源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
昭和の車掌奮闘記
shouwanoshashouhuntouki.jpg

昭和の車掌奮闘記 列車の中の昭和ニッポン史

坂本衛【著】
交通新聞社(交通新聞社新書)刊
2009(平成21)年8月発行

もはや昭和後期の鉄道もノスタルジーの対象として語られる時代になりました。オールドテツの中には、「昔は良かつた」的に懐かしむ人も多いのです。
しかし。
本当に昔の鉄道事情は良かつたのか? 甚だ疑問に思ふところです。切符の入手難、威張り散らす駅員、冷暖房の無い車内、不衛生なトイレ、固くて座り心地の悪い座席、狭くてプライバシーの無い寝台......
常識的に考へたら、現在はあらゆる点で飛躍的に改善されてゐると存じます。さはさりながら、表面上の快適さだけでは語れない、人と人とのつながり、一体感とでも申すものが消えたことも事実であります。

さて、『昭和の車掌奮闘記』の著者・坂本衛氏は、少年時代からの鉄道好きが高じて国鉄に就職した人。その期間は1953(昭和28)年-1987(昭和62)年といふから、坂本氏の職歴はまさに国鉄(日本国有鉄道=昭和24年から昭和62年まで存在)の歴史そのものと言つて過言ではありますまい。また、国鉄の車掌が主人公の傑作漫画『カレチ』は、坂本氏の著書を参考にしたと聞いてゐます。

第一章で著者自らの生ひ立ちから国鉄就職までを語ります。連結手ではなく踏切警手になれと勧めた父君は、まことに慧眼の持ち主でした。
第二章では、昭和35年に念願の車掌となつた著者の奮闘ぶりが窺へます。車掌の勤務体系や、普段車掌が持ち歩いてゐる鞄の中身を公開してゐます。
第三章は、昭和43年に専務車掌に昇格した後の、さまざまなトラブル、エピソードが語られます。日本海縦貫線の勤務が多い為、度々雪には悩まされたさうです。窃盗犯との対決や(必ずこちらが勝つ)、死体を運んだ「だいせん」の話などは臨場感たつぷり。
第四章は「専務車掌の楽しみ!?」と題して、当事者にとつては深刻だが傍観者はニヤと笑つてしまふ話、大人向けの少し色つぽい話などが詰まつてゐます。現在ではセクハラと言はれさうな話も。
第五章は今でこそ話せる失敗談の数々を披露。表題通り「けしからん話」もあります。
第六章では、専務車掌(といふか、坂本氏本人が)勤務の合間にどんなことをしてゐるのかを開陳してゐます。
最後の第七章は「あとがきに代えて」。坂本氏にも退職の日が訪れます。最終乗務は「雷鳥」でした。さすがに少ししんみりしますね。文章を書くやうになつたきつかけも記されてゐます。

一般的な昭和の鉄道事情を知るための本ではなく、あくまでも坂本氏個人の思ひ出話が中心であります。それを承知で読めば、面白い一冊と申せませう。肩が凝らない、旅のお伴としても適してゐます。
では夜も遅い時間になりました。ご無礼いたします。



スポンサーサイト
コメント
コメント
コメントの投稿
URL:
本文:
パスワード:
非公開コメント: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
トラックバック URL
http://genjigawa.blog.fc2.com/tb.php/595-b718a8fd
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
トラックバック