源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
二十四の瞳
二十四の瞳 (新潮文庫)二十四の瞳 (新潮文庫)
(2005/04)
壺井 栄

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二十四の瞳
壺井栄【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1957(昭和32)年9月発行
1965(昭和40)年9月改版
2005(平成17)年4月改版


8月も終りであります。まだまだ暑いですが、確実に夏は終焉を迎へやうとしてゐます。
それにしても、今年はつくつく法師の鳴き声が聞こえない。
先日、若林駅の周辺へ行く用事がありましたが、その時今年初めて鳴き声を聞きました。
一方わたくしの住む豊田市中心部ではまだ鳴き声を確認できません。去年までは鳴いてゐたのに。なぜだ。

毎年つくつく法師の声とともに、夏の終りを実感するのに、これでは秋を迎へることが出来ないではありませんか。
ところで豊明市に住んでゐる中国人の友人によると、中国ではつくつく法師の鳴き声を「スキヤー、スキヤー」と表現するさうです。本当かね。他の人からの証言求む。

『二十四の瞳』も、夏の終りに相応しい名作と申せませう。いや、わたくしが勝手に思つてゐるのですが。
わたくしの周辺には、本作を敬遠する人が結構ゐます。喰はず嫌ひはいけません。
さういふ人は、何か難しいことを考へてしまふのですね。単純に、物語を味はへばいいのに。その後で、いろいろと言ひたいことは言へばいいのであります。

みなさま、頭でつかちになつては不可ません。自戒を込めて。

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プロ野球 新サムライ列伝
プロ野球 新サムライ列伝 (PHP文庫)プロ野球 新サムライ列伝 (PHP文庫)
(1995/08)
近藤 唯之

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プロ野球 新サムライ列伝
近藤唯之【著】
PHP研究所(PHP文庫)刊
1995(平成7)年8月発行


イチロー選手が日米通産4000本安打を達成したとかで、おめでたい話であります。
愛工大名電時代に、センター前にゴロで抜けるヒットならいつでも打てると発言し、監督から宇宙人呼ばはりされたことがあるさうです。なるほど、栴檀は二葉より芳し。

『プロ野球 新サムライ列伝』によりますと、さらにさかのぼる小学二年生の時分に、父宣之氏に連れられて地元のバッティングセンターで練習を始めたさうです。後に稲葉選手(現日本ハム)と顔を会はせることになる、あのバッティングセンターですな。
で、そのバッティングセンターでは、22球で200円といふ料金設定。即ち1球で9円の計算。並みの父親なら、1球でも無駄にしたくないと考へるところを、チチローは「ボールは絶対に振るな」と厳命してゐたさうです。無理にボール球を打ちにいくと、打撃フォームが崩れるから、といふ理由らしい。ナガレイシ。

また、オリックス入団後、イチロー選手の打撃フォームに不満を持つてゐた土井正三監督の退任情報を得て、どうせ来年はゐない監督の意向よりも、自らの振り子打法の完成を優先させるあたりはまことに合理的な考へと申せませう。
そして翌年、仰木彬監督の下、周知の大開花を見せるのであります。

...と書いてゐると、本書はまるでイチロー選手論の本みたいですが、実際には全35選手のエピソオドが収録されてゐます。イチローはその中の一人に過ぎないのです。
いずれの選手も、近藤唯之氏だからこそ口を開いた、他では話してゐない話題を多く提供してゐます。
中でも印象的なのは、大杉勝男選手が近藤氏の話を聞いたあと、ちり紙を出して「カバが鼻をかむような音をたてて鼻をかんだ」場面であります。
どんな話かは、本書を読んで見給へ...と申し上げます。

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土 (新潮文庫)土 (新潮文庫)
(1950/06/13)
長塚 節

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長塚節【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1950(昭和25)年8月発行
1967(昭和42)年12月改版


『土』といふのは、実にぴつたりの表題と申せませう。
著者の地元である茨城県の結城地区を舞台に、リアルな農村の生活を活写してゐます。ドキュメンタリイかと思ふやうな臨場感なのです。
その描写は、時として過剰な丁寧さをもつて記述される。読むのに時間がかかります。
では読みながら退屈するのかといふと、さうではありません。なぜかペイジを捲る手は止まらないのでした。

主要登場人物は、勘次・お品の夫婦とその子供であるおつぎ・与吉の姉弟、そしてお品の父で勘次とはうまくいつてゐない卯吉。
といつても特段に感情移入できる人物は少なく、むしろ農村の風景や習俗、農民たちの生態といつたものが中心でございます。

