源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
怪獣総進撃
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怪獣総進撃 怪獣小説全集Ⅰ

香山滋/福島正実【著】
出版芸術社刊
1993(平成5)年12月発行

つひに今月、ゴジラの新作が封切られますね。その内容が次第に明らかになるにつれ、不安が増大するのはなぜでせうか。「ファイナルウォーズ」があんな出来だつたので、せめてもう少しましな映画にしていただきたいと考へるのですが。なぜ金子修介氏や手塚昌明氏に依頼しないのか。
2014年のハリウッド版ゴジラも観ましたが、あれなら酷評された1998年版の方が余程良かつた。もう面白いゴジラ映画にはお目にかかれないのでせうか。

などと愚痴を言つても詮無いこと。香山滋氏のゴジラでも読みませうか。『怪獣総進撃』と題された書物がここにあり、三篇の特撮映画の原作が収録されてゐます。まづは「ゴジラ」。ここでは「G作品検討用台本」と題されてゐます。当時は事前に情報が漏れるのを警戒して、「G作品」と称してゐたのですね。
完成作品と比べると、山根博士のマッドサイエンティストぶりがより目立つてゐたり、芹沢大助博士がやたらとおつさん臭かつたり、恵美子ちやんがずいぶん積極的な女性だつたりと、結構相違がありますが、全体の大きなストオリイの流れはすでに構築されてゐます。もうこの作品を超えるものは出てこないのか。

続いて「獣人雪男」。これも香山滋氏によるもの。東宝特撮作品の中でも、未だソフト化されてゐなくて、「幻の作品」といはれてゐます。わたくしも未見なのです。ドラマCDは聴きましたがね。
「ゴジラ」と同様に宝田明さん・河内桃子さんのコンビ。しかしそれ以上の存在感を示すのが、山の娘チカを演ずる根岸明美さんですな。まるで完成作品を鑑賞したかのやうな物言ひですが、原作小説を読んだ上の感想であります。根岸さんといへば、「キングコング対ゴジラ」で、島の原住民の子・チキロの母親役が印象に残ります。

最後は「マタンゴ」であります。これは福島正実氏が原作を執筆してゐます。映画クレジットでは星新一氏との連名になつてゐて、あたかも共同執筆のやうに見受けられますが、実態は当時福島氏の知名度がまだ低かつた為、星氏の名前を借りたのださうです。
本多猪四郎監督の作品には、根つからの悪人は出ないと言はれてゐます。ところが「マタンゴ」の登場人物は、ロクな奴はゐません。言はば全員が悪人であります。極限状態におかれた人間の生態を描く上では、むしろ自然なことでせう。一番聖人君子面した小泉博さんが裏切つた時は、観客はこの後、何を拠り所に鑑賞すればいいのか分からず、突き放されたやうな心持になつたのであります。妖艶な水野久美さん、純情な八代美紀さんの配役の妙もよろしい。
なほ、キノコの怪人「マタンゴ」(天本英世さん!)の声は、あのバルタン星人の声(フォフォフォ......)に流用されました。これは割と有名な話。

少少メイニアックな一冊ですが、東宝特撮が好きな人なら覗いてみませう。ぢやあまた。



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