源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。
私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。 (講談社文庫)私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。 (講談社文庫)
(2007/10/16)
島村 英紀

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私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか。
島村英紀【著】
講談社(講談社文庫)刊
2007(平成19)年10月発行


島村英紀氏は、有名な地震学者。と言ひつつ、不勉強な私は知りませんでした。
この島村氏が、2006年2月1日、突然の家宅捜索を受け、そのまま逮捕され拘置所で171日も過ごしたといふ、およそ日常とはかけ離れた経験を綴つた手記であります。
容疑は詐欺罪。島村氏が勤務する北海道大学の訴へであります。そもそも島村氏が開発した海底地震計なるものを、ノルウェーの大学に売つて研究費を得たのは、業務上横領である、といふのが北大の主張でした。しかし業務上横領では立件が無理なので、ノルウェー・ベルゲン大学を被害者とする詐欺罪で刑事告訴されたのでした。
ところがベルゲン大学側は、被害に遭つた覚えはないと証言します。「被害者がゐない詐欺事件」といはれる所以であります。

それでも島村氏は逮捕され、拘留されてしまひます。しかし本書の内容は、検察批判とかではなく、人が逮捕され拘留生活を送るとはどういふことか、その一点であります。しかも怒りや悔しさを抑へ、淡々と綴つてゐるのです。
実に冷静で、客観的な視点であります。突然の逮捕劇にも、「なるほど、逮捕とはこんなものか、と他人事のように思っていた。」
札幌まで同行せよ、との告知にも「なるほど、護送なのだな、と分かる。」
手錠部分に掛けるカバーの名称を尋ねたり(名前はない、との返答だが)して余裕綽綽であります。
空腹を覚えたら遠慮なく食事を要求するなど、堂堂としてゐるのでした。
しかも各所にユーモアさへ湛へ、笑ひを誘ひます。独房へ入れられる前に検尿用の紙コップを渡されるのですが、「覚醒剤の検査であろう。まさか、親切にも、糖尿病の検査をしてくれるわけではあるまい。」
並みの神経ならまいつてしまふところです。狭い独房も「船のキャビンよりましだ」とポジティブであります。全てにおいて前向きな考へ方なので、読んでゐて痛快にすらなつてくる。
取調べに対しても、検事に対して同情的な記述さへあります。激しい自白強要もあつたやうですが、拷問はされてゐない模様であります。島村氏の社会的地位を考慮したのか。

圧巻は、毎日三度三度の食事の内容を克明に記録してゐることです。
著者本人も、自分は食べ物に興味がある方だと述べてゐますが、さすがに全食事のメニューを記録するとは、並ではありません。どうやら結構豪華なメニューです。デザートも毎回付いてゐて、札幌拘置所は特に食事が良いのだとか。逆に最悪なのが東京ださうです。毎回麦飯が付いてきて、美味いが量が多すぎる、献立が麺類の時も麦飯が付くので、量が多いだけでなく炭水化物の取りすぎである、などと論評してゐます。
自分でも少々こりすぎと思つたか、「食べものに興味がない読者は、この節は読み飛ばしていただいて結構である。」

結果的に島村氏は171日の拘留後に保釈され(保釈を告げられたのが夜だつたので、布団をもう敷いたから明日にしてほしいなどと言ふのがまた笑へる)、懲役3年・執行猶予4年の判決が下されます。結局検察の面子の犠牲になつたとの見方が今となつては強まつてゐます。一度起訴されたら、例へ事実がどうあれ、それを覆すのはまことに困難であることが改めて分かります。極端に言へば、君も僕も、いつかうなるか分からないのだぜ、といふ感じです。恐ろしい。
なほ、裁判そのものに対する島村氏の意見や主張は、自身のホームページで展開されてゐるといふことです。

では、おやすみなさい。

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