源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
ゼロ戦から夢の超特急
ゼロ戦から夢の超特急―小田急SE車世界新記録誕生秘話 (交通新聞社新書)ゼロ戦から夢の超特急―小田急SE車世界新記録誕生秘話 (交通新聞社新書)
(2009/10)
青田 孝

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ゼロ戦から夢の超特急―小田急SE車世界新記録誕生秘話
青田孝【著】
交通新聞社(交通新聞社新書)刊
2009(平成21)年10月発行


愛知県のテツ少年にとつて、小田急ロマンスカーは憧れの存在でありました。
わたくしが自分でテツ旅行をする頃は、すでにSE車は一線を退き、短くなつてSSEと呼ばれてゐました。先頭車の風貌も若干変更され、優美さといふ点では後退してしまつた印象であります。

当時のスタアはNSEで、パノラマカーみたいに運転席を2階に上げ、全面展望を充実させたカッコイイ電車であります。
『ウルトラセブン』のワイアール星人登場の話、「緑の恐怖」に登場したのもこの電車。松本朝夫さんが車中で怪物に変身してしまひ、妻役の中真知子さんが驚愕する、あの電車です。
わたくしが初めて乗つたロマンスカーもNSEで、やうやく夢が叶ふのだなあと感激したものです。
この後も小田急では続々とロマンスカーを投入し続けますが、SEとNSEで完成された編成美を凌駕することは出来なかつたと愚考してゐます。

個人的な話はこのくらゐにして、『ゼロ戦から夢の超特急』について。
1957(昭和32)年、小田急SE車が当時の国鉄東海道線上で狭軌鉄道最高速度(145km/h)を樹立したのですが、その実現に至るまでのドキュメントであります。
その偉業を達成したメンバーは「鉄道技術研究所」の面々。ここには、元海軍の航空技術廠でゼロ戦の製造を手がけてゐた俊傑たちが集結してゐたのであります。軍需産業にはもう関りたくない、しかし自分の技術を活かせる仕事をしたい、との思ひでした。

スピードアップは経営効率に繋がると確信した車両設計の山本利三郎氏、「振動」の専門家・松平精氏、「美しいものは速い」が信念で流線型と軽量化に取組んだ三木忠直氏...
彼らが中心となり実現した新記録。小田急は自社路線は高速実験に向かないとして、国鉄線での実験を打診。しかし国鉄はなぜ東海道線に他社の電車を走らせることに同意したのでせうか。それは将来の超特急計画のためのデータが欲しかつたやうです。両者の利害が一致したといふことですな。
即ちこの高速実験の結果が、東海道新幹線の実現に繋がつてゆくわけであります。さう考へると、SE車の成功は、その後の日本、否世界の鉄道界を大きく変へたと申せませう。

それにしても、戦後わづか19年で実現した東海道新幹線。一方リニアモーターカーは、わたくしが子供の頃から実験を続けてゐながら、まだ実現しません。しかも名古屋まででもあと13年かかる。大阪まで開通する頃には、わたくしは死んでゐるかもしれません。淋しいのであります...

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円谷英二の言葉
円谷英二の言葉―ゴジラとウルトラマンを作った男の173の金言 (文春文庫)円谷英二の言葉―ゴジラとウルトラマンを作った男の173の金言 (文春文庫)
(2011/04/08)
右田 昌万

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円谷英二の言葉―ゴジラとウルトラマンを作った男の173の金言
右田昌万【著】
文藝春秋(文春文庫)刊
2011(平成23)年4月発行


著者の右田昌万氏は、いはゆる平成ウルトラシリーズのメインライターとして活躍した人。
私見ですが、この人は円谷作品の良心を受け継ぐ本流を走つた印象があります。初期の上原正三氏や市川森一氏に匹敵する貢献者と言へるのではないでせうか。
俳優としても活動してゐます。まあ多才な人といふことですね。

その右田氏が紹介する、円谷英二の名言金言を集めた一冊でございます。
第二期ウルトラ世代のわたくしにとつて、「円谷プロ」は憧れの対象でした。もつとも小学生の頃は友人たちと「えんたにプロの怪獣はビープロよりも良いね」などと語り合つてゐました。当てにならないのであります。
ちなみに第一期世代は、マラソンの円谷幸吉選手を知つてゐたため、ちやんと「つぶらや」と読めたさうです。わたしらの年代は円谷選手をリアルタイムで知らないのです。

