源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
こころ
こころ (新潮文庫)こころ (新潮文庫)
(2004/03)
夏目 漱石

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こころ

夏目漱石【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1952(昭和27)年2月発行
1968(昭和43)年6月改版
1987(昭和62)年6月改版
2004(平成16)年3月改版

学生諸君は夏休み真盛りですね。夏休みと対句になるのが読書感想文。これが評判悪い。
最初から感想文を書く目的で読まされるから、読んでゐても集中できず、面白くないでせう。したがつて、せめて早く読めるであらう薄い本を選ぶ傾向があるのです。

今手許に、「新潮文庫の100冊 2014」といふ毎年発行される小冊子がありますが、この中に「新潮文庫ロングセラーTOP20」の情報が掲載されてゐます。その顔ぶれを見ますと、30年前と大して変つてゐないやうですね。
このうち、3位『老人と海』・5位『異邦人』・6位『友情』・9位『悲しみよこんにちは』・15位『変身』などは、まづその薄さから選ばれたのではないかといふ疑念が沸くのです。『変身』なんかを感想文の対象に選んだ生徒は、きつと激しく後悔したのではないか。
では1位は何かといふと漱石の『こころ』で、不動の地位を誇つてゐます。同様に不動の2位が太宰治『人間失格』。重たいですな。

さて『こころ』が「朝日新聞」に連載されてから100年といふことで、「朝日」本紙では100年ぶりの連載を実施するなどイヴェントが行われてをります。それほどこの作品はイイのか? わたくしも久しぶりに頭から読んでみました。

上中下の三部構造になつてゐます。上は「先生と私」。先生は仕事もせず他人とも交はらず、妻と二人でひつそりと読書三昧の日々を送る人。将来の展望も抱いてゐません。その先生との数少ない友人として「私」との交流が綴られますが、「私」にも隠してゐた秘密がありました。
先生はいづれは話すことを仄めかしながら、が結局直接伝へる機会を得ず...「私」は父の病状が思はしくないため、帰郷してしまひます。

中は「両親と私」。帰省した「私」ですが、父親の容態が悪化し、東京へ戻る機会を逸してしまひます。教育を受けた「私」と、明治になつても色濃く残るムラ社会の中で生きる両親との精神的支柱が異なつてゐることが判ります。日本が近代化する過程のみならず、実はかういふ親子関係は現代でも引きずつてゐるのではないでせうか。
さうかうしてゐるうちに、「私」は先生から分厚い封筒を受け取ります。只ならぬ予感に囚はれた「私」は、東京行きの汽車に飛び乗るのでした。

下は本作の白眉「先生と遺書」。このタイトルで、もう先生はこの世にはゐないことが推察されますが、『こころ』は推理小説ではないので良いのです。今まで隠されてゐた先生の秘密が明かされていきます...ここでは詳しい話はしませんので、未読の人はまあ読んでみて下さい。

わたくし(源氏川)は、お嬢さんが不憫で先生に恨み言のひとつも言ひたくなりますよ。これが近代人の苦悩なのか。
漱石は乃木将軍の殉死にショックを受けたといはれてゐます。自分も後追ひを考へるほど影響が大きかつたらしい。その想ひを先生に託したのでせうか。さう考へれば、先生の自殺も頷けないこともないのであります。

ところで、重い主題の小説ですが、すこぶる読みやすいので現代人にも人気があるのが判ります。しかも終末は予想できるのに、サスペンスフルな展開を見せる『こころ』。相反する要素を抱へ読者を飽きさせないのでした。

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