源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
野火
野火 (新潮文庫)野火 (新潮文庫)
(1954/05/12)
大岡 昇平

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野火
大岡昇平【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1954(昭和29)年4月発行
1987(昭和62)年5月改版


『野火』の舞台は、敗色濃厚となつた戦時中のフィリピンです。
田村一等兵は結核といふ因果な病に冒され、病院からも追い出されます。
分隊長からは、食糧を持たぬ病気持ちは面倒見れないといはれ、どこへも行くところがなければ死ねと突き放されるのであります。

 「臓腑を抜かれたような絶望と共に、一種陰性の幸福感が身内に溢れるのを私は感じた。行く先がないというはかない自由であるが、私はとにかく生涯の最後の幾日かを、軍人の思うままではなく、私自身の思うままに使うことが出来るのである

何といふ悲しい「幸福感」、やるせない「自由」でせうか。
田村は単身フィリピンの荒野を放浪し、緊張感の持続する体験をします。はづみで現地の女性を射殺してしまつたり。
途中から行動を共にする安田、永松らは「猿」を捕えて食糧にするといふ。ん?「猿」とは...?

緊張感のある引き締つた文章で、読者は容易に『野火』の文芸世界に入ることが出来ます。
著者のキリスト教体験が効果的に生かされてゐます。寓意をどう読み取るかは人それぞれでせうが...
難解な用語や言ひまはしもところどころに存在しますが、まことに歯応へ・読み応へのある小説と申せませう。

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