源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
「子供を殺してください」という親たち
61NZIyVsAVL__SX349_BO1,204,203,200_

 「子供を殺してください」という親たち

押川剛【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2015(平成27)年7月発行

いかにも重さうな内容を示唆する表題であります。手に取るのを躊躇するところですが、何となく目を背けてはいけない事が書かれてゐるのではと思ひ、一読した次第なのです。
心の病気と一口に言つても、その内容は実に多岐に亘ります。例へば認知症。誰でも発症する恐れがあり、実際多くの人が罹患してをります。わたくしも血圧を下げる薬を飲んでゐる為、将来に影響がないか不安に思ふところです。発病して夜間徘徊し、踏切に立ち入り電車を止めることが無いと、誰が言へるでせうか。

そんな様々な精神疾患ですが、以前は「精神病」などと差別的に言はれて、「隔離」の対象でした。昔の映画なんかで、精神病と認定された人が、無理矢理精神病院に連れられて行き、本人は「俺はキ○ガイぢやない、正常だ!」などと叫んでも強引に鉄格子(!)の中に幽閉されてしまふ場面がありました。映画『マタンゴ』(本多猪四郎監督)でも、久保明が無人島での体験を話すが、余りに荒唐無稽すぎると思はれたのか、精神病院の檻の中に入れられてゐました。

著者は、精神を病んだ人たちを、患者本人を説得した上で(強引な拘束などは排除し)医療の現場へとつなぐ仕事をしてゐる人。精神疾患の中でも、内に籠る場合と、外に爆発するケースがあります。本書では主に、後者に属する実例を紹介してゐます。
もう成人してゐるのに、社会への適応能力が著しく低く、仕事も長続きせず、悪いのは皆他人の所為だと被害妄想に陥り、親や兄弟姉妹に当り散らし、暴力を振るい家中を破壊しまくり、近隣住民ともイザコザが絶えず、「このままでは殺される」と生命の危機さへ覚え、警察に相談しても「事件がなければ動けない、何かあつたら連絡して」といふことで、万策尽きた親が著者に相談に来るさうです。その究極の依頼が、本書のタイトルになつてゐます。

著者は既に1000人以上を医療機関へ移送した実績を持つさうですが、その中で感じた問題や課題は、国レヴェルで解決しなければならぬ事が多いと。まづは、さういふ他人を殺傷する可能性がある患者は、どこの医療機関でも受け入れたくありません。運良く受け入れてくれても、やはりスタッフや他の患者とトラブルになつたり傷つけたり、病院の備品を損傷したりして、追ひ出されてしまふ。そしてかういふ、じつくりと長期で治療しなくてはいけない患者も、一律で最大三か月間しか受け入れてくれないのださうです。わづか三か月では、家に戻しても結局元通りで、何の解決にもならぬのであります。
何でも三か月以上入院させても、病院としてはカネにならぬのださうで。その辺の事情は本書を覗いてみて下さい。ここでも「最後は金目でしよ」といふ訳か。

著者は、かういふ患者たちの為に、専門の公益財団法人(スペシャリスト集団)の設立を提言してゐます。事実上、医療の現場から見離されてゐる患者たちは行き場がありません。放置は、即ち家庭の崩壊・殺傷事件の誘発を招きます。そのスペシャリスト集団は、経験豊かな警察官OBを中心に組織すれば良いと述べてゐます。せつかくの能力・経験を活かさないのはもつたいないと。
同時に著者は、患者の家族(多くの場合はその親)に対しても注文を付けてゐます。専門家に押しつけて、後はお任せします、ぢやあよろしくと、まるで他人事の親が多すぎるさうです。著者としては、むろん依頼を受ければ全力で解決に当るのですが、何よりも家族の理解と協力が必要であると。
子供の問題行動は、その親に原因がある場合が多いのではないかと、注意を促してゐるのです。憎まれるのを覚悟で(実際、この指摘には批判が多いさうです)問題解決のために敢へて苦言を呈す、といふところでせうか。

出口の見えない問題だけに、読後は重苦しさが残ります。しかし、知らないままだつたら、自分は偏見を持つたまま過ごすのだらうな、と思ひますので、やはり多くの人が目を通すべき一冊ではないかと存じます。

では今夜はこんなところで。御機嫌よう。



スポンサーサイト
コメント
コメント
コメントの投稿
URL:
本文:
パスワード:
非公開コメント: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
トラックバック URL
http://genjigawa.blog.fc2.com/tb.php/619-4ef1b747
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
トラックバック