源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
日本映画スチール集 新東宝大蔵篇
日本映画スチール集 新東宝大蔵篇―松田完一コレクション日本映画スチール集 新東宝大蔵篇―松田完一コレクション
(2001/06)
不明

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日本映画スチール集 新東宝大蔵篇―松田完一コレクション
石割平/円尾敏郎【編】
ワイズ出版刊
2001(平成13)年6月発行


松田完一コレクションの一冊。
松田完一氏とは、映画の評論家みたいな専門家ではなく、本来は市井の一映画ファンなのださうです。それが高じてさまざまな資料を蒐集するコレクタアとなつたとのこと。
コレクタアといつても半端な量ではないやうです。何しろ郷里岡山に自らのコレクションで映画資料館を作つてしまふほどであります。映画メイニアの夢と申せませう。

映画ポスタアも面白いのですが、スチール集も愉快であります。新東宝は1961(昭和36)年に消滅するのですが、俳優や監督たちは、そこから他社へ移籍したりフリーになつたりしました。宇津井健・丹波哲郎・天知茂・菅原文太・吉田輝雄・池内淳子・大空眞弓・三ツ矢歌子...後に大スタアとなる面々であります。若き日のスチール集は、大物になつてからでは見られない表情も多く記録され、まことに興味深いものがあります。キンゴローと絡む丹波哲郎なんて、新東宝でしか見られません。

ワイズ出版には、他にも「石割コレクション」「佐々木コレクション」など秘蔵のポスタア集・スチール集がございます。それぞれ見てゐて飽きることなく、たちまち時間が過ぎます。その中で特に本書を選んだのは、わたくしが大蔵新東宝のファンだからであります...

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文学ときどき酒
文学ときどき酒 - 丸谷才一対談集 (中公文庫)文学ときどき酒 - 丸谷才一対談集 (中公文庫)
(2011/06/23)
丸谷 才一

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文学ときどき酒―丸谷才一対談集
丸谷才一【著】
中央公論新社(中公文庫)発行
2011(平成23)年6月発行


中公文庫になつた『文学ときどき酒』を見て、一気に少年時代に遡る心持がしたのであります。
元は1985(昭和60)年に集英社から出版されたもので、26年前といふことになります。
従つて登場する対談相手も時代を感じさせる人ばかりでございます。今では大半が物故者となつてゐます。それだけに貴重な対談集と申せませう。

対談相手は豪華な顔ぶれで、収録順に列挙しますと、吉田健一・河盛好蔵・石川淳・谷崎松子・里見・円地文子・大岡信・篠田一士・ドナルド・キーン・清水徹・高橋康也の各氏であります。
事象を列挙する場合、読点(いはゆるテンですな)を使ふのは本来の使用法ではないと、あるジャーナリストが述べてゐました。さういふ場合は中黒を駆使すればよろしいと。ところがそれをやると、上のやうにドナルドさんとキーンさんが別の人のやうに見えてしまふ。解決策として、ドナルド=キーンと表記すればいいと件のジャーナリストは主張するわけですが、「=」は余り使ひたくない。で、やむなくかういふ表記になつてゐます。

話が脱線したついでに「=」にまつはる思ひ出。昔「Sage(サージュ)」といふ本好きのための雑誌がありました。その雑誌のある号に、筒井康隆さんがアンケートに答へてゐたのですが、「注目する作家」といふ問に対して「バルガスニリョサ」と書いてあつたのです。おそらく手書きで「=」とあつたのを、雑誌編集がカタカナの「ニ」と読み違へたのでせうね。無論これは「バルガス・リョサ」が正しい。これ以来私は「=」の使用をためらふやうになつたのです。

文学ときどき酒といふタイトルに反し、酒を呑んでゐる描写(?)はほとんどありません。が、それはどうでもよろしい。ここは一つ丸谷氏の対談術の巧みさと、文学鑑賞における審美眼の確かさにうつとりしてゐれば良いと思ふのであります。

怪盗ジバコ
怪盗ジバコ (文春文庫)怪盗ジバコ (文春文庫)
(2009/04/10)
北 杜夫

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怪盗ジバコ
北杜夫【著】
文藝春秋(文春文庫)刊
2009(平成21)年4月発行


『クレージーの怪盗ジバコ』といふ映画は、30本に及ぶ東宝クレージー映画の中で、唯一原作のある作品であります。ジバコに扮した(?)植木等さんの、例のウヒャヒャといふ高笑ひ。翻弄されるハナ肇・谷啓。
すでにクレージー映画としては峠を越ゑたといはれる時期の作品で、小林信彦さんなどは酷評してゐます。
無責任=植木のイメエヂを追うとさういふことになるのでせうが、むしろ「ハナ肇とクレージーキャッツ」といふグループのアンサンブルを愉しむべきでありませう。原作小説とはかなり印象が違ひます。

北杜夫氏の『怪盗ジバコ』は、元来1967(昭和42)年に発表されたユウモワ小説なのですが、2年前に文春文庫で復刊されたのであります。
ジバコは希代の怪盗であり、本名年齢素顔全く分からず、変装の名人でもあります。盗みはするが、あこぎな仕打ちはせずに、むしろユウモワを感じさせる余裕の盗みをするのでした。
明智小五郎くんと対決し、ジェームズ・ボンドを赤子の手をひねるようにあしらふ。超人であります。

上質な娯楽小説となつてゐますが、気になるのは、復刊された現代の読者の目にはどう映るのか、といふことであります。
遠藤周作氏のいふやうに、いつの頃からかユウモワは軽んぜられてゐるやうです。お笑ひと称するものは人気があるやうですが。
何かと強い刺激に慣らされた現代人には「ユウモワ」を解することが出来るか...?

さらば学校技術 実践翻訳の技術
さらば学校英語 実践翻訳の技術 (ちくま学芸文庫)さらば学校英語 実践翻訳の技術 (ちくま学芸文庫)
(2006/12)
別宮 貞徳

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さらば学校技術 実践翻訳の技術
別宮貞徳【著】
筑摩書房(ちくま学芸文庫)刊
2006(平成18)年12月発行


1980(昭和55)年に発売された『翻訳の初歩 英文和訳から翻訳へ』(ジャパンタイムズ)の復刻版のやうです。
一部加筆されてゐますが、基本的には現在でも十分通用する内容であると判断されたのでせう。
「さらば学校英語」なるフレイズには、大学受験が目的である実用的ではない英語といふ意味と、英文解釈で使う和訳と翻訳はまるで異なるのだといふ側面を表してゐるのでせう。

この著者は以前にも似たやうな入門書を上梓してゐますが、なぜ又本書を書いたのか。
「はしがき」によると、入門書として発表した『翻訳読本』(講談社現代新書)ですら、難しいといふ声があがつてゐたとか。それでさらに噛み砕いた本書の登場となつたのであります。

したがつて主張するところは『翻訳を学ぶ』『翻訳読本』と変らないのですが、シンプルになつた分、より鮮明に読者に伝はるのではないかと考へます。
例へば「良訳への道」への最初の条件として「日本語を書く」とあります。当り前ぢやん、といふ人はまだ分つてゐない。本書を読む「資格」があると申せませう。
また、「誤訳」に対して世間は手厳しいが、それよりも罪深いのは日本語ならざる文章であるとする。ほとんどの場合は実力不足を糊塗する為に誤魔化さうとして変な日本語になるみたいです。
それに比べたら単純な誤訳はまだマシであります。ま、無いに越したことはありませんが、二葉亭・鴎外以来「名訳」と呼ばれる仕事の数々には、常に誤訳は付き物だとか。

まことに分かりやすい本書でありますが、受験勉強中の高校生なんかは読まない方が良いかも知れませぬ。少なくともテストの点が上がるといふ種類の本ではありません。別宮先生の辛辣な文章を愉しみたいといふなら止めませんが...