源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
プリズン・ガール
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プリズン・ガール アメリカ女子刑務所での22か月

吉村朋美【著】
新潮社(新潮文庫)刊
2008(平成20)年8月発行

毎日暑いですね。もう聞き飽きたフレーズでせうが、暑いものは暑い。読書慾も失せるのであります。否すべての活動が億劫になる。こんな時わたくしは、漫画『じゃりン子チエ』のワンシーンを思ひ起こすのです。
チエと父親のテツが通りを歩いてゐます。あまりの暑さにチエが「暑いなあ」とつぶやくのですが、それに対するテツの返答が良い。ただ一言、「夏やんけ」。このセリフを言はれたら、暑いなどと文句を垂れるのが莫迦らしくなつてきます。けだし名言と申せませう。「夏やんけ」。

と、萎へる心を奮い立たせたところで、『プリズン・ガール』の感想文をちよつとだけ。
著者の有村朋美さんは、24歳の時、在住してゐた米国にニューヨークにて、ドラッグの密売に関与したとしてFBIに突如逮捕されます。わたしはやつてゐない!と心で叫びますが、容赦なく冷たい手錠がかけられ、その一年後に有罪判決を受けるのです。懲役二年。

で、連邦刑務所へ入所するも、案外好い加減なシステムであるらしい。いや、システムは決まつてゐても、それを運用する人間がかなりアバウトであるさうです。例へば入所時に相対した、オフィサーと呼ばれる刑務官は、所持品のすべてを持ち込み付加と断定したのですが、実は現金はOKだつたのであります。しかしなすすべなく言はれるがままになるしかなく、現金を持ち込めずに苦労したとか。
連邦女子刑務所(FCI)自体もかなり適当で、新入りにするべきオリエンテーションは一切なく、有村さんが入る部屋が決まらないからといつて、三日間も「懲罰房」に閉ぢ込められたりして(これは違法らしい)、あるおばさんオフィサーは「あなたの入所記録がまったくないわ。よくこんなんで入ってこれたわねえ」と驚いたとか。とにかくオフィサーたちのミスが多く、不安なのです。

FCIでの生活は、基本的に不自由はないやうです。シャワー、電話、テレビ、ランドリー、電子レンジは自由に使へ、レクリエーションルームに運動場が開放されてゐる(消灯時間まで)。朝起きる時間も実質自由で、点呼も一日一度だけ。売店では大概のものが揃ふ。
そして心が触れ合へる仲間も出来ました。FCIは社会の縮図、弁護士さんが言ひ放つた「アメリカの刑務所はそんなに悪いところじゃないですよ。いわば、大学の寮みたいなもんです」といふ言葉も頷けます。

しかし当然、良いことばかりではありません。何しろ筋金入りの囚人たちの集まりですから、ランドリーの順番など些細なことで喧嘩が発生します。喧嘩に対しては、懲罰房入りとか刑期が長引くとか、厳しい罰則があると言ひます。例へ自分は手を出さずに一方的にやられても、「喧嘩両成敗」で双方同罪になるさうなので、基本的に囚人たちは喧嘩を避けるのですが、思はぬ事がきつかけで、普段溜つてゐるフラストレーションが爆発すると、もう手が付けられぬ場面になります。流血騒ぎも当り前の凄惨な現場が展開されるのです。周囲もとばつちりを恐れるので、傍観者に徹するのでした。

有村さんはその後連邦刑務所から州刑務所へ移り、22か月の獄中生活が終ります。彼女は日本へ強制送還され、二度と米国の地を踏む事が許されぬ立場。尋常ならざる経験を数多く得た有村さんは、この獄中記を執筆したといふ訳です。
面白いのは、文中ではいろいろとしおらしく殊勝な態度を見せますが、多分彼女は全然反省はしてゐないだらうな、といふのが見てとれるところですな。被害者意識が丸出しなのが愉快であります。
いやいや、皮肉で申してゐるのではありません。並の人間なら「ああ、アタシは莫迦だつた」と凡庸な事を言ひさうですが、協力者でライターの藤井良樹氏によると、本を書くキツさに比べれば、一年FCIに入つた方が良いと述べる人物であります。この心臓の持ち主だからこそ、かかる楽天的な一冊が誕生したのでせう。

デハ今回はこの辺で。



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