源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
蟻の兵隊
蟻の兵隊―日本兵2600人山西省残留の真相 (新潮文庫)蟻の兵隊―日本兵2600人山西省残留の真相 (新潮文庫)
(2010/07/28)
池谷 薫

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蟻の兵隊―日本兵2600人山西省残留の真相
池谷薫【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2010(平成22)年7月発行


1945(昭和20)年8月15日に、日本はポツダム宣言を受諾し終戦となりました。
しかし終戦後も戦闘は行はれ、戦死した日本兵も数多くゐると言ひます。
中国山西省に残留した日本兵も、結果3年以上も当地に留まり約550名が命を落したのださうです。
彼らは蟻の兵隊と呼ばれ、当時山西省を牛耳つてゐた閻錫山なる軍人が、中国共産党(八路軍)との戦ひに利用せんと残留させたのであります。

むろんさういふ行動はポツダム宣言に抵触するので、兵隊を納得させるための大義名分を掲げ、説得工作にあたるのでした。さうでなければ、誰がわざわざ残留するでせうか。日本へ帰りたいのは、皆同じであります。
即ち、自発的に残つたのではなく、命令を受けて残留したのはまぎれもない事実と申せませう。

結果、敗色濃く、投降して中共軍の捕虜となり、抑留生活を強ひられる兵隊が約700名にのぼると言はれてゐます。
日本に帰ることが出来たのは昭和30年頃まで待たねばなりませんでした。

で、日本へ帰つてみれば、何と自分たちは逃亡兵扱ひされてゐるではありませんか。自らの意思で残留したのだと。日本政府の扱ひとしては、勝手に残つた奴に戦後補償を認める訳にはいかん、と。踏んだり蹴つたりとは正にかういふことを差すのでせう。

著者の池谷薫氏は、この問題をまづ映像作品として世に問ひました。しかし2時間足らずの映画で、全貌を伝へることの限界を感じた氏は、改めて本書を発表したのであります。
いまだ未解決の問題として、著者が世間に訴へる力作ノンフィクションと申せませう。

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プロ野球 騒動その舞台裏
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プロ野球 騒動その舞台裏
近藤唯之【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1990(平成2)年11月発行


東京ヤクルトスワローズの新人投手が、広島東洋カープの前田選手に死球を与へたといふことで、乱闘寸前の騒ぎになつたさうです。
で、本日になつて燕投手が鯉監督に謝罪したとか。謝罪の必要があるのかなあと思ふのですが、前田くんに睨まれてすつかり消沈してしまつたのでせう。
互ひに全力でプレイをすれば、怪我もつきものであります。この伝でいけば石田純一さんの義父などは、しよつちゆう謝罪しなくてはいけない。

プロ野球では、諍いの目が出さうになると、何故か両球団のメムバア全員がグラウンドへ出て揉み合ひになります。ちよつとカタギには見えないのですが、彼らには彼らなりの言ひ分があるのださうです。
騒動といへば乱闘に限りません。近藤唯之著『プロ野球 騒動その舞台裏』には、球史に残る騒動、残らない騒動の数々が紹介されてゐます。
血なまぐさい話や、やるせない話が多いはずなのに、近藤節にかかると何故か胸を打つ感動話になるのであります。

わが燕ティームが不振で面白くないので、気を紛らはせやうと手に取りました。

プロ野球騒動その舞台裏 (新潮文庫)プロ野球騒動その舞台裏 (新潮文庫)
(1990/11)
近藤 唯之

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歌謡曲の時代
歌謡曲の時代―歌もよう人もよう (新潮文庫)歌謡曲の時代―歌もよう人もよう (新潮文庫)
(2007/11)
阿久 悠

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歌謡曲の時代―歌もよう人もよう
阿久悠【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2007(平成19)年11月発行


阿久悠さんは作詞家として、真のプロフェッショナルであるとの思ひを抱いてゐましたが、本書を読んでそれは確信に変つたのであります。
その根底にあるのは、「歌謡曲」といふ昭和を象徴するジャンルを支へてきた自負でせうか。
歌謡曲は時代を喰ひ、時代と人に妖気を吹き付ける妖怪であると阿久さんは述べます。そして歌謡曲のない時代(つまり平成年代)は不幸な時代であると。
その歌謡曲の再生と復活を願ひ、本書は誕生したといふことです。

99編のエッセイが収められてゐます。タイトルはすべて、阿久さんが生み出した作品のタイトルとなつてゐて、改めて怪物的なヒットメーカーであつたことが分かるのであります。
歌謡曲は大衆に寄り添うものですが、媚びるべきではないと主張します。
プロの作家はプロらしい歌を作り、プロ歌手は素人の真似の出来ない歌唱で大衆を唸らせる。これこそが歌謡曲だといふのでせう。
確かに、カラオケがすつかり定着した今では、演歌歌手も新曲を披露する時に「歌ひやすいのでカラオケでぜひ歌つてください」などと訴へる。商売的にはその方が良いのでせうが...

