源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
気まぐれ列車で出発進行

IMG_0199.jpg 気まぐれ列車で出発進行 (講談社文庫)

気まぐれ列車で出発進行
種村直樹【著】
講談社(講談社文庫)刊
1985(昭和60)年7月発行


今月7日に、徳大寺有恒氏が亡くなり、テレビなどでも広く報道されました。
実はその一日前に、種村直樹氏も逝去されてゐました。知つた瞬間は、あまりの衝撃に少し思考が停止したやうで、記憶が飛んでをります。新聞上では徳大寺氏と同じ日に記事が載つてゐました。鉄道の専門家よりも、クルマの専門家の方がやはり話題になるのだらうな、と変な事を考へたものです。

ただ、記事では肩書きを「鉄道ライター」としてあるところがほとんどでした。やはり種村氏の場合、「レイルウェイ・ライター」としていただきたかつた。単に鉄道記者を英訳しただけではなく、これまで誰もしてこなかつた仕事をするといふ自負も込めて自ら名乗つてゐたのだと考へます。「特技監督」が円谷英二を表現する特別の肩書きであるのと同様に、種村直樹は他の追随を許さない唯一無二の「レイルウェイ・ライター」なのです。

くも膜下出血で倒れて以降、現場復帰してもその活動には陰りが見え、精彩を欠いてゐたので心配はしてゐたのですが、やはりこの日が来てしまつたか、といふ無念の思ひがあります。

種村氏は言はずと知れた鉄道趣味界の大物であります。かつては宮脇俊三氏と並ぶ2大重鎮といふ存在でした。宮脇氏が「文学」を志向したのに対し、種村氏はあくまでも「記者」としてジャーナリズムの視点から鉄道を俯瞰してゐたと申せませう。

種村氏の著作は夥しい数にのぼりますが、やはり「気まぐれ列車」の系譜が一番彼らしいと思ひ、今月『乗ったで降りたで完乗列車』を取り上げたばかりですが、ここではシリーズ第一作の『気まぐれ列車で出発進行』に登場してもらふことにします。
気まぐれ列車では何かしらのゲーム性を取り入れ、制約を強めることでマンネリを回避してゐます。数日間の鉄道乗り継ぎ旅行中に、一度も改札の外へ出ずに過ごすとか、日本列島の外周になるべく沿つて鉄道旅行をするとか。
他にも若き日の「北海道きまぐれ旅行前史」や、「韓国」「香港」まで出かけて乗る気まぐれ列車とかも収録されてゐます。

結局「外周の旅」は種村氏のライフワークとなりました。東京日本橋をスタートして、何年かかるか分からぬが日本列島を一周し再び日本橋へ帰るといふものであります。
これは2009(平成21)年に見事達成するのですが、その時はすでに種村氏が発表できる媒体が少なく、メディアで紹介されることはありませんでした。ゆゑに、種村氏としては外周の旅を完成させたが、それを活字にして世に問ふことがほとんど出来ず、気の毒なことでした。
全盛期の華やかさを知る身としては、晩年の種村氏の不遇に胸が詰まる思ひがするのでした。

常に利用者の視点から鉄道を語つた種村氏。事業者に対し厳しい指摘もありましたが、それも鉄道に対する愛情があつたからこそでせう。種村氏の精神を受け継ぐ次世代ライターの登場を望むものであります。

ぢやあまたお会ひしませう。

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