源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
藤十郎の恋・恩讐の彼方に
藤十郎の恋・恩讐の彼方に (新潮文庫)藤十郎の恋・恩讐の彼方に (新潮文庫)
(1970/03/27)
菊池 寛

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藤十郎の恋・恩讐の彼方に
菊池寛【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1970(昭和45)年3月発行

最近変な夢をよく見るので困ります。先日は舞台鑑賞で、「屋上の狂人」を観てゐる夢。屋根に上る男は柄本明さんでした。
また、村田英雄さんが「父帰る」を熱唱してゐる夢。名曲です。しかし起床すると疲れが出ます。
私の夢にまで進出する菊池寛、改めて作品集を読む。

表題作ほか、菊池寛の代表作が十篇収められてゐます。
どちらかといふと、実業家とかプロモーターとしての印象が強いのですが、短篇小説の名手であつたことが改めて分ります。

自分の好きな傾向の作品としては、収録順にいふとまづ「恩を返す話」。26年間も恩を返すことを考へてきた甚兵衛。ここまで来ると滑稽感が否めません。
恩讐の彼方に」。隧道を切り拓いたことで一番救はれたのは、市九郎本人であつた。
藤十郎の恋」。まことに緊張感のある作品。お梶は私好みの女性であります。
極楽」。永久に極楽にゐることは退屈か。丹波哲郎さんなら否定するでせうが。
蘭学事始」。人間くさい杉田玄白には感情移入します。
俊寛」。アッと驚く意外な幕切れ。これも菊池寛流の人間賛歌ですかな。
入れ札」。「エレキの若大将」なる映画で、大学ラグビー部の主将を投票で決めるくだりがあります。青大将(田中邦衛)は自分に一票を投ずるのですが、結果はその一票のみ。仲間が「僕は君に一票投じたよ」と嘘を言ふのを、青大将は怒りのあまり「あれは俺が自分で入れたんだ」とバラしてしまふ...この小説を読んで思ひ出しました。

菊池寛の代表作がこの一冊で大体分かる、といふお値打ちな本書。入手も容易であります。
喰はず嫌ひをせずに(してもいいけど)読んでみませう。

...とても眠い。これにてご無礼します。また変な夢を見さうで不安...

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象は汽車に乗れるか
象は汽車に乗れるか マイロネBOOKS象は汽車に乗れるか マイロネBOOKS
(2003/03)
鉄道資料研究会

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象は汽車に乗れるか
鉄道史料研究会【編】
JTB(マイロネBOOKS)刊
2003(平成15)年3月発行

JTBの月刊誌「旅」は2003年に休刊となり、その後新潮社に引き継がれましたが、かなり雰囲気は変つたやうです。実質的には、かつての雑誌「旅」はもう存在しないと申せませう。
この雑誌は歴史も古く、創刊は1924(大正13)年にさかのぼります。本書は、その「旅」の記事で鉄道史を辿らうとする試みであります。書名の『象は汽車にのれるか』は、それらの記事の中のひとつ。

創刊間もない大正末期の記事は面白い。「草津温泉に遊ぶ」といふ旅行記に、「車内のユーモアー」なる記事では二等客と三等客の相違を差別感たつぷりに書いてゐます。
列車内でお互に慎みたい事」では、座席を占領する行儀の悪い客や、深夜でも傍若無人に騒ぐ軍人などと乗り合せた筆者が苦言を呈してゐます。公共マナアを呼びかける記事はもうこの時代にあつたのです。

電車切符の改良を望む」といふ記事は、切符収集を趣味とする筆者が、各種切符を発券する鉄道会社に対し、紙質やデザイン的にもつと改良してくれと注文してゐる文章。何のことは無い、現在の切符収集メイニアと何ら変るところはありません。
紙質については「一番紙質の惡い處では伊勢電鐵の團體券、久留米市筑後電軌、名古屋市電、京津電軌の團體券等は圖抜けて惡いのです
で、切符の縦が長いのはどこどこで何十何ミリ、横が長いのはどこどこで何十何ミリ、さらに短いのは...と偏執狂的であり、笑つてしまひますね。

戦中の「不要不急の旅行はやめませう」の時代、戦後の日本鉄道史最悪の時代を経て、1964(昭和39)年の新幹線開通までを取り上げてゐます。鉄道史的に面白いのはこの辺まででせうね。個人的には「よんさんとお」以降はつまらないと感じてゐます。それでも時刻表は買つてしまひますが。

必勝婚活メソッド
必勝婚活メソッド―「お見合い」という婚勝 (学研新書)必勝婚活メソッド―「お見合い」という婚勝 (学研新書)
(2009/05)
山田 由美子

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必勝婚活メソッド-「お見合い」という婚勝
山田由美子【著】
学習研究社(学研新書)刊
2009(平成21)年5月発行


著者は数多くの男女を成婚に導いた、「カリスマ仲人」と呼ばれる人であります。
「婚活」なる言葉が嫌はれる昨今、本書を紹介するのは躊躇逡巡するところでありますが、数多の同種書籍と比較して、これはまことにユウスフルな、実践向きなのであります。
(訳あつて私はかういふ書物を多く読んでゐるのです。そのほとんどは「読書」の対象としてではありませんが。)