標を失ひ、迷走を続ける日本人への、辛口メッセージが詰まつてゐます。
今は恵まれた世の中になつて、過去の歌謡曲が容易に聴けます。そのたびに、「歌謡曲よ、今君は何処にゐるのだ?」などと問ひたくなり、失つたものは多いなあと感ずるのでした。

...今夜も寝る時間になりました。ご無礼します。

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恐るべき子供たち
恐るべき子供たち (岩波文庫)恐るべき子供たち (岩波文庫)
(1957/08/06)
コクトー

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恐るべき子供たち
ジャン・コクトー【著】
鈴木力衛【訳】
岩波書店(岩波文庫)刊
1957(昭和32)年8月発行


エリザベートとポールは姉弟であります。ポールとジェラールは友だち。
ジェラールとアガートは後に結婚します。
そして、ポールとジェラールの共通の知人にダルジュロスなる少年がゐます。以上が主要な登場人物。恐るべき子供たち。レ・ザンファン・テリーブル。

ダルジュロスはポールに雪のつぶてを投げつけて怪我をさせます。雪玉の中に何が入つてゐたのやら。
それなのにポールはダルジュロスに憧憬を抱いてゐるやうに見えます。結果としてそれが悲劇的結末を迎へるのでした。
読む側としては、やはりジェラール君が一番近い立場なので感情移入しやすいですね。といふか彼以外にゐません。

かつて、「若者」と「馬鹿者」は音が似てゐるだけでなく、実態もほぼ同じと言はれてゐました。さすがに現在、さういふ意見は鳴りを潜めてゐますが、そんなことを想起させる暴走振りであります。
しかし、この予定調和的な暴走はなぜか心地良い。そして迫力があります。
特に終盤でジェラールとアガートが、ポールとエリザベートを訪ねて、ダルジュロスと再会したことを告げる場面以降は恐いくらゐの展開であります。

恐るべきは子供たちより、作者のコクトーであると申せませう。

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ヴィレッジ・ヴァンガードで休日を
ヴィレッジ・ヴァンガードで休日を (新風舎文庫)ヴィレッジ・ヴァンガードで休日を (新風舎文庫)
(2005/12)
菊地 敬一

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ヴィレッジ・ヴァンガードで休日を
菊地敬一【著】
新風舎(新風舎文庫)刊
2005(平成17)年12月発行


ごく控へ目に述べますと、ヴィレッジ・ヴァンガードといふ店はあまり好きぢやないのであります。
2度ほど、退店の際に防犯ゲートが鳴つたことがあります。もちろん悪さをした訳ではなく、出入口附近まで商品が満載で、防犯ゲートのセンサーがタグに反応したと思はれます。
ピーピー鳴つて従業員に呼び止められる。実に極まりが悪いのであります。店員はエヘラエヘラ笑ひながら「すいませ~ん、また誤作動だと思ひますが...」などとほざく。わたくしは他の客の視線の中で身体検査を受け、もう2度と来るものかと決心するのでした。要するに個人的恨み。

しかし本書は面白いですね。どんな分野にせよ、功なり名遂ぐ人の話は興味深いものであります。
ヴィレッジ・ヴァンガードのやうな店は、チェーン店とは対極に立つ存在と思はれるのに、ここまで多店化できてゐるのは驚異そのものと申せませう。人々は「ワクワク感」や「意外性」を求めてゐるのですね。わたくしは、あの陳列やPOPを見てゐると恥づかしくなつて居たたまれなくなりますが。

店名の命名秘話、開店前の苦労話、個性的なアルバイト諸君、書店に関するQ&A...エッセイ風の文章ですつと読めます。
一番共感したのは、わたくしと同じく清水義範さんのファンであるといふこと。清水作品の愛好者に悪者はゐませんのでね...

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ばんえい駈ける
ばんえい駆ける 1 菜の花の風景 (ビッグコミックス)ばんえい駆ける 1 菜の花の風景 (ビッグコミックス)
(1992/10)
いわしげ 孝

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ばんえい駈ける 1 菜の花の風景
いわしげ孝【著】
小学館(ビッグコミックス)刊
1992(平成4)年10月発行


漫画家のいわしげ孝さんが亡くなつたと聞き、驚いてゐるところであります。まだ若いのに残念なことでした。
彼の代表作は何なのか知りませんが、ここでは『ばんえい駈ける』を取り上げませう。

主人公の名前が「大野ばんえい」。競馬好きの父がばんえい競馬から命名したのださうです。ぢやあ、競馬の漫画かといふと、さにあらず。競馬の場面はほとんど出てきません。
大野君は新宿の大手書店「東京ブックヴィレッジ」の新入社員であります。何かと熱い男。暑苦しい男といふか。

会社では鬼上司がゐて、頼りない同期がゐて、共に文芸書を担当するヒロインがゐて、カッコいいライバルがゐる。王道であります。
また、プライベートでは学生時代からの親友がゐて、テレクラがきつかけで知り合つた「菜の花」なる女性と再会するために情熱を燃やす。忙しすぎる大野君であります。

全2巻で完結ですが、大雑把に言つて、1巻は「菜の花」を探す話、2巻は本屋で担当の文芸書を盛り上げる話が中心でございます。改めて読むと恥づかしい描写も多いですがね...この春新社会人になつた人や、本屋好きの人は覘いてみてはいかがでせうか。

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