源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
丹波哲郎の輪廻転生の旅
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丹波哲郎の輪廻転生の旅
丹波哲郎【著】
中央アート出版社刊
1984(昭和59)年10月発行


既視感とも訳される「デジャヴュ」といふやつ。丹波哲郎さんはあれを前世の記憶と関係あるんぢやないかと考へたのであります。
で、この本を書くにあたつて、インド・ネパールを取材してゐるやうですが、純然たるノンフィクションにはしませんでした。
著者本人も「はじめに」でことはつてゐますが、事実の部分とフィクションの部分が混在してゐるといふことです。

別段、自分の主張にとつて都合の悪い部分をフィクションにしたといふことではなく、著者が考へる生まれ変はり(輪廻転生)を読者に理解して貰ふための工夫のやうです。
どこが事実でどの部分がフィクションであるかの区別は分かりませんが、それは余り重要ではないでせう。

ドラマの撮影のため、三浦半島のとある旅館に投宿してゐた丹波氏の元へ、カメラマンと称する男が訪ね「自分の前世の故郷へ行つて来た」と突拍子もない事をいふ。
詳しく話を聞く丹波氏。それが元で、自らインド・ネパールへ前世・転生の秘密を探る旅にでるのですが、その旅程は驚愕の連続であつた...

小説と思へば中中面白いものです。デジャヴュは転生を証明する現象である、との主張は本当かどうか分かりませんが、どうせ本当の事は誰にも分からない。
読み物の一種として愉しむべき書物と申せませう。


丹波哲郎の輪廻転生の旅/丹波 哲郎

¥1,366
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屠殺屋入門
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屠殺屋入門
ボリス・ヴィアン【著】
生田耕作【訳】
奢灞都館刊
1979(昭和54)年10月発行


多方面でその才能を見せ付けたボリス・ヴィアン。数は少ないながら、戯曲作品も充実してゐることを証明する一作と申せませう。
ヴィアンの名声はほとんどが死後のものであります。それを裏付けるやうに、生前に実際に上演が実現したのは、本作『屠殺屋入門』のみであります。
しかも、執筆後四年も経つてやうやく実現した上演だつたと言ひます。その内容に恐れをなした関係者がイヤがつたのでせうか。

内容はとにかく馬鹿馬鹿しい。筋らしい筋も特に有りません。強ひていへば、屠殺屋の親父が自分の娘に婚礼させるために奔走する、といふところですが、それもどうでもいい感じです。
登場人物は夥しい数にのぼりますが、いづれも自分勝手に喋るだけで、収拾がつかない。
これほどの人物が登場しながら、物語はちつとも進まないといふところに面白さがあります。
戦争といふ愚かでくだらないものを笑ひとばす意図をくみ取る人もゐますが、あまり寓意を求めない方が粋といふものでせう。

ところで奢灞都館から出てゐる本作は、すでに絶版みたいです。早川書房の全集にも未収録。
入手は可能とは思ひますが、ネットでは結構な高値ですね。読みたい人は、我が家の苦心文庫で閲覧可能です...

屠殺屋入門 (1979年)/奢覇都館

¥2,205
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朝令暮改の発想
朝令暮改の発想―仕事の壁を突破する95の直言 (新潮文庫)/鈴木 敏文

¥460
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朝令暮改の発想-仕事の壁を突破する95の直言
鈴木敏文【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2011(平成23)年4月発行


小売業に身を投じたわたくし。所属する会社でも、チェーンストアの理想型のひとつとして、セブンイレブンは何かにつけて常にお手本とされてゐました。
ところがわたくしが住む東海地区(愛知・岐阜・三重)では、長らくセブンイレブンの空白地帯だつたので、日常的に見学することが出来なかつたのです。
それが2002(平成14)年に愛知県へ初出店するや、瞬く間に業界地図を書き換へてしまひました。

セブンが受け入れられる背景には、何があるのか。
『朝令暮改の発想』を読みますと、その要因の一端が垣間見る事ができます。
即ち。

・「顧客のために」ではなく「顧客の立場で」といふ視点で
・消費は経済学ではなく心理学で考へる
・みんなが反対することはたいてい成功し、賛成することは失敗する
・競合店の出店はむしろチャンスである
・過去の成功体験に囚はれない

...等々、95の直言がぐさりと読者を抉ります。まあ全篇読みどころと申せませう。
行詰つた時などに読み返すと、元気が出さうです。
これらの直言は、まさにそれらを実現してきた鈴木敏文氏ですから、抜群の説得力を持つといふもの。

「顧客の立場で」矢継ぎ早に新たなサアヴィスを提供するセブンですが、同時に現場のオウナアやスタッフの苦労も目に浮かぶのであります。レヂ業務を一通り覚えるのも大変なのに、常に変化して新たな受付が始まる。わたくしから見ると、超人的な能力が必要ではないかと...


