源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
天使が消えていく
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天使が消えていく

夏樹静子【著】
光文社(光文社文庫)刊
1999(平成11)年4月発行

先月、惜しまれつつ亡くなりました夏樹静子さんの作品であります。
第十五回江戸川乱歩賞の候補作品となり、一躍注目を浴びた、いはば出世作と申せませう。(このときの受賞作は、森村誠一『高層の死角』)

砂見亜紀子は、地元福岡で婦人雑誌の記者をしてゐます。取材先の病院で、難病の赤ん坊(ゆみ子)を知り、「天使のほほえみ」に魅せられて何かと世話を焼きます。難病ゆゑ、手術にはお金がかかるのだか、どうやら母親にはその余裕がないやうです。
ゆみ子のことを記事にしたところ、早速反応があり、年配男性が35万円を持参してくれ、お陰でゆみ子の手術は成功します。
しかし、現れた母親、神崎志保は「余計な事をしてくれた」とばかりの対応で、けんもほろろであります。ゆみ子は退院後、母親の志保と暮らすのですが、亜紀子は志保には任せておけないとばかりに、家まで押しかけてゆみ子の面倒を見るのでした。

一方、博多の繁華街にある「ホテル玄海」で、殺人事件が発生します。被害者はやはり地元博多の電機会社の、宮﨑支店長。続いて、「ホテル玄海」の社長もまた変死を遂げ、博多署の捜査一課警部補である巽四郎が捜査に乗り出します。

砂見亜紀子と巽四郎の視線が交互に繰り返されながら、物語は進んでいきます。この両者が、どこでどんな風に交はり、謎が解かれるのか。まことに目が離せぬ展開なのであります。

亜紀子は考へます。神崎志保の、ゆみ子に対する冷たい態度は、本心なのだらうか。しかし生後三か月の赤ちやんに、300万円の生命保険までかけてゐることまで分かつたのであります。
亜紀子は実は妻子ある男性とお付き合ひしてゐます。テレビのディレクターで、彼女は信頼を寄せてゐますが、その彼にして「子供を愛さない母親って、あるかしら」といふ亜紀子の問ひに、「あると思うね」と答へるのであります。

夏樹静子さん自身が、長女を出産して子育てをする経験を経てゐるだけあつて、「天使」といふ表現にはまことに実感がこもつてゐます。事件を解明する鍵も、やはり「母性」が決め手だつたと申せませう。
最終章の神崎志保の手記を読んで、心が動かぬ人はさうありますまい。如何なる小説でも、必要なものは「感動」であると喝破した夏樹さん。従来の男性作家では決して書けなかつた作品だと存じます。注目を浴びたのも当然でせうね。ぢや、また。



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