源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
日本人の知らない日本語4 海外編
日本人の知らない日本語4  海外編日本人の知らない日本語4 海外編
(2013/08/02)
蛇蔵、海野凪子 他

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日本人の知らない日本語4 海外編
蛇蔵&海野凪子【著】
メディアファクトリー刊
2013(平成25)年8月発行


今年最後の一冊は人気スィリーズの最新刊。
といつても、夏に出てゐたのですねえ。毎度ながら、うかつなことであるなあ。

前作の予告通り、今回は日本を離れて、海外における日本語教育の現場を取材してゐます。
フランス・ベルギー・イギリス・ドイツ・オーストリア等等、西欧諸国が中心ですな。

今回も外国人の視点から、日本語の問題点を指摘される場面があつて、なかんづく漢字制限の話は我が意を得たりといふところです。マスコミまで常用漢字に遠慮する必要は無いのに。
関係ないが、最後の四駒漫画「お国はどちら」に登場する日本人「佐藤」には腹が立つね。でもああいふ手合ひ、ゐるのだよね...

などといふネガティヴな話は少なく、今回も笑ひがいつぱいであります。前作までと舞台が変はつても、日本語学習者のフリーダム度は変はりません。
日本語の薀蓄話は減つてしまつたものの、著者の「読者に愉しんでもらひたい」といふサアヴィス精神がひしひしと伝はつてくる一冊でございます。
で、次はあるのか? アジア編とかアメリカ編とか...

それでは皆様、2013年も終りです、よいお年を。

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春の城
春の城 (新潮文庫)春の城 (新潮文庫)
(1955/06/01)
阿川 弘之

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春の城
阿川弘之【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1955(昭和30)年6月発行
1970(昭和45)年9月改版


舞台は戦前の広島。主人公の小畑耕二くんは、文学部の学生であります。年長の友人である伊吹幸雄くんの妹・智恵子さんには好意を抱いてゐながら、結婚話を断つてしまふ。もつたいない。

戦時下が若者の学習意欲を殺ぐ。徴兵のため、卒業も早まるのであります。国のために、この戦に命を捧げてもいい、むしろ光栄であるとの意識が高まつてゆくのでした。
耕二くんの場合は、東京通信隊の軍令部特務班にて、暗号解読の仕事をすることになります。

しかし戦況は悪化する一方で、遂に広島には米軍の新型爆弾が投下されます。智恵子さんのその後は、いぢらしいの一言であります。ああ...

戦禍に見舞はれながらも、若者らしい瑞瑞しさを失ふことなく、時代と向き合ふ登場人物の一人一人がとても好ましい。著者の初めての長篇作品ださうですが、その後の阿川作品に比しても引けをとらないくらゐ完成度は高いと申せませう。

夜も更けましたので、寝ることにしませう。晩安大家。

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私の田中角栄日記
決定版 私の田中角栄日記 (新潮文庫)決定版 私の田中角栄日記 (新潮文庫)
(2001/02)
佐藤 昭子

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決定版 私の田中角栄日記
佐藤昭子【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2001(平成13)年2月発行


今年は田中角栄氏が亡くなつてから20年といふことで、メディアでも話題となつてゐるやうです。便乗してかかる本を登場させやうと企みました。

佐藤長期政権の後を受けて誕生した田中内閣。その「今太閤ブーム」は今でも鮮明に覚えてゐます。日中国交正常化や、日本列島改造論など...さういへば、中国との外交がらみでは、パンダがやつてきて大騒ぎになつてゐました。どのくらゐ大騒ぎかといふと、当時の特撮作品『ウルトラマンエース』に、パンダを盗むだけが目的の「スチール星人」が地球にやつて来るといふ話があつたほどであります。子供心に「くだらんなあ」と思案してゐました。

それだけに、ロッキード疑獄で逮捕された時は衝撃的でしたな。金権政治の代名詞のやうにもいはれました。
まあいづれにせよ正邪両面で大物であることは間違ひないのでせう。
現在でも、日本政府が特に外交面でうまくいかない時に「今、田中角栄がいたら...」と述懐する人も多いのです。

『決定版 私の田中角栄日記』は、長年田中氏の秘書を勤め、越山会の女王と呼ばれた佐藤昭子氏の手記であります。
金権政治の権化とか、地元(選挙区)以外には傲岸不遜な態度をとるとか、一般に植ゑつけられたイメエヂとは実は正反対の人物であることを世間に知つてもらひたい、との思ひからこの手記を発表したとのことです。

田中元首相とは、公私にわたり最も身近にゐた存在の佐藤氏。それだけに田中氏の息遣ひまで聞えてきさうな、生々しい記録であります。
特に、離婚して全てを失つた著者が田中氏と再会する場面。近所でボヤがあつたせいで車が足止めになり(佐藤氏と)再会できた、もしボヤがなければ永久に会へなかつたかもといふ田中氏の言葉。青年時代の田中角栄はなかなかのロマンティシストと見た。

