源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
最長片道切符の旅
最長片道切符の旅 (新潮文庫)最長片道切符の旅 (新潮文庫)
(1983/04)
宮脇 俊三

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最長片道切符の旅
宮脇俊三【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1983(昭和58)年4月発行
2008(平成20)年9月改版


宮脇俊三氏が亡くなつたのが、2003年の2月26日。即ち没後10年といふことになります。
「旅と鉄道」誌でも時刻表特集の増刊で、宮脇氏没後10周年の記事を載せてゐました。
それでわたくしも『最長片道切符の旅』を取り上げてみます。

この作品は処女作『時刻表2万キロ』に続くもので、中央公論社を退職した宮脇氏が「一世一代の暇」を利用して敢行した大旅行の紀行文であります。
同じルートさへ通らなければ、どんな遠回りをしても片道切符な訳で、汽車に乗ること自体を目的とする旅行者としては、恐らく一度はやつてみたい旅ではないでせうか。
わたくしも含めて、たいがいの人はそんなまとまつた時間がとれないので断念してゐると思はれます。
せめて『最長片道切符の旅』を(指をくはへながら)読むことにしませう。

最長を求めた結果、乗車・乗船(連絡船があるので)総距離は1万3319.4キロに及び、通過する駅は3186にのぼりました。切符の通用期間は68日。
途中で駅員や車掌の好奇の目に晒されながら、この切符を道連れに旅をする宮脇氏。最後の一日は通用期間を過ぎてしまひ、新しく切符を買ふはめになりますが...

現在の(JR)最長片道切符は、かなり短くなります。北海道なんかは廃線が多くてずたずたで、四国にいたつてはまるまるカットされてしまふのです。以前は本州との連絡が2本あつたために、入りと出ができたのですが、今は瀬戸大橋線のみなので、入つたら出られないのであります。残念。

まあ普通の人ならやらない酔狂な行為ですが、宮脇氏はまるで事務仕事をするかのやうなテンションで淡淡と予定をこなします。傍から見ると「この人はこんなことをして愉しいのか?」と思ふかも知れませんが、本人は愉しくて仕方がないのです。内心は愉悦に満ちてゐるのに、何も知らぬ他人からは、用務客がつまらなさうに乗つてゐるとしか見えないのでせう。そこが面白いところですな。

この時代と同じ旅は最早できないけれども、本書の価値が減ずることはありますまい。

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鉄道公安官と呼ばれた男たち
鉄道公安官と呼ばれた男たち―スリ、キセルと戦った“国鉄のお巡りさん” (交通新聞社新書)鉄道公安官と呼ばれた男たち―スリ、キセルと戦った“国鉄のお巡りさん” (交通新聞社新書)
(2011/08)
濱田 研吾

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鉄道公安官と呼ばれた男たち-スリ、キセルと戦った“国鉄のお巡りさん”
濱田研吾【著】
交通新聞社(交通新聞社新書)刊
2011(平成23)年8月発行


日本国有鉄道の消滅とともに、鉄道公安官(正確には鉄道公安職員)も姿を消したのであります。
その職務自体は鉄道警察といふものが引き継いでゐるので、一般乗客はあまり変化を感じないでせう。
一番大きな相違は、鉄道警察は各都道府県警の組織であるのに反して、公安官は国鉄の職員であつたといふところですかな。
あくまでも、乗客が気持ちよく旅行が出来るやうに努めるサアビス業としての誇りがありました。ゆゑに警察みたいに睨みをきかせる手法は取らないのであります。

鉄道公安官を主人公にした小説やドラマは多くありますが、その具体的な職務とは何かを記した書物は、専門書以外ではあまり見かけませんでしたので、その意味で本書の存在価値はそれなりに高いかと。ちよつと雑学ぽい話も多いが。

スリや痴漢、キセルなどの取り締まりだけではなく、実に様様な役割を担つてゐたのであります。
大雪の時は除雪作業に追はれ、踏切事故防止の啓蒙活動では子供たちに紙芝居を披露し、自動車のドライバーにはティッシュを配る。地味な仕事も多いのですね。
また、ドラマなんかではメムバアの中に、必ず紅一点の存在がありますが、実際には女性の鉄道公安官はゐなかつたさうです。なあんだ。

汽車に乗りながら読む本として適してゐる一冊と申せませう。

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箱男
箱男 (新潮文庫)箱男 (新潮文庫)
(2005/05)
安部 公房

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箱男
安部公房【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1982(昭和57)年10月発行
2005(平成17)年5月改版


1月22日、安部公房の命日だなと思ひ本書を取り上げてみたのですが、たちまち一ヶ月経過してゐました。
更新も久しぶり。その間に読んだ本が溜まつてしまつた。

『箱男』。いやあ素晴らしい。安部公房氏の作品の中では、『砂の女』『燃えつきた地図』と並んで、他者に自信をもつて推薦することを逡巡しないものであります。むろん他にも好きな作品は多いですが。

箱の中に入つた男は、何を見るのでせうか。自分も箱に入りたい誘惑にかられるのであります。
さういへば、箱研修といふものを思ひ出しますなあ。やはりこの現代社会では、特に人間関係においては「箱」に入つてゐる状態は心地好いものです。
それをインストラクタアは、「箱から出よ」と受講者を諭すのであります。箱から出ることで、今まで見えなかつたものが見える。
しかし同時に箱の中の世界を失ふのは、一種の恐怖に近いものがあります。箱から覗くことで解る事実もあるでせう。

この小説には、さういふ心地良さと恐怖が同居してゐると申せませう。

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