突然、苦しんで呆気なく他界するお品。貧しさ故、盗癖が治らない勘次さん。おつぎに辛く当ります。そのおつぎも成長するにしたがひ、頼もしい存在となつてきます。父親を叱る場面も多い。家のために娘盛りを犠牲にしてゐます。与吉はまだ使へねえな。卯吉さんは自らの狷介さも原因とはいへ、不遇な晩年を過ごしてゐます。
かうして見ても、誰一人として生活に満足出来てゐないのであります。
そして、与吉のいたづらにより、災禍に見舞はれる一家...何といふことでせう。

巻末に夏目漱石の推薦文が収録されてゐて、お徳感があります。漱石もいふやうに、必ずしも読んで娯楽になる小説ではありません。娘には必ず読ませやうといふ漱石。面白いからではなく、苦しいから読めと伝へる心算であると。
普段からぶうぶう言つて、何かと不満を述べる人たちが読めば、少しは大人しくなるかな。そもそも手に取らないかな?

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殺意の風景
殺意の風景 (光文社文庫)殺意の風景 (光文社文庫)
(2006/05/11)
宮脇 俊三

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殺意の風景
宮脇俊三【著】
光文社(光文社文庫)刊
2006(平成18)年5月発行


人と会ふごとに、「暑いですな」と極りきつた挨拶。しかし実際暑いのであります。
古老たちは、口を揃へて「かういふ暑さは昔はなかつた。日中はどんなに暑くても朝方は涼しいものであつた」と述懐します。
呼応して「さうさう、だから宿題は朝の涼しいうちに済ませよ、と親にいはれたものだが、今では午前中から30度を越す暑さとくる。子供も可哀さうです」「子供といへば、うちの孫もテニスの部活でこの暑いのに出かけて行つたよ。何もこんな日にやらせなくても...」「高校野球も屋根のないところで良くやるよ。そのうち倒れる子が出るよ、きつと」...

今年の暑さと『殺意の風景』の間には、まつたく関係はありませんが、怒りすら沸く猛暑にひとこと言つてをきたかつたのでした。

さて本書は宮脇俊三氏が遺した唯一のフィクション作品であります。ミステリー仕立てでありますが、凡百のそれのやうに、死体が浮かんで敏腕刑事が解決に当たるとか、素人探偵が警察に煙たがられながら名推理で謎を解くといつたものではありません。

第一話の青木ヶ原から最終話の須磨まで、ごく普通の人間が「殺意」を抱く舞台として、有名観光地(有名とはいへない地名もありますが)が取り上げられてゐます。恐らく宮脇氏が読者に「推薦」したい場所として選んだのではないでせうか。
そこで繰り広げられる、何気ない人間模様のドラマ。派手な描写に慣れてしまつた人には、物足りないと感じるかもしれません。しかし読み進めていくうちに、登場人物と一緒になつて、「風景」の中で弄ばれてゐる自分を発見することでせう。

宮脇氏には、かかる作物をもつと遺してもらひたかつたと、一掬の涙とともに思ふのであります。

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トヨタ伝
トヨタ伝 (新潮文庫)トヨタ伝 (新潮文庫)
(2006/03)
読売新聞特別取材班

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トヨタ伝
読売新聞特別取材班【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2008(平成18)年4月発行


元の題は『豊田市トヨタ町一番地』といひ、何となくトヨタ王国を揶揄する雰囲気がしましたので、嫌トヨタ本かな?と思ひ読まなかつたのであります。
文庫化の際に、より内容に即した『トヨタ伝』と改題され、手に取る気になつたといふものです。

元元挙母(ころも)と呼ばれた土地を企業名に改名してしまつたといふことで、全国的には豊田市のイメエヂは宜しくないやうです。確かに、古事記にも「許呂母」として登場するほど歴史ある地名を簡単に変へてしまふのは疑問が残ると申せませう。

自動織機を立ち上げた豊田佐吉と、トヨタ自動車の創業者・豊田喜一郎両氏を中心に、トヨタ一家は結束が強い。これを新興宗教になぞらへ、不気味さを感じる向きもあるやうです。
ガリバー企業となつても、頑なに本社を三河から移さない姿勢が、東京の人からすると、よく内情が分からない苛立ちを助長し、結果「田舎企業」と侮蔑し溜飲を下げてゐるのではないか。豊田市民からすると、さう思へるのであります。
佐野眞一氏の解説では、まさしく典型的な東京人の反応が見られます。鎌田慧氏以来、わたくし共豊田市民は何度もいはれ続けてきたことが繰り返されてゐると申せませう。

姉妹都市のデトロイトは破綻しましたが、豊田市では円安を背景にトヨタ自動車が復活しつつあります。またどこかの国が足を引張るのでせうなあ...

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