むろん、身近すぎて目が曇ることもあるでせう。闇将軍の実態を知らない訳はないと思ふのですが、ロッキード裁判中のくだりでも、その辺の話はほとんど出てきません。
しかし本書はさういふ点を期待してはいけない書物なのでせう。報道ではほとんど語られないので皆は知らないでせうけど、彼は本当はこんなに魅力的な人なのよ、と世間に訴へるのが眼目ではないでせうか。そしてその目的は十分に果たされてゐると申せませう。

ぢやあまた、今夜はご無礼します。

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北京の秋
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北京の秋(ボリス・ヴィアン全集4)
ボリス・ヴィアン【著】
岡村孝一【訳】
早川書房刊
1980(昭和55)年4月発行


更新が滞り、さうかうしてゐる内に早くも年末がやつてまゐりました。巷の人々は皆浮かれ、街に繰り出してゐるのであります。
先達ての金曜日には、名鉄豊田市駅前もごつた返し、タクシーの客待ちが東口・西口とも100人超といふありさまでした。さう、このわたくしも、その浮かれる群衆に混じる一人であつたといふ訳であります。

かうして見ると、三河線のやうなローカル線でも、立派に人様の役に立つてゐることが分かります。しかし、砂漠の真真中にもし鉄道があつたら...? そんな鉄道に誰が乗る? そもそも砂漠に鉄道を敷設しやうなどとは、普通の堅気人なら考へないでせう。
ところがボリス・ヴィアンの世界では常識は通用しないのでした。それが『北京の秋』であります。

アマディス・デュデュはバスに乗らうとしてゐました。しかし様様な妨害に遭ひ、中中乗れないのであります。やつとのことで乗つたバスは、エグゾポタミーなる土地へ向つて走り続けます。
クロード・レオンは心ならずも殺人を犯し、世捨人になるべくプチジャン師に導かれてエグゾポタミーを目指します。
アンヌ(男)は偶然知り合つた男の代役としてエグゾポタミーへ赴く契約を結びます。そして友人のアンジェルと、アンヌの彼女・ロッシェルも一緒に行くことに。
医者のマンジュマンシュ教授も、キャンプの主任医師として招かれます。助手のインターンともども、エグゾポタミーへ。

主要人物が続々とエグゾポタミーへ集結します。エグゾポタミーとは、巨大な砂漠。そこに立派な鉄道を建設するといふのが、『北京の秋』の粗筋。文字通り粗筋ですが、まああまり筋は重要ではないみたいです。
登場人物たちは、常に読者の意表をついた行動を起します。読者は読みながら迷宮に迷ひ込む自分を感じ、不安に苛まれますが、まあ言つてみれば心地良い不安ですね。

説明するより読んでもらふのが一番ですな。残念ながら文庫化はされてゐないやうですが、ま、古本屋でも覘いて見てくださいな。

ボリス・ヴィアン全集〈4〉北京の秋ボリス・ヴィアン全集〈4〉北京の秋
(1980/04)
ボリス・ヴィアン

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リア王
リア王 (新潮文庫)リア王 (新潮文庫)
(1967/11/28)
ウィリアム シェイクスピア

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リア王
ウィリアム・シェイクスピア【著】
福田恆存【訳】
新潮社(新潮文庫)刊
1967(昭和42)年11月発行


訳者の福田恆存氏は、沙翁の最高傑作は『リア王』であると断言してゐます。
なある。確かに警句に満ちた台詞には、力が溢れてゐて、自分の文章に挿入したくなるフレイズが多いのであります。

リアは末娘のコーディーリアの真意を見抜けずに、長女・次女の追従に騙されて転落の詩集を綴る。
コーディーリアは、いかに美辞麗句を並べるのが不得手と云つても、父をもう少し慮つても良いのではないか。リアはリアで、余りにも愚かな行動を重ねます。不自然なほどである。
この愚かさを以て、沙翁は莫迦だなあと嘲笑する人がゐるかも知れませんが、これは計算された愚かさのやうです。

なぜか。本書は作者不詳の『原リア』なる作品を下敷きにしてゐるといふ事ですが、此方ではもつと自然な粗筋になつてゐるさうです。即ち沙翁はあへて、不自然なほどリアを暗愚に描いてゐるといふことであります。
総てを失ひ、荒天の中を彷徨ふリア。それでも人間は何か虚飾を身に付けてゐる。振り返へれば、社会の底辺で蠢くわたくしでさへ、いらんもんを持つてゐます。でもそれが人間といふものでせう。ちよつと暗澹たる気分になる、格調高い悲劇であります。

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