特に、現在婚活中で中中結果の出ないあなたに是非読んでいただきたい一冊なのであります。最初は山田先生にガツンと言はれるでせう。あなたは反発するかも知れない。
しかし、ここで述べられるのは情緒的な意見ではなく、事実(冷徹な事実)なので説得力があるのです。
男女別、年代別のアドバイスもあり、実用書としても役に立つと申せませう。

興味の無い方は、もちろんスルーしていただければ。さはさりながら先入観を棄てて読めば、現在の結婚・お見合い事情が分つて面白いと思ひますよ。

図説 絶版国鉄車両
図説 絶版国鉄車両 (講談社+α文庫)図説 絶版国鉄車両 (講談社+α文庫)
(2008/10/20)
松本 典久

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図説 絶版国鉄車両
松本典久【著】
講談社(講談社プラスアルファ文庫)刊
2008(平成20)年8月発行


国鉄(JNR)が分割民営化されたのが1987年のこと。
一般的に鉄道車両の耐用年数は20年凸凹とされてゐます。即ち国鉄末期に造られた車両も、既に廃車となつてゐたり、現役であつても第一線から退いて細々と走つてゐる情況であります。
そんな消え行く(消え去つた)国鉄車両を解説しつつ、著者が乗車したルポを再録してゐます。懐古。

新幹線・特急型電車・特急型気動車・急行型電車・急行型気動車・通勤近郊型電車・客車の各章でお馴染みの国鉄型車両を紹介してゐます。
このうち、現在「急行型」といふのは、新造はされてゐません。急行といふ種別そのものが絶滅危惧種となつてゐます。急行と名乗ると、乗客の受けが良くないみたいです。ハイレベルな急行よりも、しよぼい特急を選ぶといふことで、JR東日本は未だに185系電車を駆使してゐます。なめられてゐますね。

また、ここでいふ「客車」とは、自らは動力を持たず(自走できない)、機関車などに牽引されて走る昔ながらの客車を指します。これも一部夜行列車を除けば、殆ど走つてゐないのです。「汽車」も死語になりつつありますね。
私は基本的に、鉄道は新しい車両、施設の方が良いに決つてゐるといふ考へですが、本書を読むとあの時代がよみがへつて来て、一掬の涙を禁じ得ない(少しおほげさ)のであります。
あ、昔の方が良かつた点が一つありました。国鉄時代のJNRマーク、あれは格好良かつた。現在の「JR」のロゴは何とかなりませんか。あまりにも緊張感がないマークですね。今さらですが...

名古屋発どえりゃあ革命!
名古屋発どえりゃあ革命! (ベスト新書)名古屋発どえりゃあ革命! (ベスト新書)
(2011/01/18)
河村 たかし

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名古屋発どえりゃあ革命!
河村たかし【著】
ベストセラーズ(ベスト新書)刊
2011(平成23)年1月発行

本日は名古屋市議会の出直し選挙の投開票日でした。
私は豊田市在住で名古屋市民ではないので、見守ることしかできませんが、愛知県知事の大村氏は河村市長と連携してゐるので大いに注目であります。
今開票速報などを見てゐますが、河村市長率ゐる地域政党「減税日本」の過半数は難しいやうです。それでも第一党になることは確実らしい。記事によつて「大躍進」と持ち上げる一方、「過半数に届かず」とネガティヴに表現したりするので、結局この政党は勝利したのかどうかよく分りません。ただ、目的が過半数なのでやはり勝利とはいへないのでせうか。

そんな河村たかし氏の主張がコムパクトに詰め込まれてゐるのが本書であります。家人が購入してゐたのを、こつそり見る。
これを読むまでは、河村さんがよく言ふ「議員のボランティア化」といふのがいまいち分らなかつたが、要するに議員が職業化してゐることが弊害であると訴へてゐるやうです。
のみならず、自分の子供にも継がせたりして、世襲が当り前になつてゐる。よほどおいしい職業なのでせうね。

そしてもうひとつ、お馴染みの「減税」。減税で直ちに効果が出るとは、本人も考へてはゐないやうです。河村氏によると、三つの効用を説いてゐます。
その一。役所の無駄なカネがなくなる。
そのニ。市職員の意識が変る。
その三。本物の民主主義が地域に根付く。
何のこつちや、といふ向きには、本書をのぞいてみると良いでせう。大概の本屋では平積みしてゐるので、すぐ見つかります。やはり報道では伝はらないことが多いですなあ。

支持者もアンチも、本人が本当に伝へたいことを知らないと不毛の議論になります。アンチはこんな本、読まんでせうが。ただ私の体験では、「パフォーマンス」といふ言葉を駆使して非難する人は、既得権は死守するが、自分は何もしたがらないといふ傾向があると感じました。
ま、どうなりますか、新しい市議会を注視しませう。

女検事ほど面白い仕事はない
女検事ほど面白い仕事はない (講談社文庫)女検事ほど面白い仕事はない (講談社文庫)
(2002/08)
田島 優子

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女検事ほど面白い仕事はない
田島優子【著】
講談社(講談社文庫)刊
2002(平成14)年8月発行