まあそれはそれとして。
混迷に生きるビジネスマンにも参考になるなどと、こじつけ気味に紹介する人もゐます。しかし円谷の金言を参考にし活かせる人は、相当に自助努力してゐるのではないでせうか。著者もいふ。「多くのビジネスマンがため息をもらす中、今一度、見つめ返してほしい。円谷英二の百分の一も自分は努力しているのか?」
立ち読みでも読破出来る分量ですが、その中身は重い。

なほ、わたくしが一番印象に残つたのは、東宝が円谷班のために作つた特撮用スタヂオを、世界の黒澤が気に入つて使用してしまひ、肝心の円谷が使へず放つた言葉。「うちのために建てたんだろう」。
「黒澤天皇」の我儘振りが窺へる一言ですなあ...

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悪税が日本を滅ぼす
悪税が日本を滅ぼす―元国税調査官が暴露する不公平税のからくり (新潮文庫)悪税が日本を滅ぼす―元国税調査官が暴露する不公平税のからくり (新潮文庫)
(2010/03/29)
大村 大次郎

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悪税が日本を滅ぼす―元国税調査官が暴露する不公平税のからくり
大村大次郎【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2010(平成22)年3月発行


「悪税」といふ言葉を聞くと、「晩聲社」を連想しますね。この出版社では価格表示において、消費税を悪税としてゐました。即ち、普通なら「\1500+税」とか「\2800(本体価格)」などと表記するのでせうが、晩聲社の出版物では「\3000+悪税」となつてゐたのであります。現在もさうなのかどうかは知りませんが。
また、奥付の年号表示も独特で、「昭和」「平成」などの元号を一切廃し、その代り1946年を元年とする「核時代」といふ独自の表記をしてゐたものです。
今、ちよつと気になつて「晩聲社」のウェブサイトを覘いたら、まるで韓国礼賛出版社みたいに変貌してゐますね。悪税も核時代も和多田進さんもどこかへ行つてしまつたやうです。ああ。

ま、晩聲社はどうでもいい。元国税の調査官である大村大次郎さんの著書『悪税が日本を滅ぼす』のことでした。
単行本刊行時の書名は『なぜ金持ちが増えたのか?』。文庫化時に現在の書名に改題されたのであります。帯にも「貧乏人からむしりとれ!」と過激な惹句(?)。

近年、富裕層が増え、他方では生活保護世帯も増加してゐると統計が示してゐるといふことです。要するに格差が広がつてゐると。
税制が不公平で税が無駄遣ひされてゐるだらうことは、まあ多くの人が感じてゐるのではないかと思ひますが、その内実を具体的に指摘したのが本書と申せませう。

簡単にいへば、かつての税制は富者から多く税を徴収し、貧困者に分配する形で格差を埋めてゐたのを、竹中=小泉路線以降、金持ちを優遇し、貧乏人からも等しく税を取るやうになつたと。財界の言ひなりになり庶民を苦しめる傾向は安倍政権で更に加速してゐます。オット安倍信者の皆様からフクロにされてしまふね。桑原桑原。
非正規雇用、ワーキングプア、ひいては結婚難民の増加、それに伴ひ少子化に拍車がかかる...
本書には、犯人は誰か、対策は何かなどが述べられ、真の原因についてもさりげなく書かれてゐます。真の原因は「さりげなく」書かざるを得ない事情が有るのですよね。著者の心情を忖度するわたくしであります。

読後爽快になる本では決してありませんが、目を通した方が良い一冊と言へませう。俗耳に入りやすい乱暴な論だと片付ける人もゐるでせうがね...

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これでいいのか、夜行列車
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これでいいのか、夜行列車―JR夜行全列車徹底分析
寺本光照【著】
中央書院刊
1991(平成3)年1月発行


JR西が、人気の「トワイライトエクスプレス」の運転を来春までで終了すると発表しました。
車両の老朽化(元元新造ではなく、改造車両で走らせてゐた)を原因に挙げてゐますが、それよりも北陵新幹線の延伸による在来線の切り離しが大きいのではないでせうか。利用者の減少によるものではないだけに、まことに残念な気がいたします。ま、JR西としては、新たに走らせる超豪華列車の方で頭がいつぱいなのかも知れません。
車両を新造した「カシオペア」「サンライズ」以外の夜行列車は消えるのではないか、と以前から心配されてきましたが、いよいよそれが現実にならうとしてゐるのであります。

寺本光照氏による『これでいいのか、夜行列車』は、JR発足後まだ数年といふ時期の著書で、本書によると当時の夜行列車は特急急行快速含めて86本もありました。うーん。国鉄末期には「随分と減つたな」といふ印象でしたが、それでも今から考へるとまだまだ走つてゐたのです。
だいたい「これでいいのか」と問ひかける場合といふのは、「このままぢやいけない」と主張したい時でせう。実際、夜行列車についてはほとんど手を打たなかつたJR各社。現在の惨状が「これでいいのか」の強烈な返答となつてゐると申せませう。

夜行列車離れの原因については、「不便な時間帯」「高すぎる利用料金」「車両施設の陳腐化」「夜行バスや航空機の充実」等等挙げられてゐます。
寺本氏の主張をことごとく逆に行く政策で、国鉄が分割民営化された時点で、すでに将来の夜行列車全廃が視野に入つてゐたのでせう。

個人的に口惜しいと思ふのは、夜行列車の愉しさを知らずに一生を終る人が多いといふことですな。わたくし自身は、夜行列車には恐らく平均的日本人よりも数多く乗つてゐて、その愉快さを知悉してゐると自負してをります。
向ひのプラットホームでは通勤帰りの乗客で溢れる電車。それを眺めながらこちらでは個室寝台で一人宴会しながらの旅立ち。こんなに幸せでいいのかね、と申し訳ないほどであります。
かういふ愉悦をもつと多くの人に経験してもらひたい。しかし、肝心の列車がもう無い...

これでいいのか、夜行列車―JR夜行全列車徹底分析これでいいのか、夜行列車―JR夜行全列車徹底分析
(1991/01)
寺本 光照

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大暗室
江戸川乱歩全集 第10巻 大暗室 (光文社文庫)江戸川乱歩全集 第10巻 大暗室 (光文社文庫)
(2003/08/08)
江戸川 乱歩

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大暗室(江戸川乱歩全集 第10巻)
江戸川乱歩【著】
光文社(光文社文庫)刊
2003(平成15)年8月発行


大乱歩、生誕120周年ださうです。
さう聞くと、何か読みたくなつたので、我が家の本棚から『大暗室』を取り出したのであります。わたくしが所持するのは角川文庫版ですがね、ここでは入手しやすい光文社文庫版を挙げるとしませう。

大暗室。タイトルからしてすでにおどろおどろしい。登場人物は、悪の天才・大曽根竜二と正義の青年・有明友之介、そして有明君の父親に仕へてゐた忠臣・久留須の三人が主要なところでせう。
大曽根の父は有明の父母を殺した悪い奴。そして大曽根と有明は実は義理の兄弟なのであります。

親子二代に渡る復讐劇ともいへますが、本書の眼目は何といつてもタイトルにもなつてゐる「大暗室」。悪の権化・大曽根君がその財力に物をいはせて帝都東京の地下に創り上げた、一大ユウトピアと申せませう。無論常識人にとつてはおぞましい地獄以外の何ものでもないのであります。

現在の読者には噴飯物の設定かも知れません。登場人物の性格付けは実にステレオタイプであるし、ストオリイも結末が容易に想像が付いてしまひます。
でもね、それで良いのです。王道の勧善懲悪、正しい荒唐無稽。川内康範的痛快娯楽活劇。とにかく無条件で面白い。いたづらに複雑化した現代の物語に慣れてしまつたわたくしたちは、いつのまにかかういふ世界を莫迦にすることで自分が進化したやうな錯覚に陥つてゐたのではないでせうか。

あ、違ひますか。それならいいけど。

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