源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
神楽坂ホン書き旅館
神楽坂ホン書き旅館 (新潮文庫)神楽坂ホン書き旅館 (新潮文庫)
(2007/10)
黒川 鍾信

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神楽坂ホン書き旅館
黒川鍾信【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2007(平成19)年10月発行


書名にある「ホン」とは、映画などの脚本のこと。映画人はホンとかシャシンとか独特の用語を駆使するやうです。
日本映画の全盛時は、製作本数が現在とは比較にならぬほど多く、俳優もスタッフもフル回転でした。東映のごときは、世界記録を作るほどの量産体制に入つてゐたのであります。

そんな時代ですから、当然ホン書き(脚本家)たちも大忙し。ひとつ上げればすぐまた次の作品、と人気作家になるほど受注が多かつたのです。映画会社はそんなホン書きたちに仕事をさせるため、旅館にカンヅメにするわけですが、そのホン書き専門の旅館を「ホン書き旅館」と呼称したわけですな。

本書の舞台となる「和可菜」もさういふホン書き旅館のひとつであります。牛込は神楽坂といふ通好みの立地もあり、ここを定宿にする作家も多かつたといふことです。有名な旅館ださうですが、無学なわたくしは知りませんでした。長く生きてゐますと、いろいろなことを知ることが出来ますなあ。

著者の黒川氏は、「和可菜」の女将・和田敏子さんの甥に当たる人物。渋る女将を口説いて、「和可菜」の歴史を書物として残したいといふ念願を本書で果たしたのであります。女将の実姉は和田つま、即ち女優の小暮実千代だといふことです。おお。この女優さん、実に天真爛漫な人ですねえ。

映画界の衰退とともに同業者が次々と店を畳むなか、「和可菜」は女将や女中頭のカズさんたちの努力により孤軍奮闘を続け、いつの間にか神楽坂の顔みたいになつてしまつた。

常連客のプライバシーを侵害することを恐れた女将でしたが、時効と考へたのか結構きはどいエピソオドも披露されてゐます。しかし書かれた人々も(物故者も多い)今やステイタスと捉へれば好いのではないかと思ひます。
本書に登場する主な人物を順不同で列挙しますと、内田吐夢・山田洋次・浦山桐郎・深作欣二・早坂暁・野坂昭如・市川森一・竹山洋・村松友視・石堂淑朗・金城哲夫・色川武大・伊集院静...いやいや大層な顔ぶれであります。

ホン書きから見たもう一つの日本映画史にもなつてゐます。映画好きも文学好きも納得の、まことに愉快な一冊と申せませう。

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