源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
負けるのは美しく
負けるのは美しく (集英社文庫)負けるのは美しく (集英社文庫)
(2008/03/19)
児玉 清

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負けるのは美しく
児玉清【著】
集英社(集英社文庫)刊
2008(平成20)年3月発行


今年5月に惜しまれつつ亡くなつた児玉清さん。こんな本を引つ張り出し哀悼の意を表するものであります。
児玉さんは東宝専属の俳優だつたのですが、東宝時代の出演映画は、わたくしあまり観てゐないのです。
せいぜい「電送人間」(冒頭のお化け屋敷の客で出てくる)、「悪い奴ほどよく眠る」、「日本海大海戦」くらゐですかな。無論追悼上映をしたのであります。イイ。

さて本書はその児玉清さんのエッセイ集。その文才については、今更わたくしが喋喋するまでもございますまい。そのたたずまひ同様、清冽で贅肉をそぎ落としたやうな文章ですね。同時に温かみを感じます。
東宝に入社するに至つた経緯の「母とパンツ」に始まり、屈辱の経験から俳優として見返してやらうと決意する「雑魚と雑兵」など、下積みの苦労を綴つた文章が多い。
また、共演の山茶花究さんや信欣三さんの意外な一面など、初めて知る秘話もあります。信欣三さんは面白すぎます。

最終章「天国へ逝った娘」では、36歳の若さで他界した娘さんのことを語つてゐます。
正直、涙なしには読めぬ辛い文章であります。それにしてもこの病院は酷い。児玉さんも言ふやうに、死期が迫つてゐる患者だからと気軽に人体実験まがひのことをしたのではないか。義憤を感ずると同時に、一般に病院とはかういふものかと恐怖も迫るのであります。
しかし、児玉さんも娘さんの元へ行く。きつと再会したであらうと思へば、救ひはあるでせう。

尚本書は、著者の没後に再び注目を浴びたやうですので、入手は容易と申せませう。では。

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時代劇は死なず! 京都太秦の「職人」たち
時代劇は死なず!―京都太秦の「職人」たち (集英社新書)時代劇は死なず!―京都太秦の「職人」たち (集英社新書)
(2008/12)
春日 太一

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時代劇は死なず!―京都太秦の「職人」たち
春日太一【著】
集英社(集英社新書)刊
2008(平成20)年12月発行


以前同じ著者の『天才 勝新太郎』を取り上げましたが、順番からいくとこちらが先であります。
いはゆる東映時代劇を好む人たちからすれば、「時代劇はとつくに死んでゐるよ...」と言ひたいところでせうが、本書がスポットを当てるのは、映画界を追はれ、TV作品に活路を見出した、京都太秦の「職人」たちであります。

かつては東映・大映・松竹の3社が太秦に撮影所を構へ、時代劇は活況を呈してゐました。スタア中心の勧善懲悪痛快娯楽映画を各社は連打で製作し、まあウケてゐたわけです。
それが、恐らく黒澤明監督の影響でせうが、リアルな時代劇志向へと変り、さらに集団時代劇へと変遷します。ところがこれらは従来の観客を失ふ結果になつてしまつたのです。
結局東映は時代劇から任侠路線へ大きく舵を切ります。
松竹も京都での映画制作を中止、大映に至つては会社自体が倒産してしまひます。

そこで多くのスタッフが働く場を失ふのですが、やはり当時の情勢としては、活躍の場をTVへ移すしかなかつたのであります。しかしまだ黎明期のTVでは、様々な挑戦が出来る土壌があつたのでせう、結果的に「職人」たちはTV界にてその才能を開花させたと申せませう。TV時代劇を専門に研究する春日太一氏ならではの感動的な筆致であります。

「おわりに」に於いて、その後事情が変つてしまつたと語ります。民放各社は時代劇枠を削り、京都での製作が激減したさうです。生き残れるのかどうか、「いまはまさにその正念場なのである」(「おわりに」より)。
折しも国民的長寿番組『水戸黄門』の製作打ち切りが発表されたこの時期。持ち堪へることは出来るのか、まことに苦しい状況になつてまいりましたね。
時代劇製作は伝統です。一度やめてしまふと復活は難しい。職人芸は継承されなくなり、素人の学芸会レベルの作品しか出来なくなる恐れもありまする...

失われた鉄道を求めて
失われた鉄道を求めて (文春文庫)失われた鉄道を求めて (文春文庫)
(2011/05/10)
宮脇 俊三

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失われた鉄道を求めて
宮脇俊三【著】
文藝春秋(文春文庫)刊
2011(平成23)年5月発行


以前、同じ宮脇俊三氏の『鉄道廃線跡の旅』(『七つの廃線跡』改題)なる書物を取り上げたことがございます。
本書はそれ以前の、おそらく著者初の「廃線跡」をテエマにした作品と思はれます。
わたくし自身は廃線跡にはあまり興味はありませんが、宮脇氏の廃線跡紀行にはそそられる。やはり面白いのであります。

しかも路線の選定が渋い。玄人好みと申せませう。
タイトルを列挙しますと、「沖縄県営鉄道」「耶馬溪鉄道」「歌登村営軌道」「草軽電鉄」「出雲鉄道」「サイパン、ティニアンの砂糖鉄道」「日本硫黄沼尻鉄道」。
沖縄県営鉄道は、沖縄戦での爆撃によつて完膚なきまで破壊されたと事情通が言ふ。しかし鉄道は細長い。完全に消滅させるのは案外難しいのであります。どこかにその切れつぱしくらゐはあるだらう、といふことで沖縄まで出かけてしまふのです。

「編集部の加藤保栄君」なる人物が同行します。宮脇氏の見立てでは、記者出身だけに取材力に長けており、観察力の鋭さから歴史家か考古学者に向いてゐるのではないか、といふ人。「はたせるかな最近は歴史小説に筆を染めている」と書いてゐます。さう、実はこの「加藤君」、のちに作家の中村彰彦となるのでした。
さういへば『インド鉄道紀行』では、元俳優の高柳良一氏が編集者として同行してゐましたね。人に歴史あり。

文春文庫の5月新刊。新装版であります。

ん-日本語最後の謎に挑む
ん―日本語最後の謎に挑む (新潮新書)ん―日本語最後の謎に挑む (新潮新書)
(2010/02)
山口 謠司

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ん-日本語最後の謎に挑む
山口謡司【著】
新潮社(新潮新書)刊
2010(平成22)年2月発行


発売以来気になつてゐた一冊であります。やうやく読む。
「ん」といふのは、長い日本語の歴史から見ると、新しい文字ださうです。
たとへば『古事記』には、文字どころか「ん」と発音する部分は皆無だとか。

しかし現実には「ん」の音がない筈がありません。それを表記する必要から、西暦800年くらゐから「ん」「ン」が登場したのだと著者は語ります。
「ん」の起源をたどると、空海とサンスクリット語まで遡るとは思ひませんでした。最澄・安然・明覚...多くの先達が「ん」のために力を注いだのあります。感謝。第三章-第五章のあたりや第七章の論争の話などはコーフンしますね。予想以上に力瘤の入つた書物であります。

「ん」の音は下品として好ましく思はない人がゐるのは、どうやら今に始まつたことではないらしい。文字の登場が遅れたのも関係がありさうです。著者の仏人である奥様は、著者が「んー」といふと抗議するらしい。耳障りなのでせう。代りに「ムムム」と発すれば問題ないとか。
ここで唐突に思ひ出すのが、故ちばあきおさんの漫画であります。彼の漫画における会話文には、極力「ん」を廃してゐるやうに思はれます。
相槌で「うん」とでも言ひさうなところは「うむ」とか「む」だし、「○○なんだ」は「○○なのさ」となります。バントのサインをイガラシくんに確認にいくと、「む。ちと危険だがな」と中学生らしからぬ返答。
ちばさんも、「ん」の音を嫌つてゐたのでせうか...

東宝特撮女優大全集
別冊映画秘宝 東宝特撮女優大全集 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)別冊映画秘宝 東宝特撮女優大全集 (洋泉社MOOK 別冊映画秘宝)
(2011/03/28)
不明

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東宝特撮女優大全集
別冊映画秘宝
洋泉社(洋泉社ムック)刊
2011(平成23)年3月発行


近所のS文館書店といふ本屋にて発見しました。おお、かかる素晴らしい出版物が!といふ感動を覚え購買。
表紙は『怪獣大戦争』におけるX星人「波川」を演じた水野久美さま。特撮女優の代表といへばこの人。いまだに海外からもファンレタアが来るさうです。

久美さまを大きく取り上げるのは当然すぎるほど当然で、他の女優さんたちも網羅されてゐます。
見開きで東宝女優勢ぞろいの写真があります。優雅で華麗な世界。映画女優がまだ庶民の憧れのスタアであつた時代を想起させてくれます。
かうして見ると、東宝の女優さんはやはり「お嬢さま」のイメエヂが強いですね。

インタビュー記事も充実してゐます。特に若林映子さん、小林夕岐子さん、沢井桂子さん、藍とも子さんなどは、他であまり見かけないので嬉しいのであります。
名作『メカゴジラの逆襲』のヒロインだつた藍とも子さん。サイボーグ少女の設定ですが、劇中で手術中に乳房(ニセモノですが)を披露するシーンが話題になりました。彼女は何とそのシーンでは眠つてゐたさうです。これはびつくり。
小林夕岐子さんの父君は名優・水島道太郎氏。田崎潤・河津清三郎両氏の声質が水島氏に似てゐるといふ指摘は、大いに首肯するところであります。
そして何と「川口節子」さんのインタビューまで。何とメイニアックな...
一般的な知名度は低い女優さんですが、東宝特撮ファンにとつては、必ずそこに存在する、空気のやうな人。男優では「勝部義夫」さんみたいな人かな。

「W高橋」こと高橋紀子さんと高橋厚子さんの記事では、わたくしの知らなかつたことが。
『ゲゾラ・ガニメ・カメーバ 決戦!南海の大怪獣』でヒロイン役だつた厚子さんですが、元元は紀子さんがキャスティングされてゐたとか。
それが結婚即引退となつてしまひ(夫君は寺田農さんですよ)、厚子さんが抜擢されたさうです。
ううむ、あのキュートな紀子さんがアヤ子役...見たかつたのお。
しかし高橋厚子さんは懸命に大役をこなしました。特に佐原健二さんの小畑が最期に宇宙生物に心まで寄生されやうとする場面、涙ながらに必死の説得をする演技は、彼女の女優生活でベストシーンではないか? さうでもない? ま、わたくしの個人的意見といふことで。

キリがないのでこの辺で。わたくしと趣味を同じくする方にとつては、必読のムック本と申せませう。もつともさういふ人はとつくに本書を入手してゐる可能性が高いのですが。
それでは、ご無礼します。