました。この多賀さんはシンガー・ソングライターを発掘しやうと考へてゐたり、シングル中心のレコード業界に疑問を持つてゐたり、当時の井上陽水にとつてはこれ以上ない人物と申せませう。
この辺の事情は陽水ファンにとつては有名な話なのでせうね。

多賀さんと衝突もしながら、陽水は「氷の世界」で一挙にブレイクします。これから華々しい活躍が始まるといふところで本書は終つてゐます。単なるサクセスストオリィではないことがわかります。

幼時から二面性を持つた井上陽水。お年玉を「いりません」と断つたり、小学生時に「スタンダード・ナンバー」が好きな音楽だと答へてすぐに嘘を見抜かれる自分にショックを受けたり...「子供らしい子供」ではありません。そんな自分を自分で悩んでゐる陽水。社会的成功を得てもそれは変ることはなかつたさうです。海老沢さんはそんな彼に興味を感じたのでせうか。本書での陽水さんはいつも困惑し、悩んでゐます。まあ私なんかは、さういふ悩める陽水さんには茶目気を感じるのですが。
いはば人間的弱点をさらしながら、魅力を倍増させてゐるところが面白いのでした。

定刻発車 日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか?
定刻発車―日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか? (新潮文庫)定刻発車―日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか? (新潮文庫)
(2005/04/24)
三戸 祐子

商品詳細を見る

定刻発車―日本の鉄道はなぜ世界で最も正確なのか?
三戸祐子【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2005(平成17)年4月発行

発売時に評判になつてゐたのは知つてゐましたが、今回初めて読んでみました。
予想以上の面白さと申しませうか。サブタイトルの通り、日本の鉄道が正確に動く理由は何かを考察した一冊でございます。
ヨーロッパあたりの鉄道でも、定時運転率は9割くらいで、一見日本と変らぬやうに見えますが、「遅れ」の定義が各国で違ふので、内実は大きく異なつてゐるさうです。フランスの超特急TGVの場合、14分以上遅れなければ定時運転としてゐるといふことです。日本では1分以上をすべて「遅れ」としてゐるので「世界で最も正確」の称号も頷けるところです。

日本の鉄道が正確である背景として、日本の地形の特徴や都市の点在ぶり、さらには参勤交代といふプロジェクトですでに日本人は「ものごとをつつがなく進行する」風習があつたと指摘します。ここまでさかのぼるとは思ひませんでしたね。
世界でも珍しい「電車王国」となつたことも一因でせう。ここでいふ「電車」とは、文字通りの電車ですよ。
「運転の神様」「奇行の人」結城弘毅の影響も示唆してゐます。この人は昭和5年といふ早い時期に、超特急「つばめ」を走らせて世間をあつといはせたことで有名ですね。当時11時間かかつてゐた東京-神戸間を、3時間短縮して8時間運転とする、と発表した時は皆が信じられず山師扱ひされたとか。(実際には2時間40分短縮の8時間20分運転。)

新宿駅みたいな巨大ターミナルがあると、定時運転せざるを得ない。また、遅れてもそれを取り戻せるシステムについて、噛んで含めるやうに説明してくれます。欧米と比べて駅設備などシステムに余裕のない日本だからこそ、遅れない鉄道を作らざるを得なかつたといひます。
しかし余裕のない現状のままでいいのか、著者は疑問を呈してゐます。線路設備を欧米並みにすることは無理としても、悲観することはないと提言するのでした。
何が最適なストックであるかは、国や社会によって違うし、余裕というものは技術が発達すれば増えるものだからである。それにいつも列車が時刻表通りでなくとも「何とかなる」ように、社会の方が変わってゆく可能性もあるように思うのである」(第12章)

礼賛一辺倒ではなく、「鉄道員や乗客の犠牲の下に成立してきた側面は否定できない」と問題点を指摘し変革を求めます。やはり何でも「問題」と感じることができないと改善につながりませんね。私などは鉄道を利用しても、うん、時刻表通りだね、結構結構と満足して終りなのですから。
本書の執筆後に、あの福知山線脱線事故は起きてゐます。やはり余裕のなさが鉄道員たちを追ひつめてゐたのでせうか。

高梨さん
高梨さん (IKKI COMIX)高梨さん (IKKI COMIX)
(2010/05/28)
太田 基之

商品詳細を見る

高梨さん
太田基之【著】
小学館(IKKI COMIX)刊
2010(平成22)年5月発行


主婦の小母さん(49歳)が主人公の漫画であります。こんなのはなかなかありませんね。
一見ぼーつとした感じで、外見はどこにでもいさうな小母さんですが、味があります。
フルネームは「高梨悦子」で、自己紹介の時は必ず、「悦楽の悦です」と説明して相手に引かれてゐます。
カラオケが趣味なのですが、極端な音痴で歌つてゐてもお経を唱へてゐるやうに聞こえるのでした。家事をしながら歌つてゐると、「新興宗教のお経か」と誤解されてしまふのでした。かはいさうです。

料理は得意のやうで、カレーライスや豚汁が大好評。マンガ家のアシスタントのヘルプをしても、なかなか器用で重宝がられてゐます。携帯電話は苦手みたい。
大変な世話焼きで、ペットが逃げた人を見ると一緒に探し出し、意中の人に告白できない女学生のためにキューピッド役を買つて出たり...風貌とは裏腹に、行動が早いのです。
かういふ人が身近にゐたらどうなのか、一寸判断に迷ふところですが、私は会つてみたいですね。よくよく考へたら、彼女は善意のかたまりみたいな人なんですよ。

この漫画、女優の村井美樹さんがブログで紹介してゐたので読んでみました。(漢検一級合格おめでたう)。
私は本来他人が薦める本は読みたくないのですが、村井さんに「おすすめです」といはれたら読むしかありませんよね。
一風変つたギャグ漫画ですが、評価は分かれさうです。笑ひは、後からじわーつとやつてくる。そこでもう一度読みたくなる、といつた感じです。

あなたが総理になって、いったい日本の何が変わるの
あなたが総理になって、いったい日本の何が変わるの (幻冬舎新書)あなたが総理になって、いったい日本の何が変わるの (幻冬舎新書)
(2010/07/21)
菅 伸子

商品詳細を見る

あなたが総理になって、いったい日本の何が変わるの
菅伸子【著】
幻冬舎(幻冬舎新書)刊
2010(平成22)年7月発行

菅内閣が誕生して、こんな本も出てゐました。マスコミ報道でも話題になつたやうです。
父親が話題につられて買つてきたのですが、私は看過してゐました。
このたび、小沢一郎との代表選挙に勝利し、改めて日本国の舵取りを任された形であります。

とりあへずこの国の一員として、最高責任者の女房とはどんなものか、のぞいて見ました。トイレに入つた折に読んでみたのですが、あつといふ間に読了しました。これなら本屋の店頭ですぐ立ち読みできますな。

第1章は、夫が総理になって激変した生活ぶりを披露してゐます。庶民派をアピール。ナレソメまで開陳するサアヴィスぶりであります。
第2章は菅直人さんの人となりを紹介。国会中に眠つてゐるやうに見えるのは、「誰かがつまらない話をしている時は、電圧が下がる」ので目を瞑つてゐるが、実際には話は聞いてゐるのださうです。それにしても、一度首相になると、死ぬまでSPがつくのですね。
第3章では、菅直人と結婚してからの40年、二人の間に起つた出来事を述べます。息子は二人とも登校拒否になつたさうです。市川房枝の選挙を応援してゐた頃の話が出てきます。本文中にもありますが、有吉佐和子『複合汚染』の中にも登場します。確か、ハンサムな青年だが嫌はれなければいけない、などと有吉さんは書いてゐました。
第4章「菅伸子の代表質問」は、実際には、国民の関心の高さうな事項について菅直人に代つて答へますよ、といふ章ですね。別段菅伸子さんが総理を質問攻めにして本音を引き出す、といふものではありません。

まだ総理になつて間もないから仕方がない部分もあるでせうが、全体では「菅直人はこんな人物ですよ、国民の皆さん夫をよろしく」といふ1冊ですかね。タイトルを見て読んだ人は、内容が違ふぢやん、とつぶやくかも知れません。
それにしても、もし小沢一郎さんが当選してゐたら、本書の商品価値も随分短命に終るところでした。幻冬舎はほつとしたでせうね。

テレビの黄金時代
テレビの黄金時代 (1983年)テレビの黄金時代 (1983年)
(1983/05)
小林 信彦

商品詳細を見る

テレビの黄金時代
小林信彦【編】
キネマ旬報社刊
1983(昭和58)年5月発行
1987(昭和62)年11月復刊


大好きな谷啓さんが...ああ。
私は大いなる衝撃を受けて、悲嘆にくれてゐます。
あまりに寂しいので、「クレージーだよ奇想天外」を追悼上映しました。最後に谷啓が歌ふ主題歌「虹を渡って来た男」が流れるシーンでは泣いてしまひました。
来週は追悼上映ウィークとしました。以下は上映予定。

11日(土) クレージーだよ奇想天外
13日(月) 図々しい奴
14日(火) 空想天国
15日(水) 続図々しい奴
16日(木) クレージーだよ天下無敵
17日(金) 奇々怪々俺は誰だ?!


↑こんな感じです。ところで谷さんのニュースの中で「元クレージーキャッツの」といふ部分がありましたが、クレージーは多分解散していないので、「元」を付けるのはをかしいでせう。(ハナ肇さんが亡くなつた時に、植木等さんが解散宣言をしたけれど、翌日撤回されてゐます。) ちなみに正確には「ハナ肇とクレージーキャッツ」。「クレイジー」とか、あるいは「クレージー・キャッツ」のやうにナカグロを入れてはいけません。

もうひとつ気になるのは「ガチョーン」ですが、当初は「ガチョン!」だつたと記憶してゐます。いつの間に長く伸びるのが正式になつたのか。さらに「谷ダア」も、以前は「青島だッ、谷だッ」でな感じではありませんでしたかね。我ながらどうでもいい事を書いてゐるやうな気がする。これもショックの為でせう。

それで今回なぜ『テレビの黄金時代』かといふと、巻頭グラビアで「<ガチョ~ン!>の復活」と題して「正しい<ガチョーン!>のやり方」が連続写真で紹介されてゐるのです。もちろん演ずるのは谷啓さん本人。これは大爆笑であります。これによると、以下の要領ださうです。

A さあ、困った。かえす言葉もない
B 呼吸をためて......
C 裂帛(れっぱく)の気合で
D 万物を摑みよせるように


以上が<ガチョーン!>の奥義(?)らしい。結果的に2回続いて小林信彦さん関はりとなりましたが、まあいいでせう。(もちろん偶然です。) 初版が1983年なので、ハナさん植木さんが元気で、それぞれ単独インタビューが載つてゐて貴重です。谷啓さんは小林信彦さん・大瀧詠一さんとの座談会になつてゐます。ところで文春文庫から同じ書名の本が出てゐますが、本書とは別物なのでした...

喜劇人に花束を
喜劇人に花束を (新潮文庫)喜劇人に花束を (新潮文庫)
(1996/03)
小林 信彦

商品詳細を見る

喜劇人に花束を
小林信彦【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1996(平成8)年3月発行


3部構成で、それぞれ大物喜劇人を取り上げてゐます。第一部は植木等。
いふまでもなく、クレージーキャッツのメンバーとして、映画に出演しまくつた男であります。
著者の小林信彦氏は東宝クレージー映画では、ギャグのブレーンとして参加してゐたので、いはば身内の一人とも申せませう。ただしクレジットはされてゐません。
ゆゑに映画におけるクレージーの凋落振りを痛烈に指摘しながらも、どこか自責の念も感じられます。
著者はクレージーの魅力は、①生の舞台②テレビ③映画の順番で、映画が一番つまらないとしてゐます。私は年代的にも生の舞台は見たことがありませんので、ははあ、さういふものですかとつぶやくしかないのですが。
確かに後年の映画(特に古澤憲吾作品)はギャグが空回りしたり、往年の冴えが見られないけれど、「ニッポン無責任時代」のやうな傑作はさうさう出来るものではありますまい。

第二部は藤山寛美。この人は完全な舞台役者として超一級なのださうです。私の父親も「映画では特に印象に残らないが、これが舞台では面白いのだ」と言つてゐました。
借金騒動や松竹新喜劇解雇、そして復帰とありましたが、結果的には寛美の名声を高める要因になつたやうです。
この人の不幸は、役者に徹することが出来ずに、劇団責任者としてすべてを仕切らざるを得なかつたことだと著者は指摘します。松竹新喜劇といふ団体ではそれが運命だつたやうです。
そして寛美といふ役者については...
寛美の演技は、観客が肌で<感じる>ものであった。(中略)いくら数多く観ても、深層部分で<感じ>ない人には、無縁の芸であった。<寛美はすごい>と語れても、どう<すごい>のか説明できない芸であった」(本文より)
すると私なんかには「無縁の芸」だつたのかな、と考へると寂しいのであります。

第三部では伊東四朗。この第三部があることが本書の最大の特徴と申せませう。
てんぷくトリオも遠くなりました。今でもバリバリ活躍する伊東四朗さんですが、すつかり大物俳優の雰囲気も漂わせてゐます。
伊東四朗の芸風は、どちらかというと、笑わせておいて<退く>タイプである。東京落語の味に近い」(本文より)
また著者が直直に伝へた言葉「欽ちゃんはコントの天才だけど、演技者じゃない。そういう意味じゃ、芝居のできるコメディアンは今いないでしょう。やるとしたら、伊東ちゃん、あなたしかいないんだよ
これはコント55号が大人気の時代の発言です。
同時代に活動し、生で演技を見てきた著者の批評眼は説得力抜群であります。今後の伊東四朗さんを改めて注目したくなつたのでございます。

天の夕顔
天の夕顔 (新潮文庫)天の夕顔 (新潮文庫)
(1954/06/02)
中河 与一

商品詳細を見る

天の夕顔
中河与一【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1954(昭和29)年5月発行
1966(昭和41)年6月改版
1996(平成8) 年9月改版
2003(平成15)年3月改版


主人公の「わたくし」が、年上の人妻への愛に一生を捧げる物語であります。

「わたくし」は当初は彼女に対して、好意を抱きながらもそれ以上のことは特段望んでゐなかつたやうに見えます。しかし彼女から、これ以上交際を続けると自分の立場が苦しくなるといはれ、以後会はないやうにしませうと切り出されると、どうやら俄然未練が湧いてきたらしい。その後、彼女の居所を探し当てては、その都度拒絶される繰り返しであります。彼女を探す執念はストーカー顔負けと申せませう。

年少の頃から思春期にかけて、恋愛をしてゐる自分にうつとりする時期が存在しますね。この「わたくし」は中高年になつてもその時期を卒業できずに過ごしてしまつたと思はれるのであります。まあこれを純愛と呼んでもいいのですが、どうも違ふやうな気がする。全体に幼さを感じさせるのであります。時代背景も関係するでせう。
山ごもりしても結局何の役に立つたのか、と突つ込みたくなります。

しかしさういふことは、この小説を読む上では枝葉末節なのでせう。
実際、緊張感のある引き締まつた文章に身を委ねてゐますと、かかる突つ込みどころまでが魅力に転じるのであります。現代人は鼻先で笑ふかもしれない恋愛ですが、新潮文庫版の改版歴を見ると、いまだに新しい読者が誕生してゐると推測されます。
そして「わたくし」を突き放すラスト。おお、何といふこと。
彼は不幸だつたのか、それとも救はれたのか。読み手によつて判断は分かれるところでせうね。

チョコレート戦争
チョコレート戦争 (講談社文庫 お 16-1)チョコレート戦争 (講談社文庫 お 16-1)
(1977/06)
大石 真

商品詳細を見る

チョコレート戦争
大石真【著】
講談社(講談社文庫)刊
1977(昭和52)年6月発行


小学生4年生のころ、担任の先生が「大石真は先生の友達なのだ、えへん」と自慢してゐました。真偽のほどは分かりませんが、クラスの友人の間では「絶対ウソだよな」といふのが定説となつてゐました。かはいさうな先生。

その大石真さんが亡くなつてからもう20年にならうとしてゐます(1990年9月4日没)が、その創作童話のかずかずは今でも現役で読まれてゐます。『チョコレート戦争』は代表作と申せませう。

すずらん通りにある洋菓子屋「金泉堂」は町で大人気の美味しい店。子供たちのあこがれであります。店頭のショーウィンドウには、1メートル近くのチョコレートでできた城があつて、それは金泉堂の名物であります。
光一くんと明くんがそのチョコレートの城をうつとりとながめてゐたら、なぜか突然ショーウィンドウが割れたのです。金泉堂の主人はふたりの仕業であると決め付けます。
しかし光一くんは、濡れ衣を着せられたままでは収まりません。
戦うんだよ。あの、金泉堂のわからずや連中と、さいごまで、戦いぬくんだ
彼の宣戦布告とは、一体、どんなものでせうか...?

結末は全く意外な展開を見せます。読んでゐて幸せな気分になれる物語でした。義治あにいは影の主役とも言へませう。そして金泉堂のその後の対応は、真の勝者の条件といふものを教へてくれるのでした。45年前の作品ですが、現在の鑑賞にも十分堪へるものです。

講談社文庫版にはほかに「見えなくなったクロ」「星へのやくそく」「パパという虫」が収められてゐます。いづれも涙が出るくらゐいい話ですよ...といひながら、例によつて絶版のやうです。
しかし児童書出版の理論社からはフォア文庫版・フォア文庫愛蔵版・名作の愛蔵版と3種類出てゐますので、用途と予算によつて選ぶことが出来ます。贈り物にも可でございます。
お金をかけたくない人は、立ち読みでもすぐ読めちやふし、図書館で落ち着いても読むことも出来るのでした。

では今日はこんなところで。