源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
勝負師語録
yjimage.jpg 勝負師語録 (新潮文庫)

勝負師語録

近藤唯之【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1992(平成4)年4月発行


先達ての横綱白鵬関の問題発言については、協会は厳重注意で幕を引かうとしてゐます。何だかんだ言つても、現在の相撲界の屋台骨を支へる功労者だから、あまり強く踏み込むことができないみたいですね。
本人も反省してゐるらしいが、本当かねと疑つてしまひます。井上ひさしさんも指摘してゐましたが、文章の場合は、どんな内容だらうが発表前に消しゴムで消して書き直せるけれど、話し言葉は一度口にしたら、もう取り消せない。いくら「前言を訂正します」と言つたところで、聞き手の記憶に残るのであります。

今回の白鵬の発言を聞いて、古い相撲ファンならば横綱大鵬の「世紀の大誤審」を連想した人が多かつたのではないでせうか。
1969(昭和44)年春場所二日目。横綱大鵬は連勝街道を走り、前日までで45連勝を達成してゐました。二日目の相手は平幕の戸田(後の羽黒岩)で、相撲はもつれました。行司軍配は大鵬に上がつたのですが、物言ひが付き、行司差し違へで戸田の勝ちとなりました。
ところが、後にビデオテープで確認すると、何と戸田の足が先に土俵の外に出てゐたのです。よりによつて歴史上に残る連勝記録を誤審で途切れさせてしまつたといふ訳であります。むろん今さら勝負の結果は覆りません。
大鵬はさぞや激怒したのでは?と思ふでせう。しかし彼は「横綱として、物言ひがつくやうな相撲を取る方が悪い。だから自分が悪い」と述べたのであります。おお。おお。これが白鵬だつたらどうでせうか。想像するだけでも恐ろしいことです。周囲に当り散らし、付き人なんかは無事で済まないのでは。

この彼我の差。記録では抜き去つても、人間性の違ひをまざまざと見せつけられた思ひであります。
そして「取り直し」の件でも白鵬関は不満をぶちまけてゐました。あるコメンテイターが「文句なく勝負をつける良いチャンスを貰つたと喜ばなくてはいけないところなのに」と発言しましたが、我が意を得たりでございます。
これについては、プロ野球の故・大杉勝男選手を思ひ出します。

1978(昭和53)年、ヤクルト-阪急の日本シリーズ第七戦。さう聞くとピンとくる人も多いでせう。この試合で、大杉選手はレフトのポール際ぎりぎりに大飛球を放ちます。線審は本塁打と判定しますが、阪急の上田監督はこの判定に猛抗議。何と1時間19分もの試合中断をさせてしまふのです。判定はもちろん変りません。
いろいろあつて、何とか試合は再開しますが、ケチを付けられた大杉選手の腸は煮えくり返つてゐます。「ならばもう一本、誰が見ても文句の付けられない一発を打つてやる」
そして迎へた8回裏、今度は文句なしのホームランを打つてのけるのでした。

実は『勝負師語録』には、上記のエピソードは出てきません。しかし著者の近藤氏も述べるやうに、スポーツにおける勝負といふのは、実はその結果以上に、そこに至るまでの人間臭い行動が人を打つのであります。
そんな感想を抱いた今回の白鵬騒動でした。真の意味で大鵬を抜いて頂きたいものであります。
なんて書くと、「結局精神論か」「お前は何様だ」と言はれさうですが......

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