源氏川苦心の快楽書肆
古い本を探しては読みふけつてゐます。よければお付き合ひくださいな。
韓国・サハリン鉄道紀行
無題

韓国・サハリン鉄道紀行

宮脇俊三【著】
文藝春秋(文春文庫)刊
1994(平成6)年8月発行

韓国とサハリンを並べられると、その気になればいつでも行ける韓国に対して、中中自由には渡航できぬサハリンの方により興味が湧くのは致し方のないことろであります。
鉄道事情に関しても、韓国はプロアマ問はず様々な人が紀行文を公にしてゐます。乗る列車も、たいがい「セマウル号」と相場が決つてをりますので、宮脇氏の「韓国鉄道紀行」もまあ似たやうなものかな、と若干高をくくつてゐたのであります。無礼な奴。

ところが、韓国行のきつかけはそもそも鉄道ではなく、「日本通史の旅」の取材のためでした。韓国を訪れるのは実は初めてだつたさうです。だいたいこの人、海外は三十数か国も訪問してゐるのに、近隣の国ほど後回しにする傾向がありますな。
で、実際に訪韓しますと、史跡の他にも、韓国人やポン引きや、もちろん鉄道のことなどを書いてみたくなり、「鉄道紀行」が誕生したのださうです。
この時期の宮脇海外本の傾向として、編集者や現地ガイド、時にはカメラマンまで同行する、宮脇氏の表現を借りれば「大名旅行」が一般的になつてゐましたが、この韓国紀行はどうやら基本に立ち帰つて一人旅のやうです。少なくとも、一人旅の如く描写してゐます。同行者を肴にするのも良いですが、やはり一人旅が引き締まる。わたくしは勝手にさう思つてをります。

行程は本人が決めただけあつて、無駄がなく、かつ必要な要素は全て入つてゐます。ソウル-大田-公州-扶余-論山-全州-麗水-釜山-慶州-安東-ソウルといふルウトを一週間で廻る。韓国ひとめぐりの観光も兼ね、メインの史跡巡りは公州、扶余、慶州でたつぷり時間を取る。鉄道に関しては、四種の種別に全て乗るバランスのよさであります。
四種とは、①セマウル号(特急)、②ムグンファ号(急行)、③トンイル号(準急)、④ビドゥルギ号(各駅停車)。宮脇氏は海外ではいつも、特に庶民の臭いがする各駅停車に乗りたがるのでした。

一人旅とはいへ、道中様々な人たちに助けられます。特に慶州の仏国寺で声をかけられた初老の男性・尚さんは不思議なほど親切にしてくれます。日本で親切にされたから、恩返しと述べますが、それにしては過剰なもてなしぶりで、尚さんの家族は内心迷惑だつたのではと気遣ふほどでした。
また、ホテルのボーイ青年も親切でしたが、女の子を紹介するのに熱心すぎて、こちらはどうも好感が持てませんなあ。
再訪したいとの思ひを持ちつつ、「アンニョンヒケプシオ韓国」と締めるのでした。

サハリン鉄道紀行」は一転してツアーであります。冷戦時代などは、鉄道による観光ツアーなんて夢のまた夢でしたが、ゴルビーのペレストロイカ政策で、外貨獲得の目的もあり、門戸が開かれたといふことです。
しかし行程的には大いに不満で、全体の一部しか乗れないことになつてゐます。ユジノサハリンスク(豊原)を中心に行つたり来たりの、同じ路線を何度も走る無駄なルートであります。外国人観光客を迎へるには、かういふルートにならざるを得ないさうです。そとづらの良い面しか見せたくないのでせう。
しかもツアー料金が莫迦に高い。五泊六日で28万5000円。しかも東京発ではなく、稚内集合・解散であります。外貨欲しさが高じてソ連(当時)が日本人の足許を見たのでせうか。

と、何かと不満の多いツアーですが、とにかくこれに参加しないことにはサハリンの鉄道に乗れないのです。それにツアーならではのメリットもあります。
それは、同行者がテツばかりですので、気を遣ふこともなく、様々な情報交換の場にもなつてゐます。その面面は、竹島紀元氏、斎藤雅男氏、小池滋氏、徳田耕一氏と錚々たるメムバア。特に斎藤氏のコメントは目の付け所が違ひ、ユウモワもあります。そして我が宮脇氏は、お馴染み文藝春秋の加藤保栄氏(後の作家・中村彰彦氏)を同行。こんな人たちと旅をすれば、どこであらうと刺激的ですな。

戦前に日本が敷設した鉄道に、思ひを馳せる参加者。しかし最近のニュウスで、ロシアはサハリンに残る日本規格の鉄道を、ロシア規格に改修すると聞きました。むしろ、よくぞ今まで日本の狭軌規格で生き残つてゐたなあと。それだけサハリンは近代化から取り残されてきたのでせうか。
宮脇氏の感想で印象的だつたのが、夜の暗さ。ユジノサハリンスクのやうな大きな都市でも、夜の灯りが乏しく、実に暗いと。しかしこれが本来の夜で、日本の夜はケバケバしく明るすぎると指摘します。

ただ、ツアーが終り稚内へ着くや「やはり日本の方がいい」と、ネオン街へ繰り出し、冷えたビールを飲んだといふことです。こちらも本音でせう。



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