源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
鍵のかかる部屋
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鍵のかかる部屋

三島由紀夫【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1980(昭和55)年2月発行
2003(平成15)年9月改版

今年は三島由紀夫の生誕90年を迎へますが、同時に没後45年に当る年でもあります。即ちその生涯45年に並んだといふ訳ですな。
『金閣寺』『潮騒』などといふ著名な長篇小説は避けて、偏屈にも短篇集『鍵のかかる部屋』を手に取つてみました。
解説(田中美代子氏)によりますと、「約三十年の作家生活を通して、各時期に書かれた短編小説十二編が収録されている」との事ですが、最後の『蘭陵王』だけ最晩年の作品で、あとは大体昭和20年代に集中してをります。この時代が三島由紀夫の所謂「文学的開花」の時期なのでせう。

以下簡単に各作品に触れますと......
彩絵硝子」では、狷之助さんと則子さんの関係がどうなるか、通俗的な読者の期待を嘲ふかのやうな印象です。
祈りの日記」は、どうしても「男もすなる日記といふものを~」を連想しますね、読みにくいけれど。弓男さんを手玉に取るやうな康子さんの態度は、末恐ろしい。
慈善」に於ける秀子さんに対する作者の仕打ちには、高慢な残酷さを感じます。これも「ジャスティファイ」される行為なのか。
訃音」では、檜垣局長(権力者)への皮肉(嫌がらせ)が効いてをります。但しわたくしの好みぢやない。あ、わたくしの好みなんざ誰も聞いちやゐませんわな。
怪物」の松平斉茂氏は、最後の怪物ぶりを披露したが、その思惑は見事に外れ、檜垣(「訃音」の主人公と同名なのは偶然か?)の人望を上げるのに役立つただけのやうです。しかし真に人道的なのは誰なのか、分かつたもんぢやありません。
果実」では、女性同士の恋愛が描かれてゐますが、昨今の同性カップルとは一線を画し、必然的に破滅へ向かはざるを得ない幻想的な存在です。しかし「果実」とはぴつたりの表題ですな。
死の島」に於ける菊田次郎も、幽玄さを湛へた不思議な人物であります。支配人のゐる空間とは、完全に次元の違ふ世界に漂つてゐます。この人、無事に家に帰ることが出来るのかなあ。
美神」のN博士は、もう少しR博士に対して思ひやりがあつてもいいのぢやないか?と別次元の感想を抱きました。あはれなR博士......
江口初女覚書」は悪女の話。まるで新東宝映画を観てゐるやうです。若杉嘉津子か小畠絹子かな。
表題作「鍵のかかる部屋」の、財務官僚と9歳の少女。二人の危険な香りのする関係。息苦しくなるやうな展開であります。使用人しげやの最後の一言は、読む者を凍りつかせるのでした。自分好みの作品。あ、わたくしの好みなんざ誰も(以下略)。
山の魂」は、作者の官憲嫌ひを窺はせる一篇であります。隆吉と飛田のやうな関係は、姿を変へながらも、きつと現在も続いてゐるのでせう。
蘭陵王」は「盾の会」の戦闘訓練での出来事を元にしてゐます。横笛で「蘭陵王」を演奏した青年の最後の一言は、真の敵を見誤つてゐる(と作者が考へる)大衆が念頭にあつたのでは?と脳裏をちらりと過りました。印象的な一篇。

通読しますと、好みは別として、作者の溢れんばかりの才能や技巧を感じない訳にはいきません。そしてその背後には、一般大衆を小馬鹿にする、自信満々の作者のドヤ顔がちらつくのであります。

さて、今夜も更けてまゐりました。この辺でご無礼いたします。



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