源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
隠蔽捜査
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隠蔽捜査

今野敏【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2008(平成20)年2月発行

知り合ひの甘木さん(内田百閒ふう表記)お薦めの作家といふことで、初めて今野敏さんの作品を読んでみました。本屋へ行くと、実に多くの著作がありますね。何を選んだら良いのか分からぬので、「警察小説の歴史を変えた、吉川英治文学新人賞受賞作」との惹句に導かれて、『隠蔽捜査』を手に取つた次第です。隠蔽。良い響きであります。

主人公の竜崎伸也といふ人は、警察庁の官房長官。キャリアであります。仕事は出来るが、原理原則を重要視するあまりの融通の利かぬ性格ゆゑに、変人扱ひされ周辺とはイザコザが絶へません。
家庭でも同様であります。家の事は女房の仕事。俺は天下国家の為に尽くす、選ばれた人間なのだ。明治時代の人間が現代にタイムスリップした訳でもありますまいに。
せつかく有名私大の入試に合格した長男に対し、東大以外は大学に非ずと諭し入学させず、東大受験のため浪人させたり。今は理解できないだらうが、今に俺に感謝する時がくる、うん。なんてね。しかし合格しても入学させぬ大学受験を容認させたのは不可解ですな。
娘が元上司の息子との縁談について悩んでゐます。断つたらお父さんに迷惑がかかるんぢやないかしら。「(彼と結婚したら)お父さんにとって都合がいいんでしょう?」と娘に聞かれ、普通なら「お父さんのことは気にするな」とでも言ひさうなものなのに、「たしかに都合はいいな」と言ひ放つ。全く他意が無いだけに始末が悪いのです。

さて、足立区で殺人事件が発生しましたが、マスコミ対応すべき竜崎には報告が上つてきませんでした。竜崎は激怒し、警視庁の刑事部長・伊丹俊太郎を呼び出し情報を得ます。伊丹は竜崎の幼馴染で、周囲からは「親友」「名コンビ」と目されてゐるのですが、竜崎自身はまつたくそんな意識はなく、小学生時代に伊丹(の取り巻き)からいぢめに遭つてゐた苦い思ひ出しかありません。
その殺人事件の被疑者は暴力団員で前科がありました。続いて、さいたま市内でも殺人事件が起きます。これは足立の件と関連があるぞ。被疑者たちには共通の過去があり、次々と新たな事実が露見します。どうやら、少年犯罪に関はる問題が潜んでゐるやうです。そして、警察にとつて、最悪の事実が......
あくまで隠蔽し、もみ消す方針に一人敢然と挑むのが、当然我らが竜崎であります。奴らは危機管理のイロハが分かつてゐない。これは、日本の警察組織全体を揺るがす問題なのに、認識が甘すぎる......

犯人を特定するきつかけが、余りに単純で一寸拍子抜けするところもありますが、トリックを見世物にする話ではないので、それはまあいいでせう。竜崎伸也といふ、過去には中中類のない魅力的な人物を主人公とすることで、斬新な読後感を与へてゐます。
通常なら、竜崎みたいな四角四面な朴念仁は、小説やドラマでは敵役、嫌味な奴として登場することが多いと存じますが、ここまで強烈なキャラクタアを持つた主役に据える設定は、確かに目新しい。この『隠蔽捜査』はシリーズ化されて、続篇も次々と出てゐるやうですので、ぜひ読んでみようと思はせます。

しかし実際に竜崎みたいな人が身近にゐたら、やはり迷惑でせうね......



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