源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
真理先生
真理先生 (新潮文庫)真理先生 (新潮文庫)
(1952/07/02)
武者小路 実篤

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真理先生
武者小路実篤【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1952(昭和27)年6月発行
1967(昭和42)年11月改版
2004(平成16)年7月改版


山谷五兵衛といふ人物の語りで話がすすみます。
真理(しんり)先生とは、本名は村野誠といひ、特段に仕事はしてゐないが、その人物を慕つて常に人が集まり、弟子が生活の世話をしてゐて、時たま講演などをして自由気儘に生きてゐる人。
山谷も噂で聞いてゐる間は、どこか胡散臭い人物と思つてゐたやうだが、実際に会ふと、これはなかなかの人物であると分かり、自分も頻繁に真理先生のもとへ通ふやうになつたのでした。

真理先生の理想論に過ぎると思はれる話を、登場人物は皆感動して聞いてゐます。中には泣き出す人もゐて、かういふ反応に現在の読者はひいてしまふのではないか、と心配します。
人生の明るい部分、あるいは人間の善意といつたものが前面に押し出されてゐるので、小さな事件があつてもすぐに解決し、誤解はすぐに打ち解けてしまひます。人間、当り前に生きてゐれば何も問題はないぜ、と言はんばかりの展開になるので、一種白痴的なストーリーとも申せませう。
しかしその単調さの中にあつて、救ひなのが「馬鹿一」と呼ばれる絵描きの存在ですね。

「馬鹿一」は石ころとか動かないものばかり一所懸命描いてゐるので、真理先生から「石かきさん」と呼ばれてゐます。結構な年齢(50-60代?)と思はれますが、「真面目な」「善人の」「努力家」を極端に突き詰めたやうな性格設定になつてゐるので、この小説内でも変人扱ひされてゐます。しかし、私にはこれが愛すべき魅力的な人物に思へるのです。お陰でタイトルになつてゐる真理先生の方が脇役みたいです。新潮文庫には同じ作者の『馬鹿一』といふ作品が以前あつたので、本来こちらを先に読みたいと念願してゐたのですが、現在絶版で私は未だに入手してゐないのでした。

この『真理先生』が絶版にもならず、平成の現代まで改版を重ねてゐるのは、意外な感じがします。
内容はどうみても前時代的といふか、今の読者からは鼻の先で笑はれてしまひさうなものに思へたからです。しかし今でも読まれてゐるといふことは、案外現在の人たちも、心の底では人間の善意を信じてゐるといふか、忘れてゐないのかな、と思ふと良い心持になります。
「仲良き事は美しき哉」と書かれた南瓜の皿が私の自宅にもあります。単純なことを単純に言はれると、確かに反論できず頷くしかないなあと改めて感じたのでありました。

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