源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
悪い時
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悪い時
ガブリエル・ガルシア=マルケス【著】
高見英一【訳】
新潮社刊
1982(昭和57)年9月発行


ラテンアメリカ文学界の超大物が亡くなつて一ヶ月。この人を語る時はまづ『百年の孤独』らしいのですが、ここでは天邪鬼に『悪い時』を登場させるわたくしであります。
本書はまだ学生時代に、名古屋のとある書店で購入したもの。その書店は人文書関連が充実してをり、知る人ぞ知る存在でした。

その時のちよつとした出来事が、今でも忘れられません。この『悪い時』その他数冊の本を抱きながら、更に物色せんと棚を眺めてゐました。すぐ傍では、店主が棚指し作業をしてゐます。本屋のいい風景です。
ところが、突然店主が爆音とともに放屁をしでかしたのであります。わたくしの至近距離でしたので、たちまち悪臭が漂つてきました。
店主は証拠隠滅を図らんと(でもないだらうが)、直ちにその場を離れバックルームへ姿を消してしまひました。そればかりかこちらに別の客が近付いて来るではありませんか。妙齢の女性です。
いかん。まだ放屁臭が残る今、このままではわたくしの罪にされてしまふ。直ちに別の棚に移動したのですが、直前にその女性と目が合つてしまひました。残り香に気が付き、「あ、あの男(わたくしのこと)オナラして逃げたな」と思はれたのぢやないかと、まことに口惜しい思ひをしたのでした。

...さてマルケスの話。彼がノーベル文学賞を受賞した理由として「現実的なものと幻想的なものを結び合わせて、一つの大陸の生と葛藤の実相を反映する、豊かな想像の世界を構築した」といふことです。
なんだか解つたやうな解らぬやうな説明ですね。七面倒くさい話は脇に置いて、『悪い時』を読んでみませう。

登場人物はかなり多い。記憶力の弱いわたくしは、メモに書き出して整理しながら読まないと「えーと、これは誰だつけ」なんて、前の頁まで戻る仕儀になりかねないのであります。
その中でも、「町長」「神父」「博士」「判事」といつたところが主要人物でせうか。いづれも一癖も二癖もありさうな、あまり友人にしたくない面々であります。

舞台は架空の町ださうです。しかし実在の町以上にリーアリティをもつて描かれてゐます。厳しい自然条件や劣悪な住環境が、まるで読者にも肌で感じられるやうな。
この町で、「ビラ事件」が勃発します。各家庭の軒先に貼られる、中傷のビラ。一体誰がビラを貼つてゐるのか。犯人探しが始まるのですが、さつぱり判明せず、嘲笑ふかのやうにビラ貼りは止まないのであります。
住民に広がる不信と不安。それは増殖を続けるネズミと同じく、留まるところを知らないのでした...

なるほど、いはゆる幻想文学とは違ひ、現実と非現実が融合した不可思議な世界が広がつてゐますね。
物語の破綻もなく端正な印象ですが、ある種の暗さ、陰鬱さも小説全体を蔽つてゐます。何かの寓意が含まれてゐるのかどうか、わたくしにはちよつと解らないのです...否、別段否定的な意見を述べてゐるのではありませんがね。マルケス入門書とするには不向きかも知れません。面白いのだけど。

ぢやあ、今日はこんなところでご無礼します。

悪い時 (新潮・現代世界の文学)悪い時 (新潮・現代世界の文学)
(1982/09)
ガルシア・マルケス

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