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夢の超特急

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夢の超特急―新幹線汚職事件
梶山季之【著】
角川書店(角川文庫)刊
1975(昭和50)年6月発行


JR東海が計画してゐるリニア中央新幹線で、自治体側と揉めてゐたのが中間駅の建設費用問題でした。
品川・名古屋・新大阪以外の中間駅に関しては、JR東海は全額地元負担を求めてゐました。ま、沿線の人達には申し訳ないが、リニアは本来東京-名古屋-大阪の都市を最短距離で結ぶのが目的。中間駅を求める沿線自治体は、その線上にたまたま存在してゐただけなので、JRとしては中間駅はなくて結構といふ訳であります。ま、駅は作つても良いけどお金は出してね、との主張は首肯できると申せませう。

ところがJR側と地元の折衝がうまくいかない。要するに全額を負担するのは厳しいといふことですな。駅は欲しい、しかし金は出したくない。正直でよろしい。
このままでは交渉がさつぱり進まないとして、つひにJR東海は6000億ともいはれる建設費用を全額自己資金でまかなふと発表しました。大したものです。これで着工へ向けて大きな前進となります。

もつとも国土交通省の事情通にいはせると、このシナリオはJR東海の筋書き通りらしい。最初からJRの自己負担で建設しますと発表したら、駅の誘致運動が限りなく広がつて収拾がつかぬ事態になるので、かういふ形をとつたと。ふむ。
総工費は9兆円を越す壮大な事業。JRは民間企業になつたとはいへ、これは国家的大プロジェクトですよ。カネの動きが気になるところであります。

梶山季之『夢の超特急』は、サブタイトルにもありますやうに、東海道新幹線の建設にからむ巧妙な手口の汚職事件。当時の作家は、取材した成果を、小説といふ形で発表せざるを得ないことが多かつたさうです。松本清張氏もさうでした。ノンフィクションとして発表したいのは山山でありますが、さうすると嗅ぎ付けた権力者に潰されてしまふのであります。小説なら、これはフィクションだからと逃げることが出来ます。無論読者は分かつてゐます。
本文中には「新幹線」の文字はなく「東海道特急ライン」とされてゐます。用地買収にからむ土地も新横浜・新大阪がそれぞれ新神奈川・新淀川と変へてあるのですが、まあ読者には分かりますな。

ある不動産屋の不審な動きを捉へた捜査二課。そして失踪した女を追ふルポライター。両者の接点から、巨大汚職が明らかになるのであります。しかし相手はあまりにも大きな相手でありました。一枚も二枚も上手なのです。
終末の苦苦しさは、そのまま梶山氏の無念の思ひなのでせう。たとへフィクションの形をとつたとはいへ、ハッピイエンドで終らせる訳にはいかなかつたのだと推察するところであります。
残念ながら絶版。復刊希望。

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