自転車ツーキニスト
自転車ツーキニスト (知恵の森文庫)/疋田 智

¥680
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自転車ツーキニスト
疋田智【著】
光文社(光文社知恵の森文庫)刊
2003(平成15)年6月発行


タイトルの「自転車ツーキニスト」とは、自転車で通勤する人のことださうです。
近年かういふ人たちは増殖中だと聞きます。実際、街へ出ると実感するのであります。
わたくし自身は軟弱に車通勤してゐますが、その途上で多くの自転車通勤者を見かけます。
かつこ好いスポーツ車はもちろん、折畳自転車や小径車(ミニベロつていふのですかね)みたいな小さな自転車に乗つてゐる人も多い。
因みにわたくしの住む地方では、自転車のことを「ケッタ」と呼称します。

平たく言つてしまへば、自転車通勤は環境に好いし、健康的でお勧めですよ、といふ誰でも認識してゐることを、実体験を通じて主張するのが本書の内容と申せませう。
自転車に乗ると、日本の交通体系とか環境政策とか否応無く実感すると言ひます。ようするに自転車に優しくない国だなあと。歩道側からも車道側からも邪魔者扱ひされる存在。
北欧の自転車先進国みたいに行政が率先して対策を打たなければ、今後自転車通勤者が殖えても問題点ばかり浮き彫りになることでせう。

などといふ硬い話ばかりではなく、自転車にまつはる著者の体験談が、陽性の文章に乗つて語られます。特に第三章などは、テレビのディレクターといふ著者の職業ならではの物語があつて、読ませる内容であります。

自転車の薀蓄を求めやうとする本ではなく、純粋に読み物として愉しむと同時に、最終的には「人の幸福とは何か」なんて事まで考へる一冊でございます。


プロ野球 運命を変えた一瞬
プロ野球 運命を変えた一瞬 (PHP文庫)/近藤 唯之

¥540
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プロ野球 運命を変えた一瞬
近藤唯之【著】
PHP研究所(PHP文庫)刊
1997(平成9)年10月発行


バーネット投手がブランコ選手に満塁本塁打を打たれ、我がスワローズは2012年の終戦を迎へたのであります。ま、こんなものか。
あれこれ言ひたい事はあるものの、選手たちは全力を尽くしたのであらう。責める事は出来ない。

それでもやはり口惜しいので、近藤唯之氏の本を読む。
一流選手とは何かと考へると、与へられた一瞬の機会をものにする人なのだらうと思ひます。大多数の凡人にとつては何事もない一瞬でも、彼らはそれを逃さず自分の味方につけるのでせう。

本書に収められた、野村克也からイチローに至る19人も、その長い球歴の中で一度ならずさういふ瞬間はあつたでせう。
もつとも、それは栄光の瞬間ばかりではなく、屈辱や挫折の瞬間もあります。人間くさいのであります。

さて我我は、さういふ運命を変へるほどの一瞬をどれだけ経験出来るのでせうか...

時刻表でたどる鉄道史
時刻表でたどる鉄道史 JTBキャンブックス/宮脇 俊三

¥1,785
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時刻表でたどる鉄道史
宮脇俊三【編著】
原口隆行【企画・執筆】
JTB(JTBキャンブックス)刊
1998(平成10)年1月発行


10月14日は鉄道の日。いまだに「鉄道記念日」と口にしてしまひます。
近年は鉄道趣味が市民権を得たのか、鉄道の日もメディアに取り上げられることが多くなりました。今日もNHKニュウスをラヂオで聞いてゐたら、「今日は鉄道の日です。各地でイベントが...」などと報道してゐました。表舞台に出るとつまらないのであります。

本書は時刻表の変遷から日本鉄道史を俯瞰しませうといふ企画。
編著者に宮脇俊三氏の名がありますが、実態は原口隆行氏の著作でせうか。
あくまでも「時刻表でたどる」鉄道史ですので、時刻表に現れない重大事件は取り上げられてゐません。ま、さういふのは通常の鉄道史を繙くとして、どつぷり時刻表の世界に浸りませう。

といつても、時刻表の歴史は日本の近代史そのものと申せませう。読み応へあり。
裏声で歌へ君が代
裏声で歌へ君が代 (新潮文庫)/丸谷 才一

¥860
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裏声で歌へ君が代
丸谷才一【著】
新潮社(新潮文庫)発行
1990(平成2)年7月発行


本日は「源氏川苦心の快楽書肆」を更新する心算ではなかつたのですが、あまりにも悲しいニュウスが飛び込んで来たため、かうして書いてをります。
言ふまでもなく、丸谷才一氏の訃報であります。
いつかは必ず来る日であることは承知しながら、昨年文化勲章を授章した際のインタビューでまだまだ元気な様子を見てゐましたので、やはり唐突の印象を免れません。

小説・評論・翻訳・エッセイ...それぞれが完成度の高い作品群ですが、わたくしとしてはやはり「長篇小説作家」としての丸谷氏が、一番力量を示してゐるやうに思ひます。
『笹まくら』も好いし、『たった一人の反乱』も唸らせるが、個人的に一番好きなのはこの『裏声で歌へ君が代』であります。
丸谷氏本人は「これは非政治的人間が書いた政治小説である」と述べてゐます。国家とは何かといふ、ややもすれば大上段に構へやすい問題を、観念的にならず物語の面白さでもつて鮮やかに問ひだたしてゐます。

