源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
ゼロからのMBA
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ゼロからのMBA

佐藤智恵【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2013(平成25)年7月発行

MBAとわたくしの関はりは、一切ございません。かつて本屋にゐた頃に、MBA関連の書籍を売場の棚に並べてはゐましたが、どれ参考のために一冊目を通しませうか、などといふ気分には全くなれず、まあ機械的に「商品」として扱つてゐたわけです。
そのくせ、客から「どの本が良いですか?」などと問はれると、各書の特徴を滔滔と述べ、貴殿のやうな目的だとこの本がお薦めである、或はそのシリーズがよろしからう、などと平気で応対してゐました。不思議ですなあ。これは一体どういふ訳ですかな。

それはそれとして、佐藤智恵氏著『ゼロからのMBA』であります。MBAがどうとかいふことではなく、いろんな人の「勉強法」を拝見するのがわたくしの好みでして。
恥かしながらわたくしは存じ上げませんでしたが、佐藤氏は作家・コンサルタントとして活躍中で、著書も多数ございます。その佐藤さんが、MBA取得を思ひ立ち、見事に本懐遂げるまでの約四年間(たつたの四年間でとは驚きです)の奮闘ぶりを披露した一冊であります。

1997年、当時27歳の佐藤さんは、既にNHKディレクターとして第一線で活躍中でありました。しかるに彼女は、かねてより米国留学をしたいと願つてゐたのであります。この時点ではことさらに「○○になりたい!」「絶対に△△を実現するんだ!」みたいな具体的なものはなかつたと言ひます。
で、留学のための予備校(があるんですね)で相談したところ、MBAを強く勧められます。その気になつた佐藤さんは、超短期決戦での取得を決意。予備校では、「課題エッセイ」の指導を受けながら、TOEFLとGMATの点数を上げることに腐心します。なかなか合格レベルまで上がらず、焦つたり。こんなにデキル人でも苦労はあるのですね。

予備校で担当してくれたデバリエ氏の指導のお陰もあり、見事コロンビア大学のビジネススクールに入学が決定します。次なる関門は、お金。約一年半の留学期間中、何と「家一軒分のお金」が必要なのだとか。卒業後の高給取りが約束されてゐるとはいへ、おいそれと出せる額ではありません。金策に走りますが、結局は足りず、万策尽き最後は親から借金して何とか準備するのでした。
そしてNHKに籍を置いたままでは行けないことが決定し、退局を決意します。まあ双方の言ひ分が分かるだけに切ないですなあ。

入学後は怒涛の学習漬け......だと思ふのですが、本書ではどちらかといへば楽しいことを中心に記述されてゐます。「チーム・ヒッキー」で交流したり、不人気の先生をクビに追ひ込んだり。同時に就職活動もするのだから、それはハアドな日々だつたでせう。
これほど苦労して取得したMBAでも、就職にあたつては万能ではないのですな。
何はともあれ無事に卒業し、就職活動も実つて数社から内定をもらひ、最後は占ひ(!)でボストンコンサルティンググループに決めるのでした。

一応ここまでが「MBA成功物語」で、以降佐藤さんは転職を経験したのち、2012年には遂に独立を果たすのでした。
それほどの苦労をしてお金を注ぎ込んで、価値のあるものですか?と訊かれることもあるさうです。確かにその通りだが、彼女はかう書いてゐます。「ただし、MBAは、人生に選択肢を与えてくれるのは、事実。ここで、人生を変えるか、変えないかは、「本人次第」なのだ。」と。
だからと言つて、本書を読んだ人が「さうか、俺も、私も、MBAを目指さう!」となる必要はないと思ひます。未知の領域に挑戦する内容は、個々人でそれぞれ違ひますからね。ただ、何かを踏み出さんとして中中一歩が出ない人にとつては、背中を押してくれる一冊ぢやないでせうか。

最後に、タイトルについて、色色批判があるやうです。この人、全然ゼロからの出発ぢやないぢやん。東大卒・帰国子女・NHKディレクター......さらに親に巨額の資金を「貸してよお。絶対に返すから」で借りれちやふ家庭は、普通の庶民では中中ありません。かなり恵まれた出発と申せませう。
タイトルが誰の発案か分かりませんが、そこで反発を喰らふのは勿体ない。せつかくの真摯な奮闘記が、不知不識のうちに割り引かれて読まれる恐れがあります。

ま、いまさらわたくしが心配しても詮無いことですが。


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