源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
明治・父・アメリカ
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明治・父・アメリカ

星新一【著】
新潮社(新潮文庫)刊
1978(昭和53)年8月発行
2007(平成19)年11月改版

生誕90年を迎へる星新一であります。ショートショートで有名な人ですが、ここでは『明治・父・アメリカ』が登場します。書名の通り、星氏の父君である星一の評伝小説であります。
父を描いた作品としては、既に『人民は弱し 官吏は強し』といふ傑作がございますが、これは星一が既に製薬事業を成功させた後の話でした。その前の段階を語つたのが、『明治・父・アメリカ』であります。

星一は明治6年、父・喜三太と母・トメの長男として生まれ、佐吉と名付けられました。幼名ですな。
喜三太は怖い存在だが学問に理解があり、自身は地元の戸長や村長を歴任した人。トメはとにかく働き者で勤勉家。親切で慈母のやうに慕はれたと伝へられます。星一の性格は、この母親譲りではないでせうか。現在に残る星一の写真を見ると、何とも慈悲深い顔つきであります。

学問に目覚めた佐吉は、地元(現在のいわき市)の学問所では飽き足らず、上京して親元を離れます。成人すると、父から「一」の名を与へられ、更に米国留学を目指すのであります。両親の理解があつてのことで、当時は「学問なぞすると、理屈ッぽくなつていけねえ」などと言つて、家の手伝ひをさせる親が多かつた時代に、実に先進的な家庭でした。

米国では他人に頼らず自活しなくてはいけません。アルバイトを何度も首になりながらも、次第に周囲の信頼を得るやうになるのです。そして渡米2年で、目標のコロンビア大学入学を果すのであります。
かう書くといかにも順調に事が進んだかのやうですが、これがまあ苦難の連続で、浮き沈みを繰り返しながら、前進するのでした。

何よりも、星一が道を切り拓いて行けたのは、本人の努力に加へ、当時の米国に自由の気風が満ち満ちてゐたからだと存じます。金の工面に困り、授業料が半額しか出せないから、とりあえず半年分だけ受講させてくれ、残りは必ず金を作つて払ふから、なんて申し出にも、熱意を認めてOKを出すとか。官僚的なところが無いのが嬉しい。
無論米国にも暗黒面があり、侵略と略奪の歴史とも言へるでせう。それでもなほ、明治日本が手本にするだけの度量を備へた国家であつたと申せませう。

『人民は弱し 官吏は強し』では、国家権力と結びついた官憲に行く手を阻まれる姿が痛々しいのですが、本書ではひたすら明るい未来を感じさせる、実に爽やかな青春物語となつてゐます。
文章も平易で読み易く、しかし通俗に流れない格調の高さも併せ持つてゐます。年少者にも薦めたい一冊と申せませう。



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