源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
なぜ時代劇は滅びるのか
無題

なぜ時代劇は滅びるのか

春日太一【著】
新潮社(新潮新書)刊
2014(平成26)年9月発行

著者はかつて『時代劇は死なず!』といふ、まことに勇ましいタイトルの本を書いてゐますが、ここへ来て『なぜ時代劇は滅びるのか』とかなり弱気になつてきました。
著者は1977年の生れと若いこともあつて、時代劇といつてもテレビ番組中心に研究してゐるやうです。

国民的長寿番組といはれた『水戸黄門』が打ち切りとなつた時に、マスコミも俄かに「時代劇の危機だ!」などと、取つて付けたやうに騒ぎましたが、無論危機はとうの昔からやつてきてゐたのです。
春日氏によると、テレビ視聴率の調査法が変つたことが大きな転換点であると述べます。即ち、従来は世帯ごとの視聴率しか分からなかつたものが、個人の情報まで分かるやうになり、年代性別すら判明するのださうです。
すると、スポンサーがカネを出してゐた番組は、実は自社商品のユーザーとは異なる層が観てゐたことが分かつた。ぢやあ、そんな番組にカネを出す意味はないよね、となつてしまふのだとか。

スポンサーの問題だけではありません。何より作る側に問題が大有りなのであります。第三章以降、役者もゐない、監督もゐない、プロデューサーもゐない、もう誰もゐないと、実名を挙げて指摘します。否、批判します。攻撃します。こんなに実名を出して、今後の時代劇研究家としての活動に差障りがあるのではないかと心配するほどです。
「自然体」と称して時代劇の作り込みをしない俳優の怠慢、時代劇の所作を知らない監督が「新しい時代劇」と誤魔化して作る不勉強、サラリーマン化して時代劇への情熱が皆無の、数字だけ追ふプロデューサー......

確かに人気タレントやアイドルが出てくる「時代劇」は、衣装を替へ鬘を被つただけで、動きや台詞はまるで現代劇、といふものが多いと存じます。演ずる人の所為といふより、それを教へられる人がゐないことが悲劇なのですね。
さういへば松平健さんが「今の時代劇は殺陣ではなくてアクションです。本当の殺陣をやりたいですね」と語つてゐました。(もつとも『暴れん坊将軍』の殺陣はまつたく単調で、何のスリルもありませんが、これも演出側の問題なのでせう)

かかる状況に、時代劇の展望に関して著者はかなり悲観的です。さもありなむ。ただ、作品を通して「お前は間違つてゐるぞ」と反論して貰ひたいとも述べてゐます。そんな作品に出会へたら、その時は謝罪すると。否著者の本心は、是非謝罪したいのだといふことです。心からの叫びですなあ。

わたくしの感想としては、(極極一部を除けば)一から十まで「その通り!」と言ひたい内容であります。ただ、やはり時代劇の再生は無理でせうね。わたくしの実感では、時代劇はすでに(著者が生れる前の)昭和40年代に死んでゐると考へます......

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