源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
アイスクリン強し
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アイスクリン強し

畠中恵【著】
講談社(講談社文庫)刊
2011(平成23)年12月発行

先達ての5月9日は「アイスクリームの日」でした。日本で初めてアイスクリームを販売した日なのかと思つたら、さういふ訳でもないやうです。日本アイスクリーム協会とやらの商策により、1965(昭和40)年に制定されたさうです。
日本初のアイスクリーム販売は、明治2年、横浜の「氷水屋」によるもの。当時の呼称は「アイスクリン」。此方の方が原語に近いのですがね。昔の日本人は、耳で聞こえた通りの表記をしてゐました。ステンショ(station)とか、ヘボン(Hepburn )とかね。わたくしは天邪鬼なので、「オードリー・ヘボン」とか、「ヘプバーン式ローマ字」などと口にしては嫌はれてゐます。

といふ訳で、いささか強引ながら『アイスクリン強し』。
物語の舞台は明治の23年くらゐですかな。『しゃばけ』シリーズよりも時代が下つてゐます。登場人物は20代前半の若者たちが中心ですが、新しい時代に対応しやすいと思はれるそんな若者ですら、江戸から明治への大変化には戸惑つてゐるさまが見てとれます。
主人公は良く分からないけれど、タイトルからして多分、洋菓子屋の皆川真次郎なる若者。そして「若様組」を名乗る、若手警察官の面々。この若様組は、元元士族の跡取りたちだつたのですが、御維新でその身分を失ひ、警察官となつてゐる集団であります。そして成金の娘・小泉沙羅を加へたメムバアで、話が進んでいきます。

「序」に続いて、「チヨコレイト甘し」「シユウクリーム危うし」「アイスクリン強し」「ゼリケーキ儚し」「ワッフルス熱し」の5編が並んでゐます。美味しさうなタイトルであります。
といふことは、真次郎くんが作る洋菓子が話の中心になるのかと想像したのですが、実際は若様組・真次郎・沙羅が、その周辺で起こる様々な事件に巻き込まれるてんやわんや(死語か?)の物語でありました。活劇あり、ミステリイありの群像劇も悪くはありませんが、せつかくの洋菓子屋「風琴屋」が生かされてゐないのは残念であります。

ところで、「序」では若様組の面面と真次郎くんに、「若い御仁方へ」といふ匿名の手紙が届きました。その手紙には、二つの指令が提示されてゐたのです。即ち、手紙の送り主を突き止める事と、送り主が欲してゐるものを考察してそれを手に入れる事。奇怪な話ですが、彼らにはあまりにも多くの出来事が降りかかるので、結局謎が解けたのは最終章でした。しかしどうもスッキリしない幕切れ。
などと思ふのは、わたくしの頭が硬直化してゐるからでせうか。きつとライトノベルとやらを好む人なら、愉しめる一冊かも知れません。

とりあへず、アイスクリンを食べたくなつたので、冷凍庫を覗いてきます。再見大家。



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