源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
引退 そのドラマ
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引退 そのドラマ

近藤唯之【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1986(昭和61)年11月発行

今年のプロ野球もレギュラーシーズンが終了し、ポストシーズンを残すのみとなつてきました。毎年この時期、優勝したティームやタイトルを獲得した選手などの華やかな話題の陰で、惜しまれつつ、或はひつそりと姿を消す選手も多い。
近藤唯之著『引退 そのドラマ』は、そんなプロ野球のスタア選手がいかにして引退を迎へたかのドラマを綴つた一冊であります。

いかなる名選手にも、等しく引退は訪れます。よく「余力を残し惜しまれながらの引退か、それとも全てを出し尽くし、ボロボロに燃え尽きての引退か」などと議論されますが、本書を読めばそんなことはどうでもよくなつてきます。それほど、引退を決めた瞬間といふのは、一時代を築いた選手ほど切ないものだなあと思ふのです。
例へば王貞治選手。若手選手が速いと思はない相手投手の球が、自分には恐ろしいほど速く感じ、しかも悔しさも湧いてこないのを自覚し、俺も終りだなと悟る。
或は野村克也捕手。最後の所属チームは西武ライオンズでしたが、自分の打順で代打を出されて、「西武なんて負けちまへ」と内心毒づいた。その時、プロとして、自軍の負けを願ふなんて「もう終りだ......」と。

また、出勤時は妻に「行つてくるよ」と普通に家を出た選手が、その夜には引退することになつてゐた、といふ急転直下の人も珍しくありません。
江本孟紀投手は、あのアホ発言の責任を取れと球団に迫られ、その日のうちに失業者となりました。
辻恭彦捕手は監督からの突然の「肩叩き」で、考慮する猶予さへ与へられず引退を強要され、その夜妻に告げる事が出来なかつた。

そんな「明日の運命も知れぬ」男達への、近藤氏の眼差しは温かいのであります。
男の運命なんて、絹糸一本で重い石をつるしているようなものだ。いつ切断されるかわからない
男の運命なんて重い荷物を背負って、丸木橋を渡るようなものだ。いつくるりと地獄へ落ちるかわからない
くり返される近藤節も絶好調。江夏豊・平松政次・星野仙一・鈴木啓示・堀内恒夫・高橋一三など13投手と、田淵幸一・張本勲・高田繁・大杉勝男・長嶋茂雄・山本浩二など27野手の「引退の瞬間」をルポしてゐます。
周辺取材や文献に当つてゐる訳ではなく、全て近藤氏が選手に直接取材した話ばかりでありますので、本書でしか明らかになつてゐない事実も多数ございます。
ちと古いですが、シーズンオフの話の種にもなるでせう。



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