源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
新幹線食堂車青春日記
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新幹線食堂車青春日記

南洋志【著】
文芸社刊
2014(平成26)年8月発行

南洋志さんといふ方は存じ上げませんでしたが、文芸社なので自費出版でせうか。「みなみひろし」といへば、東映の故・南廣さんを連想しますね。たぶん無関係だと思ひますが。

実は古本屋にて、分厚い背表紙に『新幹線食堂車青春日記』と書いてあるのを発見し、購買したものであります。南洋志さん(ペンネーム)のプロフィールを見ると、わたくしなんぞよりも可也先輩でした。若い頃に新幹線の食堂車で働いてゐたさうで、本書はその経験を元に書いたフィクションであるといふことです。

「なに、新幹線に食堂車だと?」と思つた人もゐるかも知れません。確かに1964年に東京―新大阪の東海道新幹線が開通した時、乗車時間の短さから(当初の「ひかり」は両都市間を4時間運転、翌年から3時間10分運転となる)、食堂車は需要はあるまいと判断され、軽食を供するビュッフェのみの営業でした。
それが1975年に山陽新幹線が博多まで延伸されると、東京から通して乗ると7時間くらゐ(当時)かかるといふことで、供食サアヴィスの充実を図る必要が出てきて、新幹線にも食堂車の登場となりました。
しかし長距離の新幹線は航空機に客を奪はれ、比較的短距離移動(おほむね3時間以内)の乗客が多数となり、食堂車は次第にその役割を終へてゆくのでした。

南洋志さんが食堂車で働いてゐた時期は、1977~1989年といふから、まさに新幹線食堂車の歴史そのものであります。
もつとも、学校を出てすんなりと就職が決まつた訳ではなく、大学を中退した後、今でいふニート、ひきこもりを経験しました。これではいかんと、社会復帰を目指すが、出来さうな仕事が見つからない。そんな中、「これなら出来るかも」と応募したのが、新幹線の車内販売のアルバイトでした。
その後24歳で晴れて正社員に。もつとも、正社員になつた途端に給料から控除される税金や保険料にびつくり。アルバイトの時よりも手取りが少ないぢやないか!

早くも転職を考へた南さん(ナンちゃん)に、先輩の奈々ちゃんが思ひ留まるやうに説得します。これを機に、奈々ちゃんとの距離がグンと近くなり、しばしば二人きりで飲みに行く仲になります。でも、彼女には海外に彼氏がゐるらしい......
一方、やはり先輩ながら年下のミューちゃんとも仲良くなります。元元彼女とは、些細なことがきつかけで気まづい間柄だつたのですが、彼女に付き纏ふストーカー野郎を追ひ払つたことで、すつかり打ち解けてしまつたのです。案外モテるナンちゃん。
ミューちゃんの両親にも気に入られ、これは結婚も近いのではないかと思はれた二人ですが......

食堂車の内幕みたいな話はほとんど無く、そこで働く人たちの人間模様が中心であります。きつい職場らしく、人の出入りが激しい。中中新人が定着しないばかりか、チーフまで辞めてしまふ。スタッフは右往左往であります。そんな中でもナンちゃんはギャンブルにも興じ、風俗にも通ふ青春をそれなりに謳歌してゐるやうです。
そしてナンちゃんの恋の行方はどうなるのか? 奈々ちゃんとミューちゃんの間で揺れる心。気になるところであります。

特に期待をせずに読み始めた本書ですが、これが案外(と言つては失礼ですが)面白いのです。登場人物はかなり多いのですが、各人の性格付けもしつかりとなされてをり、500頁を超す大作ながら、ぐいぐいと読めるのであります。
関西人らしいユウモワもうまい具合に加味され、青春のほろ苦さ、切なさが表現されてゐました。ちよつと得をした気分と申せませう。

では本日はこれにてご無礼します。また逢ふ日まで。



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