もう丸谷作品の新作は読めないのだな、と思ふと残念でなりません。さういへば、わたくしの風貌は丸谷氏のそれと酷似してゐる、と指摘されたことがあり、とても親近感が沸いたものであります。(ただし頭髪が豊かだった頃の話)

ああ。つらいので寝ることにします。ご無礼します。
湛山除名
湛山除名―小日本主義の運命 (岩波現代文庫)/佐高 信

¥1,155
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湛山除名-小日本主義の運命
佐高信【著】
岩波書店(岩波現代文庫)刊
2004(平成16)年9月発行


学校では公民の授業で、歴代首相のことを学んだりしますが、石橋湛山といふ人のことはあまり取り上げられません。鳩山一郎と岸信介の狭間に埋れてゐる印象であります。
しかし、本書を読みますと、その思想や政治手法は正統派リベラルとして注目に値するものと申せませう。まあ最近はちよつとリベラルの安売りといふか、誰にでもリベラルといふ呼称を与へる傾向がありますが。

元々石橋湛山は東洋経済新報社の代表にまでなつてゐた人。ジャアナリストですね。今でも毎週月曜日に雑誌「週刊東洋経済」が刊行されてゐます。
そんな出自も関係してか、政界入りした後も反骨精神を失はず、主流派(吉田茂)にとつては煙たい存在となるのでした。タイトル通り、当時の自由党から除名されたりします。

健康上の理由で、短命内閣に終つたのはつくづく残念であります。短命といふより、組閣しただけで何も出来なかつた。
当時の年齢(72歳)からして、長期政権は望めなかつたでせうが、せめて次世代への種蒔きが出来ていれば、と口惜しく思ひます。

なほ、本書はまづ『良日本主義の政治家』(東洋経済新報社)として刊行されたものを、次いで『孤高を恐れず』(講談社文庫)と改題され、さらに岩波現代文庫に収録されるに際して『湛山除名』と再改題されたものであります。題名は違ふが、同じ内容なので注意されたし。


破戒
破戒 (新潮文庫)/島崎 藤村

¥704
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破戒
島崎藤村【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1954(昭和29)年12月発行
1971(昭和46)年3月改版
1988(昭和63)年4月改版
2005(平成17)年7月改版


島崎藤村といへば...
その一。高校生の時分に、藤村が夢に登場しました。家の押入れの中からひよつこり現れるといふイムパクトの強い夢だつたため、それを元に短篇小説を書き、所属する同人誌に掲載したところ、案外な好評を得ました。
その二。やはり高校生時代、修学旅行で、バスガイドさんが小諸にて「島崎藤村を記念した、ふじむら記念館です」と案内しました。

重いテエマの作品ゆゑ、思はずくだらない過去を告白してしまひました。瀬川丑松の告白とは雲泥の差でありますが。

部落出身の瀬川丑松は、亡父からその出自を「隠せ」と言はれ、戒めを守つてゐました。
しかし同じく部落出身の活動家・猪子連太郎の衝撃的な死をきつかけに、丑松の心は荒波のやうに揺れるのであります...

明治の世には「新平民」差別はあからさまだつたので、かういふこともあるのだなと得心もしませう。しかし以前勤務してゐた会社で、関西方面へ転勤する社員に対して「同和問題」の講義をしてから異動させるなんてこともありましたので、今でも差別は根強く残つてゐるのでせう。
求人広告に添付する「履歴書」の内容からして、東海地区と違ふのです。

瀬川丑松が生徒たちに告げるシーンでは、そのあまりにも卑屈な態度に疑義をはさむ人もゐますが、それこそが時代背景なのだと申せませう。
まあ、一度読んでみてと申し上げて、この稿を終ります。おやすみなさい。
ダイヤ改正の話
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ダイヤ改正の話 宮脇俊三対話集
宮脇俊三【著】
中央書院刊
1988(昭和63)年5月発行


鉄道に生きる人たち』に続く、宮脇俊三氏による対話集であります。
今回は、ダイヤ改正に伴ふ「スジ屋」さんたちの話。ただの改正ではなく、JRグループが発足して初めてのダイヤ改正時の話なので、注目を浴びたのです。
それまでは国鉄といふ大きな組織でやつてゐたのが、分割民営化で分社化してしまつた。
各社でバラバラの改正をしてゐては、乗客は大いに迷惑であります。その辺の苦労話を宮脇氏がJR各社の輸送課長さんたちから聞き出してゐます。

時刻表の表も裏も知る宮脇氏だけに、質問に無駄がない。輸送課長さんたちも、思はず本音をもらしてしまひます。「私どもからすると、あれ(他社からの乗入れ列車)はやはり邪魔な列車でございまして」なんてね。

帯には「日本図書館協会、全国学校図書館協議会選定図書」とあります。なるほど。本書の資料的価値が認められたと申せませう。
まあ我我宮脇ファンからすれば、単に面白いから読むのですがね...


ダイヤ改正の話―宮脇俊三対話集/宮脇 俊三

¥1,050

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