源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
戦国城砦群
51GCrQKRGzL__SX344_BO1,204,203,200_

戦国城砦群

井上靖【著】
文藝春秋(文春文庫)刊
1980(昭和55)年12月発行


生誕110年を迎へた井上靖。この人は現代小説・歴史小説・時代小説と幅広い分野で活躍しましたが、これは戦国時代を舞台にした「時代小説」。時代背景は歴史上の史実をなぞつてゐますが、主要登場人物は皆、架空の存在であります。武田氏の滅亡から、山崎の合戦、本能寺の変を経て秀吉が天下を取るまでのを描いてゐます。

主要人物としては、まづ、武田勝頼軍の敗残兵である藤堂兵太。髭面の中年のおつさんださうです。武田に殉ずる心算でありましたが、成り行きで明智勢に加担するも、それも敗れ、更には野武士集団のカシラとなるのでした。
次いで同じく武田の残党、坂部隼人。彼は兵太よりも若く、ストイックな剣豪であります。ヒロインの千里に惚れてゐますが、その気持ちを素直に表現できない不器用な男でもあります。
そして大手荒之介。こちらは織田側の武士。やはり剣の腕が立つ。隼人と対照的に、千里を我がものにせんと積極的に行動します。千里も彼を想ひ、また野武士の娘・弥々からも惚れられて、本編一番のモテ男であります。
女性陣は、先述の千里と弥々が華を添へます。弥々はとにかく強い男が好みで、荒之介への叶はぬ想ひはいぢらしい。

明確に誰が主人公とは言へず、上記男三人、女二人の群像劇とでも申しますか。舞台は戦国時代ですが、その恋愛模様は舞台を現代に移しても通用しさうな内容であります。作者らしい人物造形。まあ、意地悪く言へば「どこかで見たやうな人間関係」とも申せませう。
例へば『天平の甍』のやうな硬質な文章とはまるで違ふ、明らかな通俗大衆小説の文体であります。それが悪いのではなく、この時代小説にはこの上なく相応しい。まあ、かかる小説を量産したのが、ノーベル文学賞を逃した原因かも知れませんが。
いづれにせよ、井上靖も一部作品を除いて徐々に忘れ去られやうとしてゐる印象です。今のうちに読んでおきませう。
デハデハ。



スポンサーサイト
壇蜜日記
41SbYA_oedL__SX346_BO1,204,203,200_

壇蜜日記

壇蜜【著】
文藝春秋刊
2014(平成26)年10月発行


わたくしが居住する愛知県豊田市駅前に、来月(2017年11月)本格シネコンがオオプンするのですが、そのこけら落とし上映として、ほぼ全篇豊田市内でのロケを敢行した映画「星めぐりの町」が披露されます(全国公開は2018年1月)。監督は黒土三男氏(豊田市在住)。かつて長渕剛さんの映画や「渋滞」「蝉しぐれ」なんて作品を発表してゐます。
主演は小林稔侍さんですが、その娘役に壇蜜さんがキャスティングされてゐるのです。ああ、好い人だ。
わたくし好みの映画では無ささうですが、壇蜜さんを見に行かうと思つてゐます。

ところで、壇蜜さんの話をすると、男性の反応はおほむねニヤニヤと野卑な笑ひを浮かべ、「君も好きだねえ」みたいな表情を浮かべる人が多い。一方女性はあからさまに眉をひそめ、苦心さんあんなのが好みなの?見損なつたわ、と口にはしませんが、さう言ひたさうな顔を浮かべるのです。何故?

この『壇蜜日記』を読みますと、そんな周囲との偏見と闘つてゐる様子が窺へます。
「とかくこの仕事は道楽のように軽視されやすい」
「魚は、生きていても死んでいても人間の何らかの役には立っている。獣もまたしかり。私はどうだ」
「それ売女じゃないなあ。お金もらってないもの」
「意地悪しなければ意地悪されないという理屈は生憎私の生きてきた世界では通用してはいない」
「そんなに価値のあるタレントじゃないのは分かっています、だけどもう少しだけ褒めたり笑ったり優しくしてもらえないでしょうか......って、となりの人に言えたら」

しかし壇蜜さんは逞しく生きる。熱帯魚を愛で、猫を抱きつつ大相撲中継を見て、コンビニの品揃へを評し、ペンギンでお馴染みの量販店で買物を愉しむ。「壇蜜」を演じなくてもいい瞬間の彼女は、テレビで観るイメエヂとはかなり相違があります。それは、普段偏見を抱いてゐる人が読めば彼女の印象が変るであらう生活ぶりと申せませうか。
その独特の文章と相俟つて、不思議な魅力を醸し出す一冊でございます。

デハデハ。御機嫌よう。



全国私鉄特急の旅
31NBZ30CZPL__SX297_BO1,204,203,200_

全国私鉄特急の旅

小川裕夫【著】
平凡社(平凡社新書)刊
2006(平成18)年10月発行


わたくしは毎日のやうに「ラジオ深夜便」の3時台「にっぽんの歌こころの歌」を聴いてゐますが、昨日は鉄道の日記念で、鉄道の歌を特集してゐました。中島みゆき「ホームにて」とか竹内まりや「駅」など、名曲が次々と。
せつかくなので、ここでも鉄道本を。私鉄特急を紹介する本であります。

元元、私鉄特急は、特急の「華」でした。昔の国鉄特急は性能面ではともかく、華やかさといふ点では私鉄に遅れをとつてゐたと存じます。何しろ151系こだま以来、どんな車両もクリーム色に窓枠部分に赤いラインが引かれてゐるものばかりでした。181とか183とか381とか485とか色色形式はあるものの、一般人には全部同じに見えたのでは。

ところが分割民営化以降、私鉄特急への逆襲が始まります。JR各社は、地域ごとの特性を生かした車両を続々と誕生させました。押された私鉄側は、より観光面を前面に出した特急で対抗したのであります。

全国私鉄特急の旅』では、大手私鉄で特急を走らせてゐる14社をとりあげてゐます。テツにはお馴染みの車両をコムパクトに紹介。有料特急に拘らず、京急だの阪急だのの料金不要の特急も登場。
著者は若いフリーライターださうですが、テツではないと述べてゐます。その分、フラットな視点から先入観なく記述がされてゐると感じました。ただ、筋金入りのテツからは不満が漏れるかもしれません。テツではないけれど、少しは興味があるといふくらゐの人が読めば丁度いいかも。

あと、大手私鉄に拘る必要はなかつたと思ひます。「全国私鉄特急」を名乗るなら、有料の優等列車を走らせてゐる、例へば伊豆急行とか大井川鉄道とか長野電鉄とか富山地方鉄道とかも載せれば良いのに。
......と思つたが、さうするとますます一社あたりの頁数が減つてしまふのでこれはこれでいいのですかな。
まあ、そんなところです。ではまた。