源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
そして殺人者は野に放たれる
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そして殺人者は野に放たれる

日垣隆【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2006(平成18)年11月発行

これも随分前に購入済だつたのですが、いざ読めば腹が立つてしようがないだらうなあと、中中手に取らなかつた一冊であります。
恐らく多くの人は、日本の刑罰はおしなべて甘い、日本は犯罪者天国だと感じてゐるのではないでせうか。わたくしもその一人で、罪に応じた刑罰を与へていただきたいのですが、実態は精神状態だの、被告の置かれた立場や恵まれない生ひ立ちだの、本人は反省してゐるだの、様様なレトリックを駆使して、少しでも罪を軽くする傾向がございます。
それならば不幸な境遇の人は罪を犯しても不思議ではないのか、反省すれば罪は軽減されるのか、いつも疑問に思つてゐました。そもそも反省したかどうかなんて、本人以外に分かる訳が無いぢやありませんか。

そして容疑者の人権は120%考慮する癖に、被害者への配慮がまるで足りないといふ点も同意するところです。「心神喪失」のお墨付きを貰つた加害者は、報道でも仮名で発表され、一方で被害者はずばり実名が表に出ます。
「序章」で取り上げられてゐる、兵庫県明石市で起きた通り魔殺人事件でも、被害者が救急車で運ばれた病院からの請求は、すべて被害者の母親が支払つたのに対し、この凶悪犯が自業自得で怪我をした治療費は、国が全額負担したさうです。

この年、日本全体で加害者には総計約四六億円の国選弁護報酬と、食糧費+医療費+衣服費に三〇〇億円も国が支出した。対照的に、被害者には遺族給付金と障害給付金を合計しても五億七〇〇〇万円しか払われていない。(序章より)

我が国はお金の使ひ方がまるで出鱈目であるなあと常日頃から思つてゐますが、やつぱりをかしいですね。

それでも厳罰が待つてゐるならまだ救ひがありますが、現実には「心神喪失」の鑑定を受けて不起訴になつたり、減刑されたりします。この拠り所となるのは、本書にも度度出てきますが、刑法39条といふ条文であります。即ち。
刑法39条 
1 心神薄弱者ノ行為ハコレヲ罰セズ   
2 心神耗弱者ノ行為ハソノ刑ヲ減刑ス

といふもの。
これにより理不尽に罪から逃れた人物がどれだけゐたことか。逮捕後、加害者は異常な言動を見せれば、「責任能力の有無」を判定するため、忽ち精神鑑定にかけられます。そして鑑定者は弁護士の主張を取り入れた判定を下す。仰仰しく精神鑑定などと言つても、要するに客観性の低い、感想文みたいなものです。
無罪放免となつた加害者は、野に放たれた後、再犯を繰り返す。「俺は捕まつても、心神喪失で直ぐに出られる」と豪語する輩もゐるさうです。
また、覚醒剤が原因の犯罪でも、飲酒運転による交通死亡事故(こんなのは殺人と変りませんね)、を起こしても、責任能力無しと判定され再び野放しにされる(通常の状態なら罰せられるのに、であります)。著者が繰り返し述べるやうに、この国は本当に法治国家かと疑ひたくなります。
ハンムラビ法典の「目には目を」、江戸時代の「仇討」など一見前時代的と思はれる制度も、むしろ合理的とさへ思はれるほどです。お仕置集団「ハングマン」のドラマが大人気だつたのも頷けます。

ああ、やつぱり腹が立つてきました。しかし「読まなきや良かつた」とは思ひません。無関心では、いつまで経つても変りませんからねえ......



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