源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
普通の家族がいちばん怖い
普通の家族がいちばん怖い―崩壊するお正月、暴走するクリスマス (新潮文庫)普通の家族がいちばん怖い―崩壊するお正月、暴走するクリスマス (新潮文庫)
(2010/03/29)
岩村 暢子

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普通の家族がいちばん怖い―崩壊するお正月、暴走するクリスマス
岩村暢子【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2010(平成22)年3月発行


18歳の息子にサンタクロースの存在を信じ込ませてゐる(つもりの)母親。サンタを信じてゐる間は、ウチの子は大丈夫、などといふ。例外的なケースでもないやうで、何歳になつても夢を見てゐて欲しいのださうです。
本当にかういふ家庭が多いのなら、確かにまことに怖いと申せませう。子供は、母親に合はせて信じてゐるふりをしてゐるだけなのに。あるいは単にプレゼント欲しさか。

日本の風習を子供に伝へたいと語る母親が、同時に自分は酒を呑まないから御屠蘇はしない、御節は面倒だから作らない(または自己流)...ギャグではないやうです。
一方でクリスマスの飾りつけに関しては、異常なほどの情熱を示すのであります。これは一体どういふことでせうか。

本書はそもそもアサツー ディ・ケイといふ企業の「フツウの家族の実態調査(クリスマス・お正月編)」が元になつてゐます。著者の岩村暢子氏は同社の「200Xファミリーデザイン室長」」として、かかる調査を続けてゐるさうです。

で、本書はすこぶる評判が悪い。なぜでせうか。調査家庭のサンプルが少ない? 偏つてゐる? 信用できない?
もしくは自分が気付きたくないと忘れたふりをしてゐた事実を抉られたから? はたまた「こんなのは普通の家族とは言へないよ、私はさうぢやないのだから一緒にされては迷惑千万」といふ心理が働いたのか?

しかしこれらの家族は今や、「例外的」な存在ではないでせう。増加してゐるのは肌で感じるのであります。
なぜならば、わたくしの周囲のファミリーもおほむね同様の傾向であるからです。当然違和感を抱くのですが、ま、所詮他所の家庭、口出しはしないのであります。アレ? ウチはどうだつたかな。

それにしても著者の筆致は相当に毒を含んでゐます。多分ご本人はそれほど意識してゐないでせうが、調査に協力した主婦たちが本書を読んだら怒るだらうな、と余計な心配をしてしまふ。
ま、この毒が面白いのですけど。アハハと笑つた後、やはり怖くなるのが本書であると申せませう。

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メギドの火
メギドの火 (1) (竹書房文庫―異界作品集)メギドの火 (1) (竹書房文庫―異界作品集)
(1995/07)
つのだ じろう

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メギドの火<全2巻>  
つのだじろう【著】
竹書房(竹書房文庫)刊
1995(平成7)年7月発行

中学生・北斗一生の周辺には奇妙な事件が続発します。
赤信号なのに横断歩道に割り込む迷惑な車、暴力を振るうチンピラ学生、公道で子供に平気でオシツコさせる母親...さういふ、他人を省みない、自分さへ良ければいいのさ、といふ人々が次々と突然姿を消してしまふ事件が起こるのであります。
実は北斗くんは「宇宙連合」から、悪を消すコンタクトマンとして選ばれてしまつたのでした。「正義のため」知らぬ間に自分が「こんな奴らいなくなればいいんだ...」と思つた人たちを消してゐたのであります。そして「宇宙連合」から「メギド」なるメッセージが! なぜ自分がこんな能力を? 「メギド」とは何か。「宇宙連合」とは一体何か...? 北斗くんは謎が深まるばかりなのであります。

つのだじろう氏得意の霊能力・超能力をベイスにしながら、地球最終戦争まで描くSF大作であります。そして意外な「メギド」の正体。
身を守るための生存競争において、正義とか平和とか、一体何なのだと問ふ主人公。「しょせん衣食足りてる社会にしかなりたたないかんがえじゃないのかっ!?」
その問ひに対して答へられる人はゐるのでせうか。

セルジュ・ゲンスブール ジタンのけむり
セルジュ・ゲンスブール ジタンのけむり―ねじれた男への鎮魂歌セルジュ・ゲンスブール ジタンのけむり―ねじれた男への鎮魂歌
(2003/05)
シルヴィー シモンズ

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セルジュ・ゲンスブール ジタンのけむり―ねじれた男への鎮魂歌
シルヴィー・シモンズ【著】
田村亜紀【訳】
シンコー・ミュージック刊
2003(平成15)年5月発行


セルジュ・ゲンスブールの評伝といへば、今のところジル・ヴェルランのやつが決定版とされてゐるやうです。
実際アレは「これでもか!」といふほど多くの人物に取材し、貴重な証言が満載で面白かつたのであります。

で、本書は「初めて英語で書かれたゲンスブールの評伝」といふのがウリみたいです。
著者はシルヴィー・シモンズといふ英国の有名なロック・ジャーナリストだといふことです。
かつての世界の二大国である英仏は何かといがみ合つてゐることが多い。
英人は助平な事象に対し何かと「フレンチ」を冠し、同様に仏人は「アングレ」を付すのであります。そこまでしなくても、と思ひますが。
本書ではシルヴィー・バルタンのことを記す時に、わざわざ(フランスの人気歌手)みたいな注釈を入れてゐます。悪意すら感じるのはわたくしだけでせうか。

などと文句を言つてゐますが、これは編年体で書かれたセルジュの貴重な記録と申せませう。ジェーン・バーキンへのインタビューがかなりの量を占めますが、これ以上適任の人はありますまい。
なぜならセルジュ本人はサアヴィス精神も旺盛なので、話を脚色・捏造する恐れがある。その点、もつとも彼と同じ時間を共にしたジェーンは、さまざまな「あの事件」について新事実を語つてくれるのです。

巻末のディスコグラフィーも詳細でよろしい。さあ皆でセルジュを聴かうよ...

プロ野球が殺される
プロ野球が殺される (文春文庫)プロ野球が殺される (文春文庫)
(2009/09/04)
海老沢 泰久

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>プロ野球が殺される
海老沢泰久【著】
文藝春秋(文春文庫)刊
2009(平成21)年9月発行


今年のセントラルリーグは、なにがしといふチームが貯金を独り占めにして、ひいきにしてゐる私としては「いやあ5球団のファンの皆さん、申し訳ない」などと込み上げる笑ひをかみ殺してゐるのです。
もつとも長続きはしないだらうとは思ひますので、ご安心を。長年このチームのファンをしてゐると、急失速するのは慣れてゐるからです。ここ数試合の貧打ぶりを見ると、案外早いかも。

さて本書。物騒なタイトルであります。殺される。
もしプロ野球が死にかかつてゐるのなら、勝手に内部から崩壊してゐるのではないかと思はれるのですが。「殺される」といふのなら、一体誰が殺すのか。
第1章「野球選手に感情移入できない」を見ると、まづ選手自身を槍玉に挙げてゐます。しかし第2章「プロ野球が壊れていく」では、コミッショナーも球団もオウナーも監督も選手も、そして世論もマスコミも皆悪いやうに見受けられます。救ひがないですな。

ただ海老沢氏といひ宇佐美徹也氏といひ、昔の投手を賛美するのはいいが、まるで今の投手が怠け者みたいに語るのはどんなもんでせうね。
稲尾投手や杉浦忠投手(郷土の英雄!)の化け物みたいな鉄腕ぶりを、今の投手に求めてはいけません。権藤権藤雨権藤の時代ではありますまい。
それ以外の、制度に関する提言などには、やはり球界の皆様には耳を傾けていただきたいものです。

尚、本書の後半はサッカーを始め大相撲などほかのプロスポーツを論じてゐます。

原発労働記
原発労働記 (講談社文庫)原発労働記 (講談社文庫)
(2011/05/13)
堀江 邦夫

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原発労働記
堀江邦夫【著】
講談社(講談社文庫)刊
2011(平成23)年5月発行


なまなましい記録であります。
かつて『原発ジプシー』として発表されたものに、27年ぶりに加筆修正されたうえで改題されたものであります。
このタイミングで復刊されるのは、今まだ進行中の福島第一原発の事故が関係してゐるのでせう。
「まだ原発事故により苦しんでゐる人が多いのに、商売に利用するとは怪しからぬ!」といふ意見もあるでせうが、一読してやはり今こそ読まれるべき本であると思ひました。

1978年9月のこと。著者は、原発の<素顔>が見えぬ「いらだち」を理由に、自ら原発で働くことを決心します。
関西電力美浜、東京電力福島第一、日本原電敦賀の3箇所を渡り歩き自らの身体で「原発作業員の実態」を探るのであります。当時すでに妻子があつたやうですが、大した度胸であります。
電力会社の下請け、孫請け、曾孫受け(「協力会社」といふらしい)の作業員は相当危険な仕事をさせられてゐるのだらう、と漠然と考へてゐましたが、予想を上回る劣悪な環境の中で仕事をしてゐたのですね。

原発の<素顔>が見えない、と思つたのは当然で、とにかく隠蔽するからであります。特に被爆、事故に関する話。
現場の問題点を改善もしないまま、ただ怪我をしないように、との訓示。怪我をしたら電力会社に謝罪する(逆ではないのか)。労災はもちろん認めない。怪我人が出ても救急車は呼ぶな、マスコミに事故を嗅ぎつかれると、苦しむ怪我人を前に言ひ放つ。

原発の<素顔>が見えた時には、著者は身体の限界を感じます。事故による骨折と、浴び続けた放射能。いくら若くても長続きするものではありますまい。身体を張つた真に貴重なルポと申せませう。