源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
花埋み
花埋み (新潮文庫)花埋み (新潮文庫)
(1975/05/28)
渡辺 淳一

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花埋み
渡辺淳一【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1975(昭和50)年5月発行
2009(平成21)年12月改版


渡辺淳一さんの死を伝へるニュウスで、直近の彼の映像が流れてゐたのですが、丸々として、まるで浮腫んでゐるみたいでした。長門裕之さんの晩年を思はせる風貌に吃驚したのであります。
渡辺淳一といふ作家は、わたくしにとつては「隠れて読む」存在でありました。男性の皆様、さういふことはありませんかね。少なくとも積極的に読後感を語ることはなく、読書仲間にも隠蔽してゐました。俺だけか?

それはそれとして、『花埋み』。わたくしにとつて渡辺氏といへば、何といつてもこの作品であります。
日本最初の女医といはれる荻野吟子の生涯を綴る、力作長篇でございます。
吟子が女医にならうと決意したのは、夫からうつされた淋疾の診察時における羞恥・屈辱がきつかけでした。同じ苦しみを味はつてゐる女性は多くゐるに相違ない。それなら私が医者になつて、さういふ女性を救ふのだ。

そもそも女が学問をするだけで白い目で見られた時代です。女医になる道は閉ざされてゐました。
ならば自分が切り拓くしかない。吟子は猛烈な偏見・妨害と単身戦ふのであります。やつとの思ひで入校した医学校で嫌がらせをする男ども。当時の日本はかかる野蛮な国であつた。同じ男として恥しいですな。
学校を修了しても、肝心の医術開業試験を受験できないなど、次から次へと難関が立ちはだかります。それでも吟子は諦めずに突き進み、遂に念願かなつて「荻野医院」を開業するのであります。この精神力は尋常ではありません。スゴイ。

彼女は、基督教の伝道者である海老名弾正に、「心の中では見返してやろうという復讐心でした。(中略)復讐するまでは頑張ろうと思いました」と後に語つてゐます。そして、結局は功名心からであつたと。
さはさりながら、さういふ復讐心を抱く人たちは往々にして犯罪など、マイナスの方向へ行動してしまふ。自らのエネルギイに変へてしまふ克己心には脱帽するしかありません。

後年、志方之善との出会ひ以降、吟子の人生は大きく変ります。あまりの変貌ぶりに、また新たな苦難と奮闘せざるを得なくなるのです。
この辺は読んでゐて辛い部分ですが、第三者的な視線でいふと「もつたいない」の一言ですな。それでも吟子自身が選んだ道であります。

最後の場面が素晴しい。涙が出ます。作者が突き放した書き方をしてゐる分、余計に読者は感情移入してしまふ。
これほど感動させる小説のラストシーンはあまりないですね。
渡辺氏の小説を未読の人には、『失楽園』よりも本作を推します。かかる作品を遺してくれた渡辺淳一さんに感謝し、冥福を祈るものであります。

ぢや、この辺でご無礼します。

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