源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
ずこいきり
4101118205.jpg

ずこいきり

源氏鶏太【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1979(昭和54)年1月発行

石川達三氏に続き、源氏鶏太氏も没後30年を迎へます。
超超超流行作家だつた源氏氏。あれほどの作品を量産した人も、現在では知る人も少なくなり、古本屋ですらその著書はあまり見かけなくなつてをります。まあ、だからこそ「流行作家」なんでせうがね。
因みに「源氏川苦心」の名は、源氏鶏太から採つてゐるのだらうなどと推測する御仁がたまにゐますが、それは事実とは違ふのであります。なんて話は誰も興味無いよね。

表題の「ずこいきり」とは、源氏氏の郷里でもある富山の方言なのださうです。「ずこ」は頭の意で、その「ずこ」がすぐに「いきり」たつことを差すとか。それも正義感を背景に、弱者の立場に立つ人物。この小説以外でこの言葉を聞いたことがありませんので、現在でも使ふ人がゐるのかどうか。

入社三年目のサラリーマン、青山庄平くんが、その「ずこいきり」。彼は同僚から、こじれた別れ話の決着を代理でつけてくれと、ムシの良い話を頼まれます。人の良い庄平は引き受けてしまひ、相手の女性に会ひに行きますが、何と女性側も代理を起用してゐたのです。この代理人が鴨井ちあきといふ中中魅力的な女性で、庄平くんは彼女に一目惚れしてしまふのです。

一方、悪い女に引つ掛かつた会社の先輩の為にも、交渉役を引き受けます。その女性には「俺は荒馬だァ」なるヒモが付いてをり、このヒモに百万円もの金額を要求させられ、連日脅されてゐたのであります。誰もが恐れる「俺は荒馬だァ」に対して、我らが「ずこいきり」は、如何に立ち向かつて行くのか......?

『ずこいきり』は、1972(昭和47)年に発表されました。実は源氏作品としては、既に後期に含まれるものであります。快男児サラリーマンもので一世を風靡した源氏氏ですが、実はこの時期、ユーレイものなどのオカルト作品とか、若い女性の自立を描く作品とかが中心になつてゐました。

そこへこの『ずこいきり』。初期作品の復活かと思はれたのですが、時代を反映してか、より現実的な「快男児」を描いてゐます。初期の主人公は、単純明快、名前も単純(「昭和太郎」とかね)、ちぎつては投げの痛快篇が多かつたのですが、本作の青山庄平くんは、それに比べてちよつとキャラクタアが弱い。結局は弱者の味方になるのですが、それも上司から「ずこいきり」とおだれられた挙句の行動であります。
その物足りない主人公を補ふのが、鴨井ちあきと、その先輩たる小野田祥子といふ魅力的な二人の女性。彼女たちが、実に小気味良く庄平くんを刺激します。

まあ、肯定的に言へば高度成長も終焉を迎へた時期に相応しい主人公とも申せませう。
で、今「ずこいきり」といふ言葉を調べたら、どうやらあまり良い意味ではなささうですね。おやおや......



スポンサーサイト
コメント
コメント
コメントの投稿
URL:
本文:
パスワード:
非公開コメント: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
トラックバック URL
http://genjigawa.blog.fc2.com/tb.php/558-cae20864
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
トラックバック