本書のタイトルは版元側の意向かもしれませんが、わざわざ「女検事ほど~」と「女」といふ文字が付されてゐるのは、やはり珍しいといふことなのでせう。
著者田島優子氏が学生時代に就職活動をしてゐた頃、現在では考へられぬほど、待遇面で男女差がありました。そもそも採用時点で、女性といふだけで門戸が閉ざされてゐたのであります。

さういふ時代に、猛勉強で司法試験に合格した著者。一般的な民間会社では、女性をまともに働かせるところは数少なく、さまざまな差別が存在してゐたさうですが、法曹界はまだ女性差別がマシな世界だと思はれたのが理由のやうです。
で、最初は弁護士志望だつたのですが、弁護士の実態を知り嫌気がさして検事になるのでした。

捜査や取調べ、裁判の実態などが活写されてゐて面白いのですが、それよりも「この国で女が仕事をするのは、何と障害が多いことか」と、男女差別の訴への方に力点が置かれてゐるみたいです。
あとがき(「おわりに」)でも、「男なんて、体面ばかり気にして、小心で臆病で、思い切ったことが何も出来ないスケールが小さい連中で、本当は、女のほうが元気で実行力がある」と述べてゐます。さぞかし過去に嫌なヤツに嫌なことをされたのでせうね。

斯界の内幕話などを期待する本ではなく、田島優子といふ一女性検事の職務経歴書として、まことに興味深く読めます。
尚、田島氏はその後、弁護士に転身したさうです...

発光妖精とモスラ
発光妖精とモスラ発光妖精とモスラ
(1994/09)
中村 真一郎、福永 武彦 他

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発光妖精とモスラ
中村真一郎/福永武彦/堀田善衛【著】
筑摩書房刊
1994(平成6)年9月発行


本日、中村真一郎生誕93年を迎へます。皆気付いてゐませんが、この人は凄い人ですよ。
さて、1961(昭和36)年の東宝映画「モスラ」(本多猪四郎監督)は、この『発光妖精とモスラ』が原作です。
中村真一郎・福永武彦・堀田善衛の純文学者3名が合作で書いた小説であります。

リレー形式で、[上]「草原に小美人の美しい歌声」・[中]「四人の小妖精見世物となる」・ [下]「モスラついに東京湾に入る」の3編を、それぞれ中村・福永・堀田の順で執筆。皆普段の仕事とは違ひ、肩の力を抜き愉しんでゐるやうです。
ちなみに主人公「福田善一郎」は、この3人の名前から付けられてゐます。
成功のポイントは、やはり巨大蛾の三段変化と、小美人の存在でせう。

後半は関沢新一によるシナリオ「第一稿」と「決定稿」が収録されてゐて、原作との相違を確認するのもよろしい。
小美人が四人から二人に減員されたり、ロシリカ国(米国を仮想)がロリシカになつてゐたり。さらに完成された映画では、米国側の要請で「ニューカーク・シティ」の破壊シーンが挿入されたりしてゐます。ちよつと紙工作みたいなセットでしたが。

映画「モスラ」は、それまではゲテモノ扱ひされてゐた怪獣映画の地位を向上させた存在と申せませう。気鋭の文学者に原作を依頼したり、新人ではなく大物俳優を主演に据えたり、田中友幸プロデューサーの心意気が感じられるのでありました。そんな「モスラ」を満喫できる一冊です。

ハーレムの熱い日々
ハーレムの熱い日々 (講談社文庫)ハーレムの熱い日々 (講談社文庫)
(1979/01/29)
吉田 ルイ子

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ハーレムの熱い日々 BLACK IS BEAUTIFUL
吉田ルイ子【著】
講談社(講談社文庫)刊
1979(昭和54)年1月発行


写真家の吉田ルイ子さんが、米国の大学に留学してゐた頃、即ち1960年代前半のハーレムをレポートした作品であります。
当初は黒人と握手もできなかつた彼女が、ハーレムの低所得者団地に住み、現地の人々に魅了されていく過程が記されてゐます。現地の人々とは、いはゆるワスプたちに差別され虐げられてきた黒人のこと。当時の米国は人種差別が公然と行はれてゐたのでした。(現在は「人権の国」を標榜する米国ですが、表に出ない、より巧妙な形で差別は存在するさうです。)
この国で暮らすと、嫌でも自分の肌の色を意識させられるやうです。きつと有色人種の中でもランク付けがされてゐて、その底辺に黒があると白人様は考へるのでせう。もつと悲しいのはさういふ思想に感化された日本人が同様の偏見を持つてしまふことであります。

しかし吉田ルイ子さんは負けずに写真を撮り続けます。普通なら尻尾を巻いて逃げさうな場面でも臆せず対象に迫つてゐます。その根底には人類愛があるのでせう、どこへ行つても「ルイ子、ルイ子」と親しまれるのでした。
現在のハーレムは以前のやうな貧困と犯罪の温床ではなくなつてゐると聞きますが、本書の価値は変らないのであります。むしろ、60年代のハーレムの熱い記録として、ますます存在感を増すと申せませう。