源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
僕はいかにして指揮者になったのか
僕はいかにして指揮者になったのか (新潮文庫)/佐渡 裕

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僕はいかにして指揮者になったのか
佐渡裕【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2010(平成22)年9月発行


まことに愉快な一冊。
佐渡裕さんといへば、指揮台でやたら動き回るデカイ人、といふ印象であります。本書を読めばその心もデカイ人だなと感じます。

1995年、34歳当時に書いたもので、若さゆゑの勢ひも迸るのであります。
内容はタイトル通り。内村鑑三ですね。
幼時から音楽で自分を表現する能力があつたといふ。潜在的なものもあつたのでせうが、どうやら家庭環境も大きな原因であるやうです。素晴らしいご両親であります。

そして小澤征爾・バーンスタイン両氏との出会ひ。さらに、強力な「指導霊」まで憑いてゐるとか。「主護霊」は一生変らないが、「指導霊」は本人の生活態度次第で交代するらしい。
それはそれとして、やはりバーンスタインのもとで学んだ時期が一番充実してゐたやうです。この巨匠に関西弁を話させるとは誰が予想したでありませうか。

文章もまことに上手く、最後まで面白く読めました。読後に元気が出ますよ。


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真相はこれだ!
真相はこれだ!―「昭和」8大事件を撃つ (新潮文庫)/祝 康成

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真相はこれだ!―「昭和」8大事件を撃つ
祝康成【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2004(平成16)年3月発行


真相はこれだ!と勇ましいタイトルであります。さらに昭和8大事件を撃つとのサブタイトル。
週刊誌の見出しみたいだと思つたら、実際「週刊新潮」誌上で連載されたものださうです。

「美智子皇后失声症」...本稿を読むまで、すつかり忘れてゐた事件。華やかなミッチーブームの影で、苦闘を続けてきた美智子皇后の本心が窺はれるルポであります。
「三億円事件」...初動捜査の失敗が誤認逮捕を生んだのでせう。事件そのものよりも誤認された男性のその後を追ふことで、報道と人権について改めて考へるのであります。
「丸山ワクチン不認可」...これは当時から、丸山ワクチン不認可ありきでことが進んでゐる印象でした。未だ解決を見ない事件であります。
「美空ひばり紅白落選」...生前のひばりさんは、礼賛一辺倒の扱ひではなかつたですね。何かと口を出す母親、何度も逮捕され足を引つ張る弟...ダークサイドが目立つ存在は、NHKとしても出演依頼は難しい。しかし彼らはひばり親子を甘く見てゐたといふことか。
「成田空港闘争」...羽田が充実化する中、成田の存在意義が問はれてゐます。大勢の人が、こんなはずではなかつたと思つてゐながら、誰も望まなかつた方向へ行つてしまひました。
「和田心臓移植事件」...えー、恥づかしながら、この事件は知りませんでした。これは完全な殺人事件なのですね。この事件のせいで、日本の心臓移植は40年遅れてしまつたといふ指摘も。何とかならなかつたのかね。
「なだしお衝突事件」...ははあ、やつぱりね、といふ読後感。なだしお側の乗組員が黙して語らずでは疑惑は限りなく肥大するのです。
「猪木・アリ戦の裏ルール」...単に格闘技の話題に留まらず、社会問題化してゐましたね。当時の漫画『包丁人味平』には、ラーメン勝負の審査員として「アントニオ榎木」が登場しますが、観衆から「ラーメンはねころんでくうなよーっ!」とヤジられてゐます。関係ないけど。

いかに情報化社会といへども、足で稼ぐ取材が一番だと述べる著者。読み物としての体裁を整へながらも、貪欲に証言を得る取材チームに拍手であります。
一握の砂・悲しき玩具
一握の砂・悲しき玩具―石川啄木歌集 (新潮文庫)/石川 啄木

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一握の砂・悲しき玩具
石川啄木【著】
金田一京助【編】
新潮社(新潮文庫)刊
1952(昭和27)年5月発行
1968(昭和43)年3月改版
1992(平成4)年6月改版
2012(平成24)年6月改版


聞くところによると、2012年は石川啄木の没後100年ださうです。
死後100年経つても愛される啄木氏の短歌。只者ではないと申せませう。

『一握の砂』には、藪野椋十なる人物の序文が付されてゐます。ジャアナリスト渋川玄耳の筆名だとか。こんな筆名の人がゐるから、椋鳩十鳩椋十問題に拍車をかけるのではないか。関係ないですね。
「我を愛する歌」のトップには、有名な「東海の小島の磯の白砂に/われ泣きぬれて/蟹とたはむる」が配置されてゐます。
総題の元になつた「頬につたふ/なみだのごはず/一握の砂を示しし人を忘れず」を押し退けての抜擢。その理由は金田一氏の「解説」で詳らかになつてゐました。なある。

『悲しき玩具』になると、生活感が丸出しの歌が多くなります。病苦、生活苦が窺はれて切なくなるのであります。
登場人物については、金田一氏が親切に解説してゐます。痒いところに手が届く。土岐哀果氏のあとがきとともに、我我の鑑賞を助けてくれます。

うん、良いですねえ。啄木。贅沢な御馳走を味はふやうなものです。枕元に置き、折に触れて好きな部分を読み返すのも良い。
今後も新たな読者を増やしてゆくことでせう。

では御無礼します。
氷上の光と影
氷上の光と影―知られざるフィギュアスケート (新潮文庫)/田村 明子

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氷上の光と影―知られざるフィギュアスケート
田村明子【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2011(平成23)年1月発行


先日、とある自転車レースに参加しました。結果については口を閉ざすとして、まあ無事に完走した、とだけご報告申し上げます。
しかし現実に突きつけられた結果は、誰もが納得するもの。自分より先にゴールした人に対して、本当は俺の方が先に着いたのさなどと発言すれば、頭の構造を疑はれることでせう。

『氷上の光と影』を読みながら、フィギュアスケートの判定の難しさといふものを改めて知らされ、ついそんなことを思つたのです。
判定するジャッジも人の子だなと。
長年に渡りフィギュアを取材し続けてきた著者だけに、まことに説得力があるのです。
特にわたくしのやうな門外漢には、ほほうと唸る話ばかりであります。そこまでバラしても良いのか。

今まで、テレビ観戦時に感じた疑問とか疑念とかがたちまち晴れてゆく書物であります。

では、ご機嫌良う。