源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
廃線紀行
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廃線紀行 もうひとつの鉄道旅

梯久美子【著】
中央公論新社(中公新書)刊
2015(平成27)年7月発行

すつかり市民権を得たと思はれる「廃線紀行」。しかし、以前もどこかで書いた気がしますが、わたくしは廃線紀行はしません。鉄道の廃墟を巡るなんて、悲しすぎる。否それ以前に正視に堪へません。必ず泣いてしまふのであります。
しかし本書『廃線紀行―もうひとつの鉄道旅』については、著者が『散るぞ悲しき』の梯久美子さんであること、朝日新聞紙上で原武史氏が、2015年の三冊のひとつに選んでゐたことなどから、購買してみました。カラー版といふことで紙質が良く、価格にも反映されてゐます。ちよつと高め。

読売新聞の土曜夕刊に連載していたものから、50路線を選んで収録したのが本書なのださうです。選ばんでも良かつたのに。分厚くなつても良いから(或は分冊でも可)、全てを収録して頂きたかつたですなあ。そして、連載といふ性格上仕方がないのかも知れませんが、一路線につきもつと頁を割いて欲しいと願ふのはわたくしだけでせうか。せつかく取材に行つて、僅か4頁で纏めるのはいかにも勿体ない。

さう思はせるのは、言ふまでもなく内容が充実してゐるからこそであります。
まづは路線の選択。くりはら田園鉄道や三木鉄道のやうに、ごく最近まで走つてゐたものから、「日本瓦斯製造専用線」「蹴上インクライン」みたいに「何ソレ?」と言ひたくなるやうなメイニアックな路線まで、変化に富んでゐます。
そして個人的に嬉しいのは、地元名鉄線が4路線も収録されてゐること。全体の割合からすると、かなりの高率ではありますまいか。もつとも、それだけ多くの名鉄線が廃線となつた証左でもあり、単純に喜べぬのですが。

一口に廃線跡と言つても、その興味対象は幅広うございます。橋脚・トンネル・駅舎・プラットホーム・レール・架線柱......それらが完全に形として残つてゐるものもあれば、朽ち果てて辛うじてその面影を偲ばせるものも。
著者はそれらの全てに愛情を注ぎ、まるで旧友を訪ねる旅のやうに廃線跡を目指すのです。ノンフィクション作家らしく、地元での聞き込み、取材も万全であります。

鉄道からクルマ中心の社会となり久しうございます。いくら地元(私企業や自治体など)が躍起となつても、国が進めてきた政策には抗へません。しかしよく言はれることですが、鉄道が廃止されてその土地が発展したといふ例は無いのであります。寧ろ廃線後、雪崩を打つかのやうに過疎化、衰退化が促進されるのでした。三木鉄道で働いてゐたといふ男性の話にも「鉄道がなくなることは、町の活力がなくなることなんだよ」とありました。
梯久美子さんは抑制された文章の中に、地元の人々と触れ合ふ中で、控へ目ですが文明批評もちらつかせてゐます。声高に主張しない分、読者が考へる余地を残してゐると申せませんかね。

作家としての鑑賞眼の確かさと、テツとしての専門知識の豊富さが安心感を与へる最強の一冊ですな。ふと、この人に「阿房列車」を走らせて(執筆の意)欲しいなあと思ひました。
残念だつたのは、わが地元の「三河広瀬」駅にて、豊田名物「五平もち」を食して頂けなかつたことですな。2010年の取材だといふことですが、その後五平もちとの対面が実現したのかどうか、気になるところであります。

ぢや、又お会ひしませう。ご無礼いたします。



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