源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
「清張」を乗る
「清張」を乗る―昭和30年代の鉄道シーンを探して (交通新聞社新書)/交通新聞社

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清張」を乗る-昭和30代の鉄道シーンを探して
岡村直樹【著】
交通新聞社(交通新聞社新書)
2009(平成21)年12月発行


なかなかユニイクな企画ですな。
わたくしも清張作品は大好きであります。反骨精神を保持しながらも、読者にご馳走を提供しませうといふ娯楽作品に徹する姿勢は、物書きの鑑ではないでせうか。

本書は、その清張作品に登場する鉄道の場面に絞つて論じたものです。原著のみならず、映画化作品についても言及してゐます。
サブタイトルにもありますやうに、その主要作品は昭和30年代に集中してゐるのです。
テツと呼ばれる方々は、昭和30年代は鉄道の黄金時代だつたと何かにつけて仰います。

確かに当時の時刻表復刻版なんかを見ますと、相当の充実ぶりであります。涎が出さうですね。
しかしその実態は、清張作品(及びその映画)を見ますとあまり乗客本位になつてはゐませんね。快適な旅とは程遠く、難行苦行にすら見えます。

何しろ当時の国鉄といへば、駅まで足を運べば列車に乗せてやらんでもない、といふくらゐの横柄さ。航空機がまだ高嶺の花で、自家用車を持つ人もほんの一握りだつた時代だけに、庶民は外に選択肢がなかつたのであります。国鉄はこれに胡坐をかいたと申せませう。そのツケがどのやうにまわつたか、それは皆様の記憶に新しいことと存じます。

それはともかく、文学作品の鉄道場面をなぞる旅といふのは面白い。もつとこの種の企画はあつても良いなと思ひます。少なくともわたくしには、廃線跡などよりも興味深い。
清張ファン、テツの人々共にどうぞ。
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坊っちゃん
坊っちゃん (新潮文庫)/夏目 漱石

¥300
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坊っちゃん
夏目漱石【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1950(昭和25)年1月発行
1980(昭和55)年5月改版
2003(平成15)年4月改版
2012(平成24)年2月改版


夏休みといへば読書感想文。かういふものを強制するのは、読書嫌ひを増加させるものとして有害と申せませう。
自分の中高生時代を思ひ起せば、クラスの友人たちは読書嫌ひが多く、感想文を書くために課題図書を自ら選ぶ訳ですが、その際に「なるたけ楽にちやちやつと読めるやつを」と考へるのであります。
そして出来るだけ薄つぺらい本が良いといふことで、「新潮文庫の100冊」からカフカの『変身』なぞをチョイスする浅墓な奴が続出するのであります。ほかには『天平の甍』『悲しみよこんにちは』『ソークラテースの弁明・クリトーン・パイドーン』なども。読み始めて一頁目から激しく後悔するのでした。

その点、この『坊っちゃん』は間違ひがない。親譲りの無鉄砲に始まり清のその後に至る最後まで、年少の読者も一気に読めるのであります。
わたくしが最初に購買した『坊っちゃん』は、新潮文庫版で120円でした。ちなみに更に薄い『変身』は、なぜか140円。
当時の担任教師・W先生は、その120円の『坊っちゃん』を見て「文庫も高くなつたのう」とつぶやいてゐました。

ま、今さらわたくしが古典中の古典である『坊っちゃん』を喋喋しても、いたづらに諸兄の目を汚すのみと思はれます。(ならば書くなと、ごもつともな意見が聞えてきます。)
ただ、今回読み直して気がついたのは、舞台である四国の地名はどこにも書かれてゐない、といふことでした。
今でこそ松山市が舞台であることは有名ですが、当時の読者は一読してすぐに分かつたのか?
多分さうではないのでは。だからこそ漱石氏はあれだけの悪口雑言を並べ立てたのではないでせうかね。
もつともわたくしには、愛惜の情がこもつた悪口にも見えます。
『私の個人主義』を読んだ人ならきつと頷くことでせう。



極めよ、ソフテツ道!
極めよ、ソフテツ道! ~素顔になれる鉄道旅~ (IKKI BOOKS)/小学館

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極めよ、ソフテツ道! 素顔になれる鉄道旅
村井美樹【著】
小学館(IKKI BOOKS)刊
2012(平成24)年7月発行


村井美樹さんのブログが本になりました。
といつても、公式ブログの方ではなく、『新・鉄子の旅』が連載されてゐるコミック雑誌「IKKI」の連動ブログであります。
名付けて「極めよ、ソフテツ道☆」(「!」ではなく「☆」)。

そもそも「ソフテツ」とは何か。
村井さん自身の造語で、「ソフトなテツ」の略のやうです。そのままですね。
この言葉が初めて登場したのは、前作『鉄子の旅』第46旅にて。

村井「...私やっぱりテツなのかもしれません! でもまだまだソフトなテツでソフテツです、たぶん!」
横見「そう! 俺はバリテツだから! バリバリのテツ!」
キクチ「...なんだあの会話...」

さらに『鉄子の旅プラス』にて、

村井「改めて思ったのは私は乗って雰囲気を味わうのが好きだってことですね。やっぱりソフテツなんですね」「だからこれからはソフテツを極めたいと思います!!」
キクチ「ものすごく矛盾してるよね、ソレ」

もつとも村井さんの行動はしばしばソフテツを逸脱し、読者を呆れさせ、驚かせてくれます。
「Qさま」の彼女しか知らない人が読むと、イメエヂが覆されることでせう。

それにしても「はやぶさ」のグランクラスにまで、プライベートで乗つてしまふとは。
多くのファンが指摘するやうに、もうソフテツと呼ぶには違和感がありますな。
村井さんのファンは、必ず購読しなければいけません。
それ以外の人は、本書を書店で見かけたら、「ふふん」と鼻で笑つて欲しいものです。以上。