源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
介護現場は、なぜ辛いのか
介護現場は、なぜ辛いのか: 特養老人ホームの終わらない日常 (新潮文庫)介護現場は、なぜ辛いのか: 特養老人ホームの終わらない日常 (新潮文庫)
(2013/06/26)
本岡 類

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介護現場は、なぜ辛いのか―特養老人ホームの終わらない日常
本岡類【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2013(平成25)年6月発行

近年何かと話題に上る介護の世界。しかも耳に入るのはよろしくない噂ばかりであります。虐待・暴行・拘束・いじめ・セクハラ...
実態はどうなつてゐるのか? 作家の本岡類氏が、実母の介護をきつかけに、この世界にのめり込んで行きます。

本岡氏はヘルパー2級の資格を得、さる特別養護老人ホーム(特養)で週二日勤務の非常勤職員として採用されました。時給は850円ださうです。まあ少なくとも高給ではありませんねえ。しかも新人もヴェテランも同額らしいので、これでは職員は定着しないことでせう。

人手が少ないこともあり、入居者一人ひとりに時間。入浴や食事、トイレは時間を決めて流れ作業のやうに進められます。目を離すと何をしでかすか分からないので拘束してしまふ。本書を読むまでは、さういふ報道に接するたびに「怪しからんのう」と憤慨してゐましたが、この現場は人心を荒廃させるなあ。一方的に非難されるのが気の毒になつてきました。

さらに本岡氏が驚くのは、新入り職員のためのマニュアル類がまつたくなく、先輩がするのを見て盗む(覚える)といふ、前近代的な徒弟制度みたいな世界であるところ。だから教へられてもゐないのに、「なぜやらないのか」「なぜできないのか」を難詰される理不尽も日常の一こまであります。
もつとも、かういふ職場は中小の零細企業ではよくあること。中高年で転職した人なんかは特に「さうさう」と頷くところではないでせうか。

本岡氏は結局五ヶ月で辞めることになりますが、問題を問題として捉へられるには絶妙な時期と申せませう。同じ職場に半年も勤めると、それまで問題だと思つた事案が「日常」になつてしまひます。さうすると問題は問題ではなくなり、次に入つて来る新人さんにも、「ここでは、かうなんだ。さういふものだよ」と訳知り顔で語るやうになるのであります。

結局職員の待遇問題が大きな焦点となるのですが、現在の介護保険法では処遇改善には限度があるさうです。国はこれをいいことに、だから保険料値上だ、増税だ、きみたちは将来の日本のことを考へるなら協力してくれるよな、な、な? と国民に負担を押し付けるのであります。むろん為政者たちは自分たちの血は流しません。国民の金はいまだにダーダーと無駄使ひされてゐるのに。

著者は、現状では若い人ばかりに負担がかかる仕組みに疑問を呈し、元気な高齢者をもつと活用しやうと提言してゐます。しかし肝心の高齢者がその気にならないので叱咤してをります。
そして最後に言ひます。

そうした大きな政策転換は厚労省の役人には荷が重過ぎ、政治家の仕事である。そして、有能な政治家を選ぶのは、国民の役目である

つまり、国民は役目を果たしてゐないといふことになります。巷間いはれる「(日本の)国民は一流だが、政治は三流」も幻想であります。国民は選ぶ権利ばかり叫ぶのですが、選んだ結果についても責任をとるべきでせう。その覚悟がないからいつまでも世の中が変らない。

ううむ、わたくしの意に沿はない真面目な話になつてしまひました。しかし介護の問題ひとつから日本の大問題が見えるのは事実のやうです。
全国民が関はる問題ですので、一読しても罰は当りますまい。

それではご無礼いたします。

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