源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
1200食のマーケティング
51-PU7fxt1L__SX350_BO1,204,203,200_

1200食のマーケティング

黒田節子【著】
商業界刊
1988(昭和63)年9月発行

1200食とは、人が一年で取る食事のことらしい。一日三食+αとして、このくらゐになるだらう、といふのが著者の弁であります。ちよつと多いのではないかとも思へますが、まあ感覚的なものなので、専門家に任せませう。
仮に1200食として、この数字が今後劇的に増える事はまづ考へられませんね。しかも今後は人口減社会に突入しますし。カミカゼタレントは一日に5食も6食も取る人がゐるさうですが、一方で一日一食で済ます人もゐるでせう。
この1200食を、外食産業やらSMやらCVSやらが奪ひ合ふ訳です。

日本においては、「家族」とか「世帯」の観念が大きく変化してをります。それが食事の内容にも反映されていて、家庭の食卓がどのやうに変化したかを辿つてゐます。
周知の如く、かつての家庭の台所は、専業主婦といふ存在が一手に握つてゐました。「杓子権」「杓子渡し」なる伝統があつたのですね。勉強になるなあ。

それが、核家族化や有職主婦の増加、外食産業の発達などで、家庭の食事に変化が表れます。
形態としては、より少人数のための食事。「個食化」「小食化」「孤食化」
作り手の側から見ると、調理の外注化。即ち調理済み食品、ひと手間だけで食べられる(主婦が「これも手間をかけてゐるのだから、立派な料理だわ」と、うしろめたさから免れるための)食品が主流になつた。

著者の見立てでは、この変化は1975(昭和50)年前後から始まり、四半世紀くらゐかけて、2000年頃に完成を見るといふことらしい。本書の出版は1988年なので、予言の書としても興味深いですな。
この一連の流れを著者は「素食革命」と呼称し、伝統的粗食から都市型の素食へ(「そしょく」の漢字に注意)変化が進行してゐると。
戦後しばらくの日本は、とにかく食べる物に飢ゑてゐました。商品が有るだけで売れる状態。需要が供給を完全に上回つてゐたのです。生活が豊かになるにつれてその需給関係が逆転し、競争状態に入りますと、商品の内容や店舗の利便性などが問はれるやうになりました。
つまり売り手または作り手側(川上)から、買ひ手(川下)側発想で商品開発をし、売場の構成を変化させる必要がある、といふことですな。

我我の食事を振り返つてみても、忙しい時にとりあへず腹に詰め込む食事から、時間をかけて優雅に楽しむディナーまで、同じ一食でもさまざまであります。著者は食事の類型を四つに分類し、夫々「素食型」「定食型」「あ・ら・かると型」「グルメ型」と称しました。なほ本来グルメとは、産地から食材にこだはり、自ら調理する人の事ださうです。美食家などと邦訳されたせいか、単に美味しい食事を求めて味はふだけの人もグルメと呼ぶやうになりました。著者は、さういふ人達を厳然と区別し、特に「都市型グルメ」と呼称してゐます。
つまり著者は、供食会社に対して、自分の強みと弱みを知つた上で、1200食のうちの何食に喰ひ込めるか、キチンと分析しなさいと提言してゐるのでせう。著者一流の皮肉も効いた、文化人類学的な面白さも併せ持つ、充実の一冊であります。




スポンサーサイト
コメント
コメント
コメントの投稿
URL:
本文:
パスワード:
非公開コメント: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
トラックバック URL
http://genjigawa.blog.fc2.com/tb.php/618-a6c0468e
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
トラックバック