源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
報道が教えてくれないアメリカ弱者革命
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報道が教えてくれないアメリカ弱者革命

堤未果【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2010(平成22)年11月発行

米国の威信が失墜したなどと喧伝され始めてから久しいですが、それでもなほ「唯一の超大国」「世界の警察」としての存在感は保つてゐるものだと、何となく思つてゐました。
しかし『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』を読みますと、いかに米国人自身が疲弊し、迷走してゐるのかが分かります。事情通ならとつくに知つてゐることなのでせうが、無知なわたくしは初めて知ることも多いのです。書名にもあるやうに、報道されぬ事項が多すぎることもあります。

飢餓人口が4200万人とか、医療保険未加入(貧困の為)が4700万人とか、乳児が一日平均77人死んでゐるとか......およそ先進国とは思へない数字が次々と出てきます。
著者の堤未果さんは、あの同時多発テロ事件(いはゆる「9・11」)を目撃(たまたま隣のビルで勤務中だつたさうです)し、それ以後「テロとの戦ひ」に突入してゆく米国の暴走ぶりを目の当たりにした人。『ルポ貧困大陸アメリカ』などといふ著書もあり、この国の貧困層と呼ばれる人たちを精力的に取材してゐます。

2004年大統領選(共和党ブッシュ×民主党ケリー)にて導入される電子投票に反対して、55日間もハンストを続けた青年がゐました。彼は堤さんに、強引に自分を取材するやうに仕向けるのでした。米国のメディアはコントロールされてゐる。ならば外国のメディアに期待するしかない。
前回2000年の選挙(共和党ブッシュ×民主党ゴア)でも電子投票は一部で導入されたのですが、機械の信頼性に大きな問題があるのださうです。フロリダ州では、ブッシュにプラス4000票、ゴアにマイナス(!)16000票入るといふ間違ひがあつたとか。しかも再集計の必要なしと判断されたと。この機械の製造元会社のCEOが熱心な共和党支持者であることも疑惑を呼ぶ材料ですな。

結局ハンストもむなしく、2004年もブッシュが再選されました。しかし出口調査ではケリー有利でした。かうした逆転現象は、2000年でもあつたさうです。そして電子投票機は、やはり各地でトラブル続き(予定通りか?)であつたと。ある投票所では「ケリー」を選択しても、必ず「ブッシュに投票でいいですね?」と画面に出る不具合があり、それは最後まで放置されたとか。
また、機械の絶対数が足りないため、投票まで6時間待たされたとか、犯罪歴(スピード違反)があるから投票出来ないとか、8時間待たされた挙句、機械に不具合があるから投票出来ないと断られたり......ケリー支持の多い黒人居住区や貧困層が多い地域の話です。
ううむ、どこかの独裁国家の話みたいですね。先進国で起きてゐるとは、俄には信じ難いのですが、色色信じられない事が起きるのも米国であります。

また、米国の徴兵制の実態もルポしてゐます。向学の志があるのに、貧困ゆゑ大学進学を諦めざるを得ない層が、リクルーターと呼ばれる勧誘員の言葉巧みな甘言により徴兵に応じます。学費は軍が出すとか、実際には前線での戦闘はしないとか、卒業後のバラ色の進路とか。
しかし実際は、かういふ若者たちが真先にイラクへ派兵されて、人間扱ひされぬ殺人マシーンとして消耗させられるのでした。
それでも堤未果さんは、絶望することなく、まだこの国には希望があると諦めてゐません。ポジティヴであります。「革命を起こすのはいつでも弱者だ」といふ、黒人女子高生の言葉を紹介して。

現在行われてゐる次期大統領争ひでも、格差解消を訴へるサンダース氏が最後まで若者たちの間で人気を保つてゐたのも、問題発言だらけのトランプ氏が共和党の候補として残つたのも、米国に漂ふ閉塞感のやうなものを打破して欲しいとの願ひがあるのでせうかね。ただ、こんな時は「ヒトラー」が出現しやすい。日本でも要注意ですよ。
デハ今日はこんなところで、ご無礼いたします。



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