源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
ふと目の前に
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ふと目の前に
森繁久弥【著】
東京新聞出版局刊
1984(昭和59)年12月発行


名優、つひに逝く。本当に残念です。
晩年は、自分より若い俳優たちの弔辞を読む姿がよく見られ、そのたびに辛い心中を述べてゐました。ようやく自分の番が来たかと、安堵してゐるのではないでせうか。
もちろん私は自宅で追悼上映しました。『社長三代記』『喜劇 駅前弁当』の2本立てであります。
本人はこれらの喜劇シリーズを「愚にもつかぬ映画」と書いてゐますが、私は好きなのだからしようがない。

この『ふと目の前に』は、森繁久弥さんが昭和59年に「東京新聞」紙上にて連載した随筆集であります。自分の体験を中心に、印象深い「いい話」が並んでゐます。「ちよつといい話」ではないですよ。この言ひまはしは好まないところであります。

・台風で海に溺れた青年が板切れにつかまつて助かつたのだが、その板切れを取りに行け、と「お告げ」があつたさうです。とんでもないと断る船長を2時間かけて説得し、板切れのある場所まで戻つたところ、何とまだ6人の漁師が助けを待つてゐたのです。
・森繁さんの友人の息子がとんでもない非行少年で手を焼いてゐる。困り果てた友人は家の座敷に息子を呼び、自分は全裸になつて迎へた。お前も裸になれと息子に言つたら、結局裸になつて2人は抱きあつたのであります。そのとき息子は父の背中に涙を流した。以後、息子は模範学生になつた。分かりますか?
・「屋根の上のヴァイオリン弾き」の上演中、最前列に座つてゐる若い女性が寝てゐる。森繁さんほか出演者たちは不愉快になり、「起してやれ」とばかりにわざと大声で演技したり舞台を強く踏んだりしたのですが、彼女の目は開かないのです。ところが、アンコールの時カーテンが上つた時、彼女は目を閉ぢたまま懸命に拍手をしてゐる! 全盲の人だつたのです。森繁さんは感謝と申し訳なさで、思はず彼女の手を握つたのであります。

そして「引き揚げ」の章。戦後、満州から引き揚げた時の体験を綴つてゐますが、何とショッキングな内容でせうか。これは敢て紹介しませんが、森繁さんは自分が書かなければこの事実は埋もれてしまふとの責任感から書いたのでせう。
安